第153話 悪戯

 リアム君達が来た翌日の早朝、宿舎の食堂には屍の山が築かれていた。その屍の中にはアンナやガイン、ヒューゴといった屍常連メンバーに加えて、ギムルさん、レオさん、イアンさんまで含まれていた。


「何だ何だ、皆あれくらいでだらしないぞ。ほれ!しっかりせいコルト!」

 屍を山の9割を作った張本人のお爺さんが、喝を入れて回っている。それにしてもお爺さんが、まさかあんなにお酒に強いとは思わなかったよ。


 昨夜の夕食は新しい従業員を迎えるという事で、歓迎の為の宴会となっていた。お酒が好きなお爺さんの歓迎会というのもあり、今回はドリンクバーにあるお酒全種類を準備。


 飲んだことの無いお酒の数々に、お爺さん大興奮。酒好き従業員達との飲み比べへといつしか流れて行き、今朝の惨状を生み出すに至ったのだった。

 ちなみに今回私は早めに部屋へと戻ったので、巻き込まれ回避!いやー、あのまま居たら危なかったね!


 そしてどうやらお爺さんは、元ハルバード共和国関係者らしい。コルトさん、ミレイユ姐さんと何やら話していたっぽい。

 ぽいというのは、その光景を見た瞬間その場から離脱した為。出来るだけフラグを立てない様にしたいからね。


 屍達に回湯を飲ませ、朝食に舌鼓をうった後、お爺さんは意気揚々と蕎麦屋へ走って行った。今日から蕎麦屋の開店に向けて、本格的に準備を始めるらしい。まさか走って行くとは思わなかったけど、元気になって良かった良かった!

 もちろん蕎麦屋で働いてくれる従業員も集まっているので、お爺さんと一緒に開店に向けて頑張ってくれる事でしょう。


 リアム君には今日からフェデリコの補佐を頼んである。顔合わせは昨晩の宴会で済ませてあるので、今日からは公務員として働いてきた能力を遺憾無く発揮してもらいましょう!


 顔合わせの時に仕事内容の概要と私への愚痴を聞き、若干顔が引き攣っていた気がするけど・・・多分大丈夫だろう。



 と思っていた私が甘かった。

 コタロウとリュウがカティアの森に遊びに行っている間、大熊亭でのんびりカフェオレを楽しんでいる時に彼は突然やって来た。


「桜さん!!!ちょっと顔貸して貰えますか?」

「え!?どこへ!?」

「執務室ですよ!!!」

「ちょっ、リアム君待って!?ぎゃーーーーーーーー!!!」


 一体いつ準備したのか、少し大きめの荷物を運搬する用のリアカーと、屈強な警備隊メンバーが数人、大熊亭の外で待機していた。


 リアム君に強制的に大熊亭から連れ出された後、警備隊によってリアカーへと乗せられ、あれよあれよという間にフェデリコの執務室まで連れて来られた。


「あ、桜様。待ってましたよ!」

 私の姿を確認したフェデリコが、楽しそうにニヤニヤと笑っている。

「こんな無理やり連れて来なくても、言ってくれたらちゃんと来たのに・・・。」

「えっ!?フェデリコさんが、桜さんが逃げるだろうからって・・・。」

 私の発言に、驚きを隠せないリアム君。


「すみません・・・。お止めしたのですが、聞いて貰えなくて・・・。力不足ですみません・・・。」

 そして主人の愚行を止められず、しょげているカリオ。


 おのれフェデリコ。私への悪戯にリアム君を巻き込むなんて。

「フェデリコ懲りないねぇ。ってな訳で、フェデリコは暫くの間ドリンクバーと温泉禁止ね。」

「そんな!!!やっとドリンクバーのお酒が飲めたのに・・・。」

 その場で頭を抱えながら項垂れるフェデリコ。いや、こうなる事は予想出来るよね?


 来客用の椅子に腰掛け、人数分の紅茶と3人分の苺のショートケーキを収納から取り出して並べる。もちろんケーキは私、カリオ、リアム君用です。

「うわぁ!ケーキだ!久しぶりだよ!!」

「まだまだあるから、欲しかったら言ってね!」

「ありがとう!」


 嬉しそうにケーキを食べるリアム君を横目に、フェデリコへと視線を向ける。

「それで本題は?」

「私にケーキは・・・」

「ありません!それで?何であんな真似してまでここに呼んだのかな?」


 カリオのケーキを取ろうとするフェデリコの手をピシャリと叩いてから再度問うと、モグモグとケーキを夢中で食べていたリアム君が手を挙げた。


「あ、呼ぼうと提案したのは僕です。色々と仕事内容で確認したい事と提案がありまして。」

 なるほど。それに便乗して悪戯仕掛けてきた訳ね。


「まず最初に桜さんに質問です。ここは温泉ですが、どこかの国の領土ではありませんよね。という事は小さいけれど独立国家なはずです。桜さんはこの国の君主ですか?」

「え?」

「え?」

「えぇぇぇぇぇ!?」

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