第148話 ざる蕎麦と少年

 という訳でやって来ましたトネリ村。コタロウとリュウも合流して、影で見守ってくれている。1人じゃないってやっぱり心強いよね。


 一応女1人じゃ怪しいかと思って、冒険者風の格好にしている。MAPも常時ONで警戒も怠らない。


 トネリ村は小さな農村。近くを街道が通ってはいるけど、周りを木々に囲まれていて長閑な田舎にある村といった印象。

 街とは違い門番も1人、身分証の確認も簡単なものだった。


 本来なら長閑な村であろうトネリ村は、現在多くの人で賑わっていた。商人や冒険者の姿も多く見られる。


「何でこんなに人がいっぱいなんだろう・・・。ミレイユ姐さんは特に何も言ってなかったはずなんだけど・・・。」

 こういう時は人に聞いてみるのが手っ取り早い。近くの小さなお店に出来ている行列に並び、前に並んでいる女性に尋ねてみる。


「ここは何でこんなに人が並んでるんですか?」

「あんたトネリ村名物の蕎麦を知らないで並んでたのかい?」

「蕎麦!?」

 思いもよらない答えに思わず大きな声を出してしまった。

 私の大声を特段気にすることも無く、彼女は色々と話してくれる。


「何だ知ってるのかい。この村の特にこの店の蕎麦は絶品だよ!何しろ蕎麦を最初に作ったのはこの店の少年なんだよ。何でも両親に先立たれ、引き取ってくれたお爺さんに楽をさせてあげたくて作ったんだってさ。泣かせる話だよ。」

 という事は、召喚された訳ではない?単なる偶然?


「それと土産にお勧めなのは石鹸さ!」

「石鹸!?」

 またしても予想だにしない答えに大声を出してしまった。

 話に食いついたと思った女性の話は止まらない。だけど今の私の頭の中は、蕎麦と石鹸というThe日本人ワードでいっぱいだ。


 シューレ王国がまた召喚したの?それとも他の国?いや、他の国には召喚の儀式に関する知識はなかったはず。じゃあやっぱりあの王様が懲りずに召喚したって事?じゃあ件の少年は何でこの村にいるの?


 そんな答えの見えない問いが悶々と頭の中を回っていると、いつの間にか私の順番になっていた。

 考えていても仕方ない!とりあえず今はお蕎麦を堪能しよう!


 案内された席に座ると、すぐにざる蕎麦が運ばれてきた。どうやらメニューはざる蕎麦のみらしい。

 蕎麦の上には日本でよく見る海苔は乗っていなかったけど、見た目は馴染みのある蕎麦。つけ汁も出汁の香りがしていて、美味しそう。


「いただきます。」


 箸でお蕎麦を持ち上げ、つけ汁につけ啜る。


 ズルズルズルズル


「美味しーい!本当に蕎麦だ!!山葵が欲しい!」

 お蕎麦をズルズルと啜って食べていると、周りから非難の視線を浴びるが関係ない!お蕎麦は啜って食べてなんぼなんだよ!

 啜りながる食べることで、口に蕎麦の香りが広がり、鼻から香りが抜け、より蕎麦のうまみを堪能出来るんだよ!


 非難の視線は全てスルーし夢中で啜って食べていると、あっという間に完食してしまった。久しぶりのお蕎麦、しっかり堪能させてもらいました!


「ご馳走様でした。」

「はい、お粗末様でした!」

「えっ!?」


 突然後ろから、しかも予想外の返答。慌てて振り向くと、そこには中学生くらいの少年がクスクスと笑いながら立っていた。


「お蕎麦を啜りながら食べてくれる人が居るとは思いませんでした。お味はどうでしたか?」

「すっっっごく美味しかったです!まさかお蕎麦を食べられるなんて夢にも思わなくて。」


 さすがに蕎麦粉を作った事は無かったし、詳しい知識もなかった為、蕎麦は諦めていた日本食の1つだった。

 だから本当に嬉しい!今度陽菜達も連れて来たいな!


「喜んでもらえて良かったです!もし良かったら、後で少しお話しませんか?色々聞きたい事があって。」

「是非!お店が落ち着いた頃にまた来ますね!」


 どうやって話を切り出そうかと思っていたら、少年から嬉しい提案が。

 きっと彼も私が日本人だと分かったはず。後でゆっくりその辺の事情を聞いてみよう。



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