第175話 カツカレー

「もう食べられない~。」

「腹がはち切れそう・・・。」

「美味かった!!!もう少し食いたかったなー!」

「日本で桜がよく食べてた食べ物は、こんなに美味かったんだな!」

「桜ちゃんの大好きだったご飯を一緒に食べられて嬉しい~!」


 陽菜と優斗は限界ギリギリなのに、大河の胃袋はまだまだ余裕そう。カレーは飲み物のタイプですか!?それなら同士だね!


 コタロウとリュウは日本で私が作っていた時の匂いを覚えていたんだね。週末はカレー曜日だったから、そりゃ覚えちゃうか。


「おっ!嗅いだ事のない美味そうな匂いがする!」

「桜の新作か?」


 大満足でカレーの余韻に浸っていると、匂いにつられたアンナとガインがやって来た。しかし残念!もうご飯もカレーも完売です。


「一足遅かったね。もう食べ切っちゃったよ。」

「えぇぇぇぇぇぇ!?こんなに良い匂いさせといてそりゃないよ~!!」

「・・・・・・・。」


 食べたいとジタバタと駄々を捏ねるアンナと、しょんぼりして耳と尻尾が垂れている大型犬・・・もといガイン。もう、仕方ないなぁ。


「分かった分かった。カレーは作るから、ガインはご飯を炊いてくれる?」

「やったぁ!さすが桜!」

「作り方も見て良いか?」

「もちろん良いよ!」


 結局もう一度同量のカレーを作るはめになった。アンナとガイン、それに何故かさっき食べ終わった筈の大河も加わり、大量に作ったカレーは瞬く間になくなるのだった。




 カレーを食べた翌日、コタロウとリュウと朝の散歩を終え食堂へ行くと、リアム君が食堂の入り口で待っていた。そしてリアム君の隣には、何故か料理長も一緒に居る。


「待ってましたよ桜さん!酷いですよ!」

「ガインにだけ教えるなんて狡いです!」


 朝の挨拶もそこそこに、どうしてかいきなり罵倒されている。何か悪いことしたかな?思い当たることは・・・今は特にないんだけど。

 私が考え込んでいると、ため息をつきながらリアム君が説明を始めた。


「昨日ガインさんが料理長に、新しい料理を桜さんに教えてもらったと自慢していたらしいんですよ。」

「そうなんですよ!ガインだけ狡いです!私が桜様の一番弟子ではないのですか!?」


 ただ事じゃない様子で何を言うかと思っていたら・・・一体いつから料理長は私の弟子になったのかな?しかも一番弟子って事は、二番手以降もいるって事!?いやいや、聞いてないからね!?


「カレー、僕も食べたかったです!大好物なんです!」

「私にも作り方を教えて下さい!!」

「あー・・・カレーね。なるほどなるほど。えーっと、朝ごはん食べてからでも良い?」

「「もちろんです!!!」」



 朝食を食べてる間も2人がずっと私の後ろで待機していた為、正直食べた気がしない。ずっと見られていると食べにくい。

 料理長は私じゃなく、隣で美味しそうにパンケーキを食べているコタロウとリュウを幸せそうに見つめている。そこはブレないんだね。


 食堂に食べに来た従業員達に視線を向けると、誰も彼もがサッと目線を逸らしてしまう。

 いや、私が立たせてる訳じゃないからね!?座るように勧めても、固辞されただけだからね!?


 味を感じられない朝食を急いでかき込み、大熊亭へと移動する。コタロウとリュウは遊びという名のパトロールに出かけてしまった。


 カティアの森に来る冒険者が増えてからというもの、魔物による被害者は右肩上がり。だから最近は毎日魔物を間引きに行ってくれている。


「ではでは、カレーを作るとしますか!」

「「 おーーーーー!!」」


 私がご飯を炊いてる間に、野菜の下準備をしてもらう。収納からカレールーを取り出し、後は昨日と同じ要領でカレーを作る。


「2人はもう朝ごはんは食べたの?」

 もし食べていたなら、このカレーは昼食用だ。それならこんなに急がなくても良かったのでは?そんな思いがふとよぎり、カレーを煮込みながら何気なく聞いてみる。


「まだ食べてないよ!朝カレーを楽しみにしていたんだ!」

「私もまだです!新しい料理を堪能する為、食べていません!」


 今の時間は、普段であればとっくに食べ終わっている時間。って事は2人共腹ぺこだよね。

 どうせなら昨日と少し変えて、オークカツカレーにしよう!


 炊きたてほっかほかのご飯に、収納から出したオークカツを乗せ、最後に煮込んだカレーを少しだけカツにもかかる様にかけたら完成です!


「うわぁ!カツカレーだ!!!久しぶり過ぎて涙出そう!」

「これが新作料理ですか!この芳しい香りが食欲をそそりますな!」

「おう!これが桜の世界の料理か!美味そうだな!!!」


 ん?声が3人分聞こえたような?

 カレーをテーブルまで運びながら、リアム君と料理長が嬉しそうに話している後ろを歩いていると、背後からも声が聞こえる。


「なあ、俺もそのカツカレーってやつが食いたい!」

 振り返ると火神イシュトスが立っていた。あまりに突然現れた為、MAPでの確認がすっかり遅れてしまった。


「桜さんのお知り合いですか?それなら是非ご一緒にどうぞ!まだまだありますからね!」


 呆気にとられて私が返事が出来ないでいると、リアム君が新たなカレー仲間の出現に、嬉しそうに勧めている。

 これは食べ終わるまで、彼の正体は言わない方が良いよね。


 料理長が急いでイシュトスの分のカレーを準備し、私が仕上げにオークカツをカレーの上に乗せる。


「「「 いただきます!!!」」」


 3人がほぼ同時に一口目を頬張る。カレーの美味しさに涙するリアム君、一心不乱に食べる料理長、大絶叫で歓喜をあげながら口から火を吐くイシュトス


 三者三様に堪能しながらドンドンお代わりし、あっという間に大鍋が空になった。カレーは寝かせた方が美味しいって言うけど、全く残らないから寝かせられないんだよね。

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