第147話 お節介
「ここで働かせて貰えると嬉しいのだが、私がいる事でこの温泉街に迷惑をかけるかもしれない。」
暗い表情で俯くミレイユさん。きっとシューレ王国に居た時も、バレない様にと気を張っていたんだろうな。
身分を明かす事にリスクがあっただろうに、それでも話してくれた誠実さ。
それに何よりまだ言葉が上手く話せなかった私に優しく接してくれた、この世界で出来た大切な友人。力にならないはずが無い!
「ミレイユさん!是非このままこの温泉街に居てくれると嬉しいな!」
せっかくまた会えたんだし、きっとこれも何かの縁だと思うんだよね。私はこの縁を大切にしたい。
「しかし何かあったら・・・。」
「何かあっても、皆一緒に転移で逃げれば大丈夫!それにこんなに美人なミレイユ姐さんが男性で、しかもそんな身分の人だなんて誰も気付かないよ!あー・・・でも、コルトさん次第かも。」
コルトさんがミレイユ姐さんの周りをウロウロしたり、あからさまに敬っていたらすぐにバレそう。
「私ですか!?」
「うん。コルトさんがミレイユ姐さんに傅いたり恭しくしていたら、ミレイユ姐さんの事情を察する人が出てくるかもね?」
「確かに・・・。」
コルトさんが思い悩んでいる。状況は理解しているけど、でも・・・という顔をしている。このままでは、絶対コルトさんからバレるな。
「ねえ、コルトさん。もし帝国兵が目の前に大勢居て、ミレイユ姐さんの正体を怪しんでいる。コルトさん達護衛は少数しか居ない。その状況で、貴方ならどうする?」
「当然アレックス様を逃がす為に全力で戦います!!!」
ですよねー。でもそれじゃ守れない時もあるんだよ。
「それでミレイユ姐さんを本当に守れる?戦ったけど主人は死んでしまったら、単なる自己満足にしかならないんじゃないかな。」
「何だと!?」
顔を真っ赤にさせて、怒りに震えている。自分の腕に絶対の自信を持っているんだろう。でも数の暴力には勝てない場合もあると思うんだよね。
「私の国で似たような話があったの。正体を隠して逃げる主と従者の話。敵に見つかり、正体を怪しまれた時にその従者は戦わずに主人を殴ったの。」
「なっ!!」
主人を殴るなんて信じられない!という非難めいた顔で見てくる。今のコルトさんには理解出来ないよね。
「お前のせいで疑われてしまった!と罵倒しながら、さも自分が主人で、主人が従者のように扱ったの。それでも疑われて、今ここで斬り殺しましょうか?とまで言ったんだよ。」
確か本当はとっくに正体はバレていたんだよね。だけどその従者の気持ちに打たれて、見逃したって話だったはず。
でも今コルトさんに伝えたいのはそこじゃないから、この話はここまでにしておこう。
「私は何もミレイユさんを殴れって言ってるわけじゃないんだよ。主人の気持ちを汲んで、時には自ら道化を演じて欲しいって言ってるの。敬い傅くだけじゃ、何も解決しないんだよ。」
コルトさんは衝撃を受けたのか、酷く考え込んでいる。言いすぎたかな。でもここでミレイユさんが穏やかに過ごす為に、コルトさんに気付いて欲しい。そしてフラグは回収したくない。
「桜ちゃん・・・ありがとう。」
「いえいえ。後はお2人でしっかり話し合って下さいね。」
コルトさんならきっと気付いてくれるはず。
「そうだ!ミレイユさんとコルトさんに聞きたい事があるの。」
「何かな?」
「フェデリコの補佐が出来る人材を探してるんだけど、誰か心当たりある人居ない?」
元ハルバード共和国の関係者、もしくは知り合いで有能な人が居たら、是非とも雇用したい。
「そうだな・・・。ハルバード共和国にトネリという名の村があったんだが、そこに居た少年が何と言うか・・・神童・・・だと思う。」
何だか煮え切らないし、もし居たとしても子供なんだよね?
「いやまあ、そんな反応になるのは分かる。私も自分で言っておいて何だが、確信が持てないし、何故彼を推したのか明確な理由がない。だが、何か気になる子なんだ。」
疑ってるのが顔に出ていたらしく、ミレイユ姐さんが苦笑している。
「トネリという村は小さな村なんだが、妙に栄えていて一度視察に行った事がある。その時に案内してくれたのが彼だ。私の質問にも淀みなく答えてくれて、とても聡明な子だったんだ。」
なるほど。即戦力では無いかもしれないけど、能力高そうなその子に唾つけるのもありかも?
「情報ありがとう!」
「いや、礼を言うのは私だよ。こちらこそ本当にありがとう!」
ミレイユ姐さんとコルトさんを残し、店を後にする。さてどうしようかな。
この後時間もあるし、トネリという村に行ってみようかな。一体どんな子なんだろう。
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