第149話 転生者

 村の中を散歩したり、石鹸を売っているお店を見て回ったりしている内に、気付けば少年の店の列が無くなっていた。

 店内にお客さんの反応も無いし、そろそろ良い頃合かな。


「こんにちわー。」

「お待ちしてました!こちらへどうぞ!」

 お店に入るなり少年に手を掴まれると、店の奥へと連れて行かれた。

 これはあれだね。日本人に会えた喜びで、理性がぶっ飛んだパターンだね!中々に強引な案内で、正直驚いてるよ!


 なすがまま案内された部屋には、にこにこと嬉しそうに微笑んでいるお爺さんが居た。

「お爺ちゃん!彼女が僕と同郷の人なんだよ!」

「これこれ、まずは座って貰いなさい。今お茶を準備するから。」

「あっ!すみません・・・嬉しくてつい。どうぞこちらへお掛け下さい。」


 勧められた椅子に座ると、私の向かい側にソワソワした少年が座る。改めて見ると、彼が日本人いや、地球から召喚されてないというのがすぐに分かった。


 顔の造形は目鼻立ちがくっきりとしていて日本人離れしている。

 でもそれよりも分かりやすいのは、その明るい空色の髪に、紺碧の瞳。髪の生え際まで変わらないその髪色は、この世界でしか存在していない。


「改めまして、僕の名前はリアム。日本では蕎麦作りが趣味の、至って健康で平凡な公務員だったのですが、気が付いたらこの世界に転生していました。」

 事故とか病気で亡くなってから転生っていう訳ではないんだ。それはさぞ大変だったんだろうな。


「私の名前は國枝桜といいます。シューレ王国が行った勇者召喚に巻き込まれただけの、しがない一般人です。」

「巻き込まれた!?それはさぞ大変でしたね・・・。」

 私の感想と全く同じで、思わず笑ってしまった。突然この世界に来たって所は同じだもんね。


「リアムさんも大変だったんじゃないですか?」

「・・・大変でした。まさか40にもなって、もう一度赤子からやり直す事になるなんて思わなかったもので・・・。」

 まさか赤ちゃんから記憶を保持しているパターンですか!それは精神的に、非常に厳しい!


「桜さんが日本人というのは、髪と目の色だけではなく、蕎麦の食べ方ですぐに分かりましたよ!この世界では音を立てて食べるのは、行儀が悪いとされていますからね。」

 確かに皆さんから冷めた目で見られました・・・。貴族とかではなくても、啜るのは駄目なのね。


「あー・・・あはは。ですよねー。でも蕎麦はやっぱり啜って食べるのが1番美味しいと思うんですよ!」

「そうですよね!僕もそう思います!でもやっぱり人前で啜る勇気は無くて・・・。だから桜さんが気にせず食べてる姿に感動しました!!!」


 目をキラッキラに輝かせてるけど、そんな目で見られる様な事じゃないと思う。

 ただ単に、美味しい物は美味しく食べたい!という食道楽ポリシーの元に啜っただけなので、その視線は少し居心地悪いです。


「そんな感動される様な事じゃないんだけど・・・。今度勇者召喚で呼ばれた子達も連れて、蕎麦を食べに来ても良いかな?」

「もちろん!その時は皆で啜って食べましょう!」


 さっき食べたばかりだけど、既に蕎麦を食べたくなっている私がいる。久しぶりの蕎麦は本当に美味しかったんだよね。これぞ日本の味って感じで。そうだ!それなら・・・


「リアムさん、カティアの森の温泉街で働かない?温泉には入り放題だし、懐かしい料理も沢山あるよ!お酒・・・はまだ駄目か。でもジュースもあるし、ケーキや甘味も沢山あるよ!どうかな?」


 私の提案に一瞬嬉しそうな表情を浮かべたものの、グッと何かを堪えるかの様に表情が固くなった。


「有難いお話なのですが・・・祖父を置いては行けないので・・・。お誘いはとても嬉しかったです。ありがとうございます!」

「何を言うかリアム!儂をジジイ扱いするでない!お前が居なくとも、自分の事くらい自分で出来るわ!」


 丁度良いのか悪いのか。まさかのタイミングでお爺さんがお茶を持って戻って来た。

 確かに見た目は60代くらいで、まだまだ元気そう。少し足を引き摺っているのは気になるけど、自分の事くらい余裕で出来そうに見える。


「でもその足じゃ、山の麓に作った蕎麦畑まで行けないだろ?買い物だって、蕎麦屋だって、1人じゃ難しい事くらい分かるだろ!?」

「何を言うか!それぐらいなんて事ないわ!お前こそせっかくのチャンスを不意にするでないわ!」


 2人共、全くもって引く気がなさそう。お互いを気遣いながらの言い合いは、まだまだ続きそうだ。

 でもね、2人が言い合う必要はないんだよ?


「それならリアムさんとお爺さん、2人とも温泉街へおいでよ!」

 2人まとめて温泉街へスカウトだ!



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