第185話 ココアのパウンドケーキ

「世話係にエクセリオンをつけましょう。彼と一緒なら集落の中を見て回られても良いですし、ご要望があればお申し付け下さい。」

「お気遣いありがとうございます!では早速お言葉に甘えさせて頂きますね!」


 せっかくエルフの隠れ里に来たのだからあちこち見て回りたい!と思ってたのを見透かされたのだろう。こちらから要望するより早く、村長さんから有難い提案をしてもらえた。


 好奇心が抑えられない人が約2名( 私とリアム君 )いるから、バレるのは仕方がないよね。


「見て回ると言っても、うちの集落は店があるわけでもないし、木と茶畑しかないんだが・・・。」

「それで大丈夫です!普段エルフの皆さんが生活している所を見たいだけなので、お気になさらず!」


 困惑しているエクセリオンさんに、リアム君が食い気味に、そして半ば強引に納得させている。何が何でも聖地巡礼をしたいリアム君の熱意は半端ない。


 そんなリアム君の勢いにエクセリオンさんが押された結果、集落の中をぐるりと一周する事に決まった。村長宅から出発し、時計回りにぐるりと一周する予定。


 MAPで見る限りそんなに広い集落ではないけど、そこにエルフが暮らしていると言うだけで見る価値は大いにある!


 早速世話係という名の見張りエクセリオンに連れられエルフの隠れ里を見て回る。


 見上げなければ家が建っている事さえ気付けない程、森の延長線のように生い茂る背の高い木々を見ながら歩いていると、あちこちから私達を見ている視線を感じた。


 そりゃ人間が隠れ里を歩いているんだから、警戒しない方がおかしい。むしろ危害を加えず見てるだけなら、突撃したいのを我慢しながらソワソワしているリアム君の方が余程危険だ。


「おばさん達は人間なの?」

「何でここに居るの?」


 遠巻きに見ている大人達とは違い、5人の子ども達が興味津々で近づいて来た。人間を初めて見るからか、大人と違って警戒心が薄いのかな。


「そう、人間だよ。村長さんに大切なお話があって来たんだ。」

「そうなんだ!じゃあお客さんだね!」

「私達が里を案内してあげるよ!」

「え?良いの?ありがとう!」

「あっ!こら!お前達、勝手な事は」

「「「「「こっちこっち~!」」」」」


 子ども達に手をひかれ、着いた所は青々と葉が茂った立派な茶畑だった。さっき飲ませてもらった緑茶の茶葉は、ここで作った物だろう。

 今も私達が来た事に気付いてないエルフ達が、楽しそうに目の前で茶摘みしている。


「これは壮観だね。」

「この世界でまさか茶畑を見る事が出来るなんて・・・。しかもエルフが茶摘みしてる貴重な光景をこの目で見る事が出来るなんて・・・。生きてて良かった!」

 大興奮中のリアム君は放っといて、気になった事を子ども達に聞いてみる。


「ここに来るまでに見かけなかったけど、野菜や果物は育ててないの?」

「野菜も果物も育ててるよ・・・。」

「でもすぐに枯れちゃうの・・・。」


 悲しそうな子ども達から詳しく聞いてみると、茶葉は沢山出来るけど、野菜や果物はどこで育てても、何をしても、どうしても育たないんだそうだ。出来てもほんの僅かな量で、住民全てが食べられる量には全く満たないらしい。


 だからだろうか。よく見ると、どの子もやせ細っている。本当に細すぎる。私の脂肪を分けてあげたいぐらいだよ。


 その後も里をぐるっと一周案内してもらい、村長宅前の少し開けた場所まで戻って来た。子ども達が一緒だからか、変なちょっかいをかけられる事もなく一安心。私達を警戒する視線は痛かったけどね。


「皆案内してくれてありがとう!お礼に一緒にケーキを食べない?」

「ケーキ?」

「食べ物?」

「美味しいの?」


 食べ物と聞いて興味津々で聞いてくる子ども達の目の前に、収納袋からお皿にのったケーキを取り出して置く。本日のケーキはしっとりココアのパウンドケーキ!


 ココアが冷泉で手に入るようになってから試行錯誤で作り上げた渾身のパウンドケーキ。

 ベーキングパウダーもホットケーキミックスもなく、ココアもパウダーじゃなくて液体。何度も配合を変えたりして作り直し、やっと満足のいく味になったんだよね。


「さあ召し上がれ~!」

 皆に勧めながら私も一切れ手に取り、齧りつく。


 パクリ


「う~~~ん!甘くて美味しい~~~!」

「大変美味しゅうございます。これは最近作っておられた新作ですか?」

「見た目が黒くてビビったけど、やっぱり桜が作る食いもんは何でも美味いな!」

「パウンドケーキ・・・また魅惑のお菓子を作り上げましたね。」


 クレマン、ヒューゴ、リアム君も躊躇無く食べている。なるほど。ココアの色は馴染みがないから、味の想像がつきにくいのか!皆がいつも何を出してもすぐ食いついてくれるから気付かなかったよ。


「こんな得体の知れない物を食べるのは止めとけ。」

「でも・・・おばさん達は美味しそうに食べてるよ?」

「いいから食うな。人間は信用ならない。」

「でも・・・・・。」


 子ども達はエクセリオンに止められ悩んでいたが、空腹に勝る物はなし。制止を振り切りパウンドケーキを手に取ると、恐る恐る少しだけ囓る。


「!!!美味しい!!!」

「すっごく甘い!!!」


 子ども達は歓声を上げ、手に持っていた残りのパウンドケーキを一気に食べてしまった。

 クレマンがそんな様子を微笑ましそうに見ながら、子ども達の分も紅茶を淹れている。


「おばさん、これ美味しかった!!!」

「果物より甘くてビックリしたよ!」

「もっと食べたかったなぁ・・・。」


 そう言う子ども達のお腹が、悲しそうな音を立てている。そんな切ない音を聞いてしまったら、もう少し何か食べさせてあげたい気持ちに駆られてくる。


 私が子ども達にご飯を食べさせたからといって、それは一時しのぎの偽善。同盟を結びたいだけのご機嫌取りだと思われるかも知れない。


 でも目の前の子達がお腹を空かせてるのに、見て見ぬ振りはしたくない。思いたいなら勝手に思わせておけば良い。後の事はその時考える!


 よし!そうと決まれば何作ろうかな。エルフの好物の野菜やフルーツを使ってお腹がふくれて大量に作れるもの・・・。そうだ!ピザにしよう!



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