第179話 桃のタルト
MAPでオルランド王子の現在地を確認すると、相変わらずベスティアの中心部から移動してない。出来れば捕まっているのではなく、保護されていて欲しいな。
そう祈りながら、オルランド王子がいる部屋の隅へと転移する。
部屋の中を確認すると、日本人を彷彿とさせる黒髪黒目の美丈夫が、椅子に座って本を読んでいた。全くこれぽっちも現シューレ王国の王様と似てない彼がオルランド王子なのだろうか?まあ、鑑定すれば分かるよね。
オルランド・ルース・ラ・ベスティア( 38 )
HP 1500/MP 300
【魔法】
光魔法
【スキル】
王の威圧
【加護】
光の神の加護
【シークレット】
シューレ王国元皇太子。現在は獣王国第二皇女ルリアと結婚し、ベスティアの性に変わっている。女の子が大好き。
はい、シューレ王国の王兄オルランド発見~!38歳って事は私と同い年か。
・・・・・え?ちょっと待って?王兄殿下という事は、現国王は彼の弟なんだよね?って事は私より年下なの!?あの太ったおじさんが!?
あまりの衝撃的な現実に、10分ほど放心状態で突っ立っていた。我に返るのに時間がかかってしまったのは、仕方がないと思う。
年齢の他にも、鑑定結果に気になる点があった。それはスキルとシークレット情報。その中でも特に、この結婚しているという点。
もしかしたら私達の計画の大筋を変更せざるを得ない可能性もあるんだけど・・・まずは話してみてから考えれば良いか。行き当たりばったりとも言う。
皇女様と結婚したオルランド王子は、当然捕らわれてる様子も無く、お茶を飲みながら部屋で寛いでいる。部屋の周りには人の気配がない今が好機。
私は鳥の姿のまま、オルランド王子の元まで飛んでいく。いきなり人間が部屋の中に現れて叫びでもされたら、せっかくここまで隠れてきた意味が無くなるからね。
「おや?君はどこから入って来たんだい?」
鳥の姿の私に気付いた彼は、優しく話しかけながら、そっと頭や背を撫でてくる。これは良心の呵責が半端ない。
申し訳ないけど、このままただ撫でられているわけにはいかない。意を決してこの姿のまま話しかけようと決意したその時。
「君は女の子かな?それとも男の子?」
そう話しかけながら、徐に私の体を持ち上げ、下を覗き込もうとした。
「ぎゃあぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁ!!!触るなぁぁぁぁぁ!!!」
思わず王子の顔面に鳥キックをかまし、手から逃れた後、すぐさま変身を解く。
「誰だ!!」
「まずは謝れ!今すぐ謝れ!それと本当の鳥の性別は、目の周りやろう膜の色の違いで判別するのであって、決して下を覗き込んで分かるものじゃないからね!!!」
「は、はい!すみませんでした!」
私のあまりの剣幕に驚いたオルランド王子が、素直に謝罪してくる。いきなり鳥の性別を判別しようとするとは思わなかった。しかもあんな方法で。
いくら私がおばさんで、さらに鳥に変身していたといっても、さすがに抵抗がある。
今の騒ぎで誰かに気付かれたのではと少し焦ったけど、MAPを見る限り今のところ気付かれた様子はない。
深呼吸をしまずは自分を落ち着かせた後、警戒している王子にフェデリコからの手紙を渡す。
「大変失礼致しました。私は桜と申します。まずはその手紙をお読み下さい。」
「・・・・・分かった。」
オルランド王子が手紙を読んでいる間、私は王子の向かいの席に腰掛け、収納から紅茶とケーキを取り出し、しばしの休憩タイムを満喫する。
本日のケーキはあらかじめ作って収納しておいたフレッシュ桃のタルト!
作り方は簡単!ノアが作ってくれた型でタルトを焼いておく。そしてグレイソンが作ってくれたハンドミキサーで泡立てた生クリームをカスタードと混ぜ合わせ、生カスタードクリームを作り、タルトのベースを作る。
仕上げは、温泉街の畑でソーヤーが育ててくれた、甘くて瑞々しい桃をカットし並べ、バラの花を形作り、グラッサージュでツヤを出したら、フレッシュ桃タルトの完成です!
温泉街の総力を挙げて作り上げた渾身のケーキを、ギムルさんに作って貰った素晴らしく良く斬れるケーキナイフで8等分にカットする。そして1つをお皿に載せ、残りは収納へ。
「お・い・し~~~い!!!桃はコンポートにしなくても凄く甘くて生カスタードに負けてない!加工してない生のままだからこその瑞々しさが、口に入れる度にジュワッと口の中に広がっていく~。しかもそれがまた生カスタードと合うんだよね~!」
コタロウとリュウにも、あとで食べさせてあげよう!絶対大喜びで食べてくれるはず!
口いっぱいに生カスタードを付けながら、幸せそうに食べる姿を想像し、思わずほっこりしてしまう。
「あの・・・気になって手紙の内容が頭に入って来ないんだけど。俺には分けてはくれないのかい?」
「毒入りとか疑われたり、後々面倒な事になりたくないので無しで。」
「無し!?ま、待って!誰も疑ったりしないし、何かあったとしても自己責任だから!」
そこまで言うなら仕方ないな。私も目の前の人が食い入る様に見てる中、1人で食べるのも正直居たたまれなくはあったんだよね。
収納からケーキを1つお皿へ取り出し、オルランド王子の目の前に置くと、ゴクリと喉が鳴る音が聞こえた。
「どうぞお召し上がり下さい。」
「ありがとう!!」
嬉しそうにケーキをフォークで掬い、一口食べる。
パクッ
「~~~~~~~~!!!」
言葉にならない歓声をあげながら、夢中でケーキを食べるオルランド王子。私も負けじと食べ進め、お互いあっという間に完食してしまった。
「お代わりは」
「ありません!!!」
残りはコタロウとリュウの分だから、誰が何と言おうと絶対にあげません!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます