第180話 馬に蹴られそうな桜

 桃のタルトを食べ人心地着き、改めてオルランド王子はフェデリコからの手紙を読んでいる。

 ケーキも食べてしまったし、待ってるだけの私は正直手持ち無沙汰。他のスイーツを出すとまた話しが脱線しそうだし、ここは我慢して待つしかないか。


 暫く待つと、手紙から顔を上げたオルランド王子が、困った様に話し出した。

「実は俺、ベスティアの第二王女と結婚してて、今の名前はオルランド・ルース・ラ・ベスティアって言うんだよね。」


 うん、知ってる。使える魔法やスキル、光の神の加護を持ってる事も、何なら君が大の女好きって事も知ってる。


「あれ?驚かないんだね?」

「いえいえ、十分驚いてますよ。」


 私の反応が薄いのが残念だったのか、オルランド王子は少しがっかりした様に背もたれにもたれ掛かった。

 いやいや、本当に驚いたんですよ?まあ、驚いたのは鳥姿で鑑定した時だけど。


「実はシューレ王国と平和協定を結びたかったのは、俺が第二王女と恋仲だったからなんだ。」

 オルランド王子は一口冷めた紅茶で喉を潤した後、行方不明になった経緯を話し始めた。


 5年前、個人的に親交のあった獣王国の皇太子の元を訪れた際、ベスティアの第二王女と恋に落ちた。

 オルランド王子は彼女との結婚に向け、シューレ王国とベスティアの関係を深めようと、平和協定を結ぶ事を当時の国王に進言した。


 人族至上主義の貴族の反対もあったが国王が賛成し、平和協定を結ぶ方向に話しは纏まった。そしてオルランド王子が自ら使節団に志願し、護衛の騎士と共に獣王国ベスティアへと向かった。


 しかしベスティアへ向かう途中、同行していた騎士の半数が暴徒化。いきなり背後から襲われ、多くの騎士達がオルランド王子を守る為、命を落としたという。


 王子は大怪我を負いながらも何とか獣王国まで逃げ切り、以来ベスティアで生き残った騎士達と共に匿われていたんだとか。

 そして王女様と結婚し、身を隠しながらも穏やかに暮らしている・・・と。


 これは困ったぞ。幸せに暮らしている人を、厄介事に巻き込んでも良いのだろうか?それとも他の手段を考えた方が良いんだろうか?


 仮に王族の血筋では無い人を国王に据えたとして、果たして貴族や国民が納得するのだろうか?現代に生きていた私は気にならないけど、この世界の人達の考え方が同じとは限らないし・・・。


「我が愚弟の所行を止めたい気持ちはもちろんある。だが私は、ルリアを幸せにすると誓ったんだ。彼女を危険に晒したくはない・・・!」


 どうしたものかと考え込んでいた私に、苦しそうな表情で自分の決意を話すオルランド王子。

 彼の決断は祖国を見捨てるといっているようなもの。そりゃそんな顔にもなっちゃうよね。


「分かりました。私も人の幸せを壊したくはないので、王子の意見を尊重します。私達で何とかしますので、王子は王女様と末永くお幸せ」

「それは承服しかねますわ。」


 私の話を遮るように、ベスティアに着いた時に迎えてくれた金髪ウサギ耳の女性が、扉を開けて入ってきた。

 話しに夢中でMAPの警戒を怠ってしまっていた為、今の今まで全く気が付かなかった。


 せっかくの魔法も、ポンコツな私にはいまいち使い切れない。それならそんな私に合わせれば良いのでは!?今度常時MAPを見て無くても、人が近づいてきた時に知らせてくれるように改良してみよう。


「私はオーリーに、シューレ王国の王になって欲しいですわ。そして我が国ベスティアと手を取り合い、獣人達への差別を無くして欲しいのです。その為ならば、私は潔く身を引きますわ。」

「ルリア・・・。」


 王女の強い決意にオルランド王子も気持ちを決めたらしく、涙ながらに別れを惜しむ2人。私の存在を忘れたのか2人の世界を展開しており、正直居たたまれない。


「・・・あれ?ちょっと待って?別れる必要なくない?獣人達への差別を無くしたいなら、むしろオルランド王子が玉座を奪還し、王女様がシューレ王国の皇后になるべきじゃない?」

「「えっ?」」


 二人揃ってポカンと口を開けている。人って驚いた時、本当に口が開いちゃうんだね。思わず笑ってしまったのは許して欲しい。


「そもそもオルランド王子は彼女と結婚する為に平和協定を結ぼうとしてたんじゃ無いの?今のシューレ王国から差別を無くすのは大変かもしれないけど、2人なら頑張れるんじゃ無い?国取りは私達も手伝うし。」

「それだ!!!」


 私の発言に驚き戸惑いながらも涙するルリア王女と、喜ぶオルランド王子。あ~良かった!これなら当初の予定通りに進められそうだね。


「ところでオーリー、こちらの方はどなた様ですか?もしや・・・。」

「いやいやいやいや!違うから!!!」

 しまった。自分が無断で侵入した事をすっかり忘れてた。


 オルランド王子に上手い事説明して貰い、無断侵入した件についてはしっかり謝罪し、何とか事なきを得た。

 あんなに可愛らしい見た目のルリア王女が、怒ると野生の猛獣のような目付きになるのにはさすがに恐怖を感じたよ。


 とりあえず一番気がかりだった私の任務も、どうにか話しが纏まったし一安心。後はフェデリコ達が無事に同盟を締結してくれる事を祈るばかりだね。



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