第176話 言い逃げ
「桜よ!このカレーというのは美味いな!また作ってくれ!」
「本当に美味しかったです!!僕、温泉街に来て良かったです!」
「初めて食べる味でしたが、大変美味しかったです!作り方も覚えましたし、これでいつでも作れます!」
大鍋カレーを完食し、大満足な様子の3人。一番食べてたのはイシュトスだったけど、リアム君も子供の体にしてはかなりの量を食べていたと思う。やっぱりカレーは正義だね!
「そういえばカレーに夢中で遅くなったのですが、こちらの方はご友人の冒険者さんですか?」
「そうだった!2人にまだ紹介してなかったね。彼は火の神イシュトス。私を加護してくれている神様の1人で、数少ない大切な友人だよ。」
「おう!イシュトスだ!よろしくな!」
「あ、はい。よろしくお願いします・・・?」
イシュトスらしいフランクな挨拶に、思わず返事を返しながらもポカンとしているリアム君。料理長の方を見ると、呆然とした表情で立ち尽くしていた。
転生者のリアム君より、この世界で生きてきた年数の長い料理長の方が、より神様という存在に畏敬の念を抱いているのかもしれない。
「じゃあ俺そろそろ温泉入ってくるわ!桜、今日はありがとな!」
どうやら温泉に入りに来て、カレーの匂いに釣られたらしい。カレーの芳しい匂いには、神様さえ抗えない魅力があるんだね。
「そうそう、シューレ王国が再び勇者召喚を行うかもしれない。気を付けろ。」
そう言うなり、燃えるように赤い石の付いたネックレスをテーブルに置いて、あっという間に消えてしまう言い逃げイシュトス。そんな重大な話を、去り際に言い残さないで!?
「何が何だか・・・。」
「驚く情報が多すぎて頭が混乱してますが、とりあえずシューレ王国の勇者召喚の話が最重要案件だと思いますので、僕はすぐにフェデリコさんに報告に行って来ます!カツカレーご馳走様でした!」
止める間もなく、リアム君は大熊亭を飛び出して行った。きっとフェデリコは仕事が増えたってぼやくんだろうな。その憤りは、シューレ王国の王様へ向けてもらおう!
「では私も仕事に戻りますね。今日は新作料理をご教授頂き、ありがとうございました!」
「どういたしまして!料理長が他の子にも作り方を教えてくれる?カレーを温泉街で流行らせたいんだよね。」
「もちろんお任せ下さい!」
胸をドーンと叩いて、任されてくれる料理長。本当に頼もしい。料理のことは、料理長に任せておけば安心だね。
料理長が何故だか嬉しそうに仕事に戻って行った後、テーブルの上に残された、赤く燃えているように見える石の付いたネックレスをそっと触ってみる。
うん、良かった。熱くはない。鑑定してみた結果は
炎の守護ネックレス
【シークレット】
火の神イシュトスが作ったネックス。桜の身に危険が迫った時、炎の防御魔法が発動する。
んん?説明に私の名前があるという事は、使用者限定のネックレスなのかな?イシュトスがわざわざ作ってくれたんだ。嬉しいな。有り難くもらっておこう。
鏡を見ながらネックレスを付けていると、音もなくクレマンが現れた。
「大変お似合いです。」
「お世辞でも嬉しい。ありがとうクレマン。」
「お世辞ではないのですが・・・。桜様、緊急会議への招集がかかりました。今からですが、よろしいですか?」
いくらなんでも早すぎない!?リアム君が大熊亭を出てからそれほど時間が経ってないと思うんだけど。
クレマンと一緒にフェデリコの館内にある会議室へと転移すると、既に主要メンバーが揃っていた。これはリアム君が到着したと同時に招集をかけたのかな。
「ごめんね。遅れたかな?」
「いえ、先にリアムから話を聞いていたので問題ありませんよ。」
「さーて、困った事になったな。また勇者召喚を企んでるって?」
アンナが発した勇者召喚という言葉に、陽菜・大河・優斗の顔が曇る。また私達みたいに無理矢理誘拐される子達が増えるかと思うと、そりゃ気分は良くないよね。
それに落ち着いてからあの時の状況を改めて思い返すと、私達を召喚するのに使ったであろう魔方陣の周りに沢山の人が倒れていた。
彼らは果たして生きていたのだろうか。曖昧な記憶だけど、服装が私達の様な一般人が着るそれと変わらなかった気がする。
もしかして彼らは、勇者を召喚する贄にされたのではないだろうか。この考えに至ってから、その事実を知るのが怖くて、未だに誰にも聞けないでいる。
もちろん陽菜達にあの時の状況を聞くのはもってのほか。この若い子達の心に、消えない傷を負わせるつもりはない。
後で誰か神様捕まえて聞いてみようかな。私ももうそろそろ、きちんと向き合わないといけないよね。
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