第173話 同盟締結

「貴様ら!何をしているのか分かっているか!?同盟を締結したくて来たのではなかったのか!?」

 押さえつけられるまで何も反応することが出来なかった魔道王が、やっと我に返ったのか叫んでいる。


「そもそも同盟を結びに来た私達の足下を見て脅してきたのは魔道王だよね?それも国の代表として来た使者を長時間放置したあげくに、渡せないと言っている魔道具欲しさに恐喝まで。」


 さすがにこれ以上は我慢が出来ない。いっそこのまま制圧してしまえば、無血でこの国を押さえることが出来るのでは?

 いやいやいやいや、少し考え方が物騒過ぎるよね。これは最終手段として残しておいて、もう少し様子を見よう。


「そうそう。渡す前に放置されたので遅くなりましたが、こちらをどうぞ。」


 ここでガンドール王が書いてくれた紹介状を渡すと、中を読んで青ざめる魔道王。

 中身は読んでないけど、ガンドール王の事だ。きっと温泉街の煽り文句を上手い事書いてくれてるんだろうな。


 私からも駄目押しを。冷蔵庫や今見せた収納袋だけじゃなく、他にもいくつもの魔道具が収納にしまってあるんだよね。


 ご褒美ダンジョン産の空飛ぶ絨毯と念話ピアス、グレイソン作のハンドミキサーとジューサーを収納袋から出す。と見せかけて私の収納から出し、魔道王の目の前にずらりと並べる。


「こ、これは!!!???」

「我が温泉街が所有している、他の国にはない魔道具ですよ。」


 見たことのない魔道具を目の前に、青ざめていた顔が一気に血色が良くなり、瞳に生気が戻っている。それにしても赤青赤と忙しいお顔だよね。もう一度青に戻ってもらいましょうか。


 魔道王が魔道具に手を伸ばそうとしたので再び収納し、最後に止めを。


 「どれも売る事は出来ない大切な物だけど、見せる事は出来ます。だけど収納袋を買わせないと同盟を結ばないなどと言われるなら、冷蔵庫のみが手元に残るだけになり、どの魔道具も一生目に出来ないままになる事でしょうね?ちなみに温泉街では今なお新しい魔道具を制作中ですよ。」


 にっこり笑いながら脅し返す。私の収納魔法の隠れ蓑にもなる収納袋だけは絶対に手放さないし、舐められっぱなしも好きじゃない。目には目を、歯には歯を。脅しには脅しで返しますよ。


 私の言葉を聞いた魔道具師達が、恐ろしいほど恨みのこもった目を魔道王に向けている。

「魔道王様、いい加減にして下さい!!」

「貴方のせいでこれほどの機会を逃す気ですか!?」

「もうその魔道王モードも解除して、普段通り素直に謝られた方が良いと思いますよ!」


 魔道具師達は魔道王に詰め寄ると、次々と叱り始めた。すっかり意気消沈した魔道王は、今も絶賛縛られて床に転がされている。

 床に転がった王様に屈んでお説教とか、そのシュールすぎる光景に笑いを堪えるのも大変だよ。


「桜様、この度は誠に申し訳ありませんでした!!!ここ最近ずっと研究が滞っていたので、新しい魔道具を見てつい欲が膨らんでしまいました・・・。本当に申し訳ありませんでした!!!」

「「「「「 申し訳ありませんでした!!! 」」」」」


 さっきまでの尊大な態度はなりを潜め、平身低頭謝る魔道王とその仲間達。隣のクレマンをチラ見すると、お仕置きして満足したのか、普段の穏やかな顔に戻っている。クレマンは怒らせないように気をつけよう。


「では同盟は?」

「こちらからも是非お願いしたいです!この様な新しい魔道具を作られる温泉街とは、良い関係を築けたらと思っています!」


 うん。変わり身早いな。そもそもその関係を最初にぶち壊そうとしたのは魔道王なんだけどね。

 というか言葉遣いもさっきまでと変わってる。これが魔道王モードを解除した本来の姿って事なのかな。


「では同盟締結のサインをお願い致します。」

 クレマンが同盟締結の条文をサラッと流し、締結書を魔道王の前に置く。


「あの・・・その前に・・・この縄解いてもらえますか?」

「あっ!」

 ごめん。すっかり忘れてました。クレマン気付いてたなら、床に締結書置く前に教えてよ!



 すったもんだあったけど、何とか無事に同盟を結ぶ事が出来た。これで温泉街に帰ったら、笑顔で報告が出来るね!


「あのー、桜様。その・・・大変言いにくいのですが、先ほど見せて頂いた魔道具を、もう一度見せて頂くことは出来ますか?」

「・・・・・・。」


 同盟が無事に結べた事でホッとしていると、私の顔色を伺うように魔道王が聞いてくる。思わず反射的にジトっとした目で見てしまう。


「お願いします!見せて頂いた魔道具が模倣できたあかつきには、お譲りすると約束しますので!」

「うーん。そこは譲るじゃなくて、正当な取引をしましょう。優先的に売って下さい。」

「もちろんです!ありがとうございます!!」


 譲ってもらうという提案は嬉しかったけど、長い目で見るなら、お互いが対等な関係の方が良い関係を続けていけると思うんだよね。


 これならダンジョン産の魔道具は、魔道王達に任せても良さそうかな。グレイソンにはまだまだ作って欲しい魔道具が沢山あるから、役割分担が出来て一安心!


 最近冷蔵庫やハンドミキサーの量産で疲れてたから、ダンジョン産の魔道具の模倣は頼みにくかったんだよね。さてさて、次は何作ってもらおうかな~。



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