第161話 回湯は救世主
ドワーフ達を連れての門前へと転移すると、いつぞやのお酒で酔いつぶれた門番さんが笑顔で出迎えてくれた。
「お待ちしてました桜様!ガンドール王がお待ちです!」
「えっ?待ってる?」
今日訪問する事は、事前に連絡出来てなかったと思うんだけど・・・。
私が疑問に思っている間にあれよあれよと連れられて、気付けば以前案内された豪華な調度品で整えられた部屋の前に居た。
「・・・いつの間に。」
コンコンコン
「桜様をお連れしましたー!」
「桜様!!!」
部屋の中の人物が私の名前を呼んだかと思うと、バタバタと走ってくる音がする。MAPで部屋の中を確認すると、中に居たのはガンダール王とレギン、そして走ってくるローマンだ。
バァン!!!
目の前の扉が勢いよく開く。ツヴェルク王国の王と宰相が居るのに、走ったり大きな音を立てて扉を開けても良いのかな。
「桜様!!!回湯をお持ちでしょうか!?」
「持ってるけど・・・?」
この展開は・・・まさか・・・。
部屋の中を覗き込むと、酔い潰れたガンドール王と宰相レギンがぐったりと横たわっていた。そしてこの部屋に馴染まない酒瓶がゴロゴロ転がっている。この光景見た事あるわー・・・。
「サンプルとして商品を見せて欲しいとおっしゃいまして、日本酒をお見せした所、試飲をしたいと・・・。」
はーい、ここまでの流れも前と同じだよ!レギンさんが潰れてるって事は、今回は彼が毒味役と称して、ガンドール王と日本酒を取り合ったのかな?
「試飲にしては量が多すぎるよ。でもまあ、断りにくいよね。」
「面目次第もございません。」
ただでさえ人間がツヴェルク王国へ入る事は滅多に出来ないと言われてるのに、そこへ商会を誘致出来る様に頼みに来ている立場のローマンが、王の頼みを断れるわけが無いよね。
「とりあえずこれ飲ませちゃおっか!」
前回みたいな大惨事にはしたくない。ローマンに回湯を渡し、ガンドール王とレギンさんに飲ませると、土気色をしていた顔がみるみるうちに生気溢れる血色の良い顔色へと戻っていく。
「桜!助かったぞ!」
「今飲んだ物は一体・・・?」
「今飲まれたのは回湯といって、状態異常を回復してくれる温泉なんですよ。」
私の説明を聞いて、目を見開くガンドール王とレギンさん。
「何と!!!状態異常回復ポーションでは、この様に深酔いは回復しないのですよ!!!これはツヴェルク王国の救世主になりますよ!!!」
「えっ!?治らないの!?」
初耳です。何で誰も教えてくれなかったの!?あと、回湯さえ飲めばいくら飲んでも大丈夫って事では無いからね!?飲み過ぎ厳禁です!!!
「桜!ローマン!この回湯はローマン商会で扱うのか?」
「は、はい。その予定にしておりますが」
「うむ、分かった。明日よりツヴェルク王国での営業を許可する!店は城の隣にすでに建ててあるから、遠慮せず使うが良いぞ!」
「明日からですか!?」
ローマンが真っ青になっている。いくら建物があるからって、さあ明日から!なんてどんなブラック企業なの!?それは私が許可出来ません!
「ガンドール王。さすがに明日すぐにとはなりませんよ!しっかりと準備期間は必要です!」
「そうであるか・・・。」
ガンドール王だけでなく、レギンさんまでもしょんぼりとしている。そんなに回湯が欲しかったのね。
収納から回湯を1ケース分出して、ローマンに渡す。受け取ったローマンは、私の顔を見てニヤリと笑うと、早速ガンドール王とレギンさんに売りつけ始めた。どうやら1本銀貨1枚で販売する様だ。
少し高いとも思うけど、あんまり安いと回湯頼みで無茶な飲み方しそうだから、妥当としておこう。まあ、王と宰相には痛くも痒くも無い値段だとは思うけどね。
売り切ったローマンは、満足そうな顔でサムズアップ。私も苦笑しながらサムズアップを返す。
1ケース50本入っていたから、全部で銀貨50枚。原価は瓶代のみだから、中々の儲けになりそうだね。
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