第181話 希望
「えーーーっと?これどういう状況?」
オルランド王子とルリア王女に、フェデリコ達が話し合っている部屋へと案内してもらい中へ入った私は、思わずその異様な光景に混乱してしまった。
部屋の奥にある1段高くなった場所に設置された豪華な敷物の上で、コタロウとリュウが寛ぎながら大きな肉に齧りついている。
そしてその周りをライオンを筆頭に、多くの獣人達が囲んでいた。
ライオンだけでなく、他の獣人達も一様に瞳を輝かせて、コタロウとリュウを見つめている。アイドルか!!!
ベスティアへの入り口で見かけた、あの威厳ある表情は一体どこに行ったのだろうか。
そしてフェデリコ達は少しだけ離れた場所にある会議用と思われるテーブルの所から、その光景をなんとも言えない表情で眺めていた。
あれ?同盟締結の話し合いはどうなったの?
「桜ぁぁぁ!!!!!」
「桜ちゃーん!!!助けてーーー!!!」
部屋に一歩入ってから固まっていた私の姿を見つけたコタロウとリュウが、獣人達の頭上を飛び越え飛びついてくる。
ずっと見られてて相当ストレスだったのか、私に顔を擦りつけながら甘えてくる。可愛い。
「よしよし。2匹とも良く我慢したね。ありがとね。」
すぐにでも逃げ出したかっただろうに、私が来るまでこの惨状に耐えてたのだと思うと、2匹を撫でる手が止まらない。
獣人達からの突き刺さるような視線を全てスルーし、暫しのモフモフタイムを満喫する。コタロウとリュウも気持ちよさそうに、完全に身を任せて蕩けている。
私達がモフモフタイムを満喫していると、フェデリコが困った顔でこれまでの事情を説明し始めた。
どうやら同盟は問題なく締結出来たらしい。しかも条件も特になく、こちらが提案したままの内容で速攻サインをし・・・その後からずっとこの状態と。
まあ同盟が無事に結べたならそれでいっか!
「よお、久しぶりだなオルランド!」
「無事で良かった。」
「生きてるなら生きてると、さっさと連絡して欲しかったですけどね。」
私の後ろに立っているオルランド王子に、アンナとガイン、フェデリコが声を掛けている。フェデリコは言葉とは裏腹に、無事な姿を見て嬉しそう。全く素直じゃ無いよね。
「まさか3人とまた会えるとは思わなかったよ!君たちは今、桜ちゃんの所に居るんだって?」
「ああ!毎日驚きと刺激がいっぱいで、全く退屈しないよ!」
「料理が美味い。」
「ええ、ええ・・・朝から晩までこき使われて・・・本当楽しいですよ・・・。」
1人楽しそうな内容では無いけど、いつも通りスルーし、コタロウとリュウの目の前に桃のタルトを出す。
「新作の桃のタルトだよ!頑張ってくれたご褒美だから、たくさん召し上がれ!」
「「やったー!いただきます!」」
クリームをいっぱい口に付けながら、美味しそうにもぐもぐとタルトを頬張っている。はぁぁ~、想像通りのその姿。癒やされる~。
「そのケーキは見た事が無い!」
「桜!私も食べたい!」
「だ~め!これはコタロウとリュウの!また帰ったら作ってあげるから!」
今にもコタロウとリュウのケーキを取りそうな勢いのガインとアンナを何とか制止する事に成功!これは帰ったらすぐに作る事になりそうだな。
「ゴホン!ルリア、そちらの方は?」
さっきまで突き刺さるような視線を私に向けていたライオンが、コタロウとリュウの愛らしい姿に悩殺されながら、かろうじて残った理性で王女に説明を求めている。
「こちらは今回同盟を結んだ温泉街の国主である桜様ですわ。オルランド王子を探しに来られたのですわ。」
「その事でライオネル王にお話が。俺はシューレ王国の新たな国王になり、ルリアを皇后として迎えたいと思います。」
「何だと!!??」
オルランド王子とルリア王女からこれまでの経緯を説明し、2人がシューレ王国の国取りに対する強い決意を表明する。
「しかしだな・・・。」
「お父様お願いです!この子の時代には、獣人への差別を残したくないのです!」
ルリア王女は自分のお腹を愛おしそうにそっと撫でている。まさかとは思ってたけど、今の王女の発言で確定した。今ルリア王女のお腹には赤ちゃんが居るんだ。
「ルリア・・・分かった。国取りの際は、お前は私が全力で守ろう!」
「お父様、ありがとうございます!とっても嬉しいですわ!」
よほど嬉しかったのか、ライオン王に抱きつくルリア王女。何とも微笑ましい親子だね。
あれ?そういえばさっきからオルランド王子が一言も発してない。どうしたのかと隣に立っているオルランド王子を覗き込むと、驚いた顔で固まっていた。
「子・・・?」
「そうらしいですね。おめでとうございます王子!」
「子ーーーーーーー!!!???」
どうやらまだルリア王女から聞いてなかったらしく、思わぬカミングアウトに驚き固まっていたオルランド王子。
後で知ったんだけど、どうやら異種族婚では子供が中々出来にくい傾向にあるそうだ。まさに希望の子だね。
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