第159話 犬人族

 商業ギルドでイザヤさんとの話が終わった後、今夜の寝床を求めてとまり木へと向かいながら、さっきの付きまとい冒険者達が今どこに居るかを念の為MAPで確認する。


 私が彼らを撒いた地点からかなり進み、あと少しでカティアの森に着くという所に居るのを発見。この分なら、門が閉まる時間までに帰ってくる事は出来ないだろう。安心してとまり木に泊まれるね。


 カランコロン


「いらっしゃいませ~!キャ~~~!桜ちゃん、久しぶり~!」

 私の姿を見るなり抱きついて来たのは、とまり木の女将で双子のお姉さんのエマさん。相変わらず癒しオーラ全開で、とても可愛い。


 ちらりと食堂を見ると、以前よりも多くのお客さんで賑わっていた。しまったな。先に部屋を取っておいたら良かったかも。


「エマさんお久しぶりです!1泊したいのですが・・・空いてますか?」

「大丈夫~!空いてるわよ~!・・・あれ~、今日は1人なの~?」

「1人です!!!それとヒューゴは大切な仲間なので、誤解しないで下さいね!?」

「私、ヒューゴさんの名前なんて出してないわよ~?」


 うふふと楽しそうに笑うエマさん。これは絶対誤解してるな。それもこれもヒューゴのせいだ。


「エマの楽しそうな声が聞こえたと思ったら、桜さんだったんですね~!」

「エルさん!お久しぶりです!今日も美味しい匂いがしてますね!」

「やっぱり分かちゃう~?今日は新鮮なロック鳥のお肉が手に入ったから、ロック鳥のトマト煮込みなの~!」

「美味しそう!!!」


 ロック鳥はまだ食べたこと無い!鶏肉みたいな感じなのかな。考えただけでお腹が鳴りそう。


( 俺も食べたい! )

( 僕もー!お腹ぺっこぺこだよー! )

 この匂いで我慢出来なくなったのか、コタロウとリュウが切なさそうな声で訴えてくる。分かる!分かるよー!この匂いは堪らないよね!


「エルさん。大盛り3人前を部屋で食べても良いですか?」

「もちろん良いわよ~。後で持って行くわね~。」

 突っ込まれるかと思ったけど、そこはさすが客商売。特に聞かれる事無くスルーしてくれた。まあ大食いだって思ってもらった方が、こういう時は助かるね。



「桜ちゃ~ん!夕食持って来たよ~!」

 案内された客室で少しのんびり休憩していると、部屋の外から声が掛かった。扉を開けると、大盛り3人前を軽々と持っているエマさんが立っていた。見た目に反して意外にも力持ちさんなんだね。


「わぁ~良い匂い!ありがとうございます!」

「少し重たいから、このまま中に運んじゃうね~。」

「よろしくお願いします~。」


 料理の乗った大きなトレーをテーブルに置くと、エマさんが私の足下を見ながら徐に切り出した。

「この料理の内2人前を食べるのは、いつも一緒に居るその子達かな~?」

「えっ!?」


 今コタロウとリュウは、私の影の中に居る。だからエマさんからは見えないはずなのに・・・。

 私が返事に困っていると、慌てた様にエマさんが付け足した。


「ごめんね桜ちゃん~。困らせるつもりは無かったの~。ただうちの宿では気にせずその子達と一緒に居ても大丈夫だよ~!って言いたかっただけなの~。」

 これはカマを掛けたわけでも無く、確実に気付いているね。


「何で・・・。」

「実はね、私とエルは獣王国ベスティア出身の元A級冒険者なのよ~。これでも結構強いんだぞ~。」

「A級!?獣王国!?」


 突然のカミングアウトに驚きを隠せない。獣王国って事は、2人は獣人さんなのかな。それにどうして秘密にしてたであろう事を、私に話してくれたんだろう。


「突然何で?って顔してるわね~。桜ちゃんは私達の第二の故郷である、このアマリア聖王国の再建を手伝ってくれた大恩人。信じられる人だわ~。それにね。」

「それに?」

「桜ちゃんの影から微かに漏れるこの匂い・・・。もしかして聖獣フェンリル様じゃないかしら~?」


 はい、ばれましたー。影から匂いがするって事は、やっぱりエマさんは獣人さんなんだろう。

( 桜。彼女から犬の匂いがする。)

( きっと犬人族だねー。って事はバレても大丈夫だと思うよー。)


 そう言うやいなや、リュウが影から飛び出してきた。その後を追うようにコタロウも飛び出してくる。


「大せいかーい!!!僕は桜の聖獣、フェンリルのリュウだよー。」

「リュウ!お前は何を勝手な事を!!」

「こっちの怒ってる茶色いのは、同じくフェンリルのコタロウだよー。よろしくねー!」

「おいっ!!」

「キャ~~~!!!やっぱりフェンリル様~~~!!!」


 エマさんが歓喜の悲鳴を上げた瞬間、耳と尻尾がぴょっこりと生えた。そして生えた尻尾がぶんぶんと聞こえてきそうな勢いで揺れている。モフりたい。


「犬人族はフェンリルを、神の使いとして崇めてるんだよー!」

「そうなの!?」

「そうなんです~!まさかお目にかかれるなんて~!!それも普通のフェンリル様ではなく、特殊個体!!!しかも可愛い!!!もう思い残す事はありません~!!!」


 いやいやいやいや、コタロウとリュウを見て死なないで!?可愛いのは同意だけど、エマさんの反応に驚きを隠せないよ!?

 それだけ犬人族にとって、フェンリルは神聖視されてるんだろうけど・・・。街中じゃなくて本当に良かったよ。


 その後、エマさんの叫び声を聞いたエルさんもやって来て、叫んだり拝んだり抱きしめたりと、とにかく大騒ぎ。コタロウとリュウもまんざらでも無さそうだし、これはこれでまあいっか!




 

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