第184話 緑茶

 暫く待っていると、集落から戻って来たエルフが私達の前に姿を表した。その後ろに木から下りてきたエルフ達が付き従う。

 絶句するほどの美男美女集団だね。いや~、眼福眼福。


 チラリとリアム君の様子を窺うと、目をキラッキラに輝かせながらエルフ達を見ている。思わず吹き出しそうになるのを必死で堪える。


「村長の許可が下りた。付いて来てくれ。」


 許可が下りたと聞いた他のエルフ達から批難めいたざわめきが起こるも、直接反対意見を上げる者は居なかった。さっきの手土産効果が発揮されたかな?


 イケメンエルフに村長宅へ案内してもらう道中、不思議な事に気が付いた。どこにも家が建っていないのだ。あるのはそこかしこに木が生えているだけ。まだ森の中に居ると錯覚しそうになる。


「あれ?家がない?」

「本当ですね。・・・あ!上を見て下さい!」


 リアム君に言われ上を見上げると、ツリーハウスのような家が木々の上に建っているのを見つけた。どうやらエルフ達は木の上に家を建てて暮らしているらしい。


 身を守る手段の一つなのかもしれないが、日本のコンクリートジャングルで生きてきた身としては、とても幻想的で憧れる。


「凄い!ツリーハウスだ!」

「これは中々壮観ですね。」

「落ちたりしねーのかな。」

「ヒューゴじゃないんだから大丈夫でしょ!」

「ヒューゴではないのだから落ちませんよ。」

「っておい!」


 クレマンやヒューゴとこんな風に軽口を交わすのも随分と久しぶりな気がする。

最近はそれぞれ忙しくしてたから仕方がないんだけど、やっぱり気の置けない仲間と一緒に出かけるのは楽しいな。


「着いた。この木の上に村長の家がある。」


 温泉街にもツリーハウスを造ってもらおうかな~などと考えていたら、いつの間にか目的地へと着いていたらしい。目の前には周りの木々より一回り以上大きな木がそびえ立っていた。


 その大きな木を一周するように作られた村長宅へ続く螺旋階段を上ると、周りのツリーハウスよりも大きな建物が見えてくる。そしてその建物の前に立っている美中年が、私達を出迎えてくれた。


「エルフの隠れ里へようこそおいで下さいました。私は村長のイシュリオンと申します。大したもてなしも出来ませんが、どうぞお入り下さい。」

「突然お邪魔してしまい申し訳ありません。お言葉に甘えさせて頂きます。」


 一見歓迎してくれてるかのようだけど、MAPでのマーカーは赤。敵意というよりは警戒してるのだろう。


 案内された席に着くと、薄緑色の飲み物が入った湯飲みのようなコップが目の前に置かれる。


「これはもしかして!?」

 思わずリアム君を見ると、リアム君も私を見て頷いている。


 湯気の立つ湯飲みを、火傷しないよう慎重に持ち一口啜ると、フワッと優しい新緑の香りが鼻を通り抜ける。


「やっぱり緑茶だ!心と体に染み渡る~~~!」

「・・・緑茶って久しぶりに飲むと、こんなにも美味しかったんですね。」


 私達のそんな様子が意外だったのか、村長さんが驚いたように見ている。


「お二方は緑茶を飲んだ事があるのですか?これは我が集落でのみ飲める秘伝のお茶なのですが・・・。」

「故郷では誰でも飲む事が出来たんですよ。とても懐かしい味です。」


 もしかして初代の先輩がこの集落に来た時に伝えたのかな。だとしたら湯飲みも緑茶もそのまま伝わっているのに得心がいく。


 収納から出した羊羹を皆に配り、緑茶を啜ってから一切れ囓る。やっぱり緑茶には和菓子が合うね。


 村長さんは私が配った羊羹を警戒していたようだったけど、私達が食べているのを見て、ほんの少しだけ口に入れる。


「これは・・・何とも甘い食べ物ですね。」

「豆で作ったお菓子で、とても緑茶と相性が良いんですよ。」


 余程気に入ったのか、羊羹・緑茶・羊羹・緑茶と繰り返し、あっという間に羊羹がなくなる村長さん。心なしションボリしているように見える。


 お茶とお菓子で一息ついた所で、自分がまだ自己紹介をしていなかった事に気付く。羊羹と緑茶のおかげで、すっかり打ち解けているようで今更感が半端ない。


「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ありません。改めて自己紹介をさせて頂きますね。私はカティアの森の中に温泉街を造った桜と言います。こちらは我が国の特産品です。手土産として持参しましたので、良かったらお納め下さい。」


 入り口でもチラッと見せた新鮮な野菜と果物がたくさん入った籠を、ドドンと収納袋から出し、村長さんの目の前に並べる。その数なんと10籠!良好な関係の為には出し惜しみはしませんよ。


「新鮮で瑞々しい野菜をこんなに沢山・・・。有り難く頂戴致します。」


 聞いていた量より多かったのが嬉しかったのか、少し言葉に詰まる村長さん。エルフ三姉妹のお墨付きの手土産で掴みは上々。


 私より話が上手いリアム君に話を引き継ぎ、同盟についての話しをしてもらう。


「なるほど、お話は分かりました。私としては是非お受けしたいのですが、さすがに私1人の一存ですぐには決めかねます。皆の意見も聞きたいので、今夜一晩泊まって行かれませんか?」

「泊めて頂いてもよろしいのですか!?」


 村長さんの提案に食いついたのはもちろん、エルフ大好きリアム君。お言葉に甘えて一泊させてもらいましょう!



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