第162話 視察要望再び

 回湯を売り切りほくほく顔のローマンと、買い占めてウキウキ顔のガンドール王とレギンさん。需要と供給がぴったりの様で何より。これから良いお付き合いが出来そうだね。


「して桜、今日はローマン商会の誘致の件で参ったのか?」

「いえ、本日は温泉街を独立国として認めて頂き、我が国と同盟を結んで頂けないかとお願いしに参りました。これは手土産でございます。」

「これは!全て酒なのか!?」

「はい。温泉街で扱っている全てのお酒でございます。」


 本来試飲用に配りやすくしようと、通常の半分の大きさで作った酒瓶。その瓶にドリンクバーにある全種類のお酒を入れ、詰め合わせにしてみました。手土産に丁度良いし、販促にもなると思って、今回試験的に作ってみたんだよね。

 嬉しそうに手土産のお酒を見ているガンドール王。これでつかみは良いはず!


「我が国か。ふむ。桜は温泉街をどのような国にするつもりか?」

「そうですね・・・。最初はただ仲間とのんびり暮らしたくて作っただけだったんです。だけど今は仲間も増え、皆がより楽しく充実した暮らしを送れる様にしていきたい。その為に安全も確保したい。うちの特産品は大国に目を付けられそうですからね。」

「確かに、酒に回湯に温泉街の立地も目を付けられるであろうな。」


 こんな真面目な顔のガンドール王を初めて見たかも。失礼かもしれないけど、いつもはお酒に溺れてるおじさんという印象しかなかったから、何だか新鮮だ。きっとこれが本来のガンドール王なんだろうな。


「同盟を結ぶのは良い。だが儂が言うのもなんだが、ツヴェルク王国だけでは少々牽制には弱いぞ。」

「実はアマリア聖王国とも同盟を締結したんです。」

「何!?一時は国力低下が著しかったが、最近急に活気が出てきているあの国か!よくあの頭の固い国が同盟を結んだもんだ。」


 頭の固い国?以前はそうだったのかな?でもあれだけ寂れて、それでも誰にもどうにもならなかった事で、半ば強制的に頭を柔らかくせざるを得なかったのかな。ある意味温泉街にとっては有難かったかも。


「良かろう。では我がツヴェルク王国も温泉街を独立国と認め、同盟を結ぶとしよう。」

「ありがとうございます!」

 これで一先ずは何とかなるかな。他にも何カ国か同盟を結べたら良いんでけど、今の所ツテも何も無いから厳しいな。


「それと今回はもう一つお話があります。職人達に依頼していた仕事が全て完了致しました。なので皆を送りにきたのですが・・・。」

「その話は俺達から直接話させてくれ!」


 扉の外で話を聞いていたのか、ドルムとホルグが入って来た。

 部屋に勝手に入るなんて普通なら咎められそうなものだけど、ツヴェルク王国では全く気にされないようだ。


「ドルム、ホルグ。まずは温泉街での依頼の達成、ご苦労であった。して話とは?」

「俺は温泉街に居を移したいと考えてます!あんなに刺激がある所はそうはねぇ!」

「私も温泉街に移る事をお許し頂けないでしょうか?あそこでなら、今まで作った事が無い物がまだまだ作れる気がするんです!」

「お前達がそんなに言うほどの物が、桜の温泉街にはあるというのか?」

「「あります!!!」」


 温泉街でどんな建物を作ったか、どんな建具を作ったか、料理やお酒に温泉の効能等々、力一杯力説しているドルムとホルグ。その一つ一つに聞き入り、驚き目を見張るガンドール王とレギンさん。


「お主達がそこまで言うのなら致し方ない。これまで本当に良く働いてくれた。息災でな。」

「王よ!感謝する!!!」

「もったいないお言葉・・・胸に染み入る思いでございます。」

 2人の説得に胸を打たれたのか、案外あっさりと温泉街への移住許可が下りた。改めて職人Getだぜ!


 ドルムとホルグの移住許可が下りた事に、安心しきっていた私に突然顔を向けニヤリと笑うガンドール王。

「桜よ。」

 あ、嫌な予感・・・。

「ドルムとホルグがここまで言うその温泉街がどんな国か、1度見に行こうではないか!」

 やっぱりかーーーーー!!!イザヤさんと同じ発想かーーーーー!!!!!


「未だ発展途上の国でございますので、今すぐガンドール王をお迎えするのは難しいかと・・・。」

「であるか。では日はそなたに任せよう。良き日に迎えに来るが良い。」

 そうなりますよね。またもや断れない案件だ。皆・・・・・・・ごめん!!!

「はい、喜んでー。」

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