第146話 逃走失敗
半ば追い出されるようにギムルさんの店を出る。せっかくなので、隣にあるミレイユ姐さんの店の様子を見に行こう。
フェデリコは仕事が溜まってるという事で、ここで別れる事に。クレマンはそんなフェデリコが逃げないように、執務室まで送ってくれるそうだ。
・・・早く補佐官探してあげなきゃな。
「ミレイユさん、お店はどんな感じ?」
扉を開けて中へ一歩入った瞬間、ノックをしなかった事を激しく後悔した。
私の目の前には、片膝を付き頭を下げるコルトと慌ててるミレイユ姐さん。
うん、見なかった事にしよう。
そのままそっと扉を閉める。さあ、とっとと退散しよう!
「桜ちゃん!ちょっと待って!」
「桜様!お待ち下さい!」
正直待ちたくない気持ちでいっぱいです。この問題は非常にデリケートで危険な香りがプンプンする。
何か深く突っ込まないで済む様に話を逸らせないものか・・・。そうだ!
「コルトさんがあんな情熱的に求婚してる場面に踏み込んでしまってごめんなさい!」
「えぇ!?求婚!?」
「してませんよ!!!」
いやいやいや。話合わせて!?2人も突っ込んだ話は避けたいでしょ!?
「またまたー。大丈夫ですって!誰にも言いませんから!」
「桜ちゃん、何か誤解をしているんじゃないかしら?」
「私がアレックス様に求婚なぞするはずが無いでしょう!」
あ"あ"あ"ぁぁぁぁぁー!自分で暴露しないで!!!ハルバード共和国関連の話は聞きたくないのーーー!フラグ立つからーーー!!!
「じゃあそういう事にしておきますね!私この後予定があるので失礼し」
「桜ちゃんに聞いて欲しい話があるの。」
駄目だ。逃走失敗。さすがに真剣な顔で話そうとしてるミレイユ姐さんから逃げる事は出来ない。
こうなると分かってたら、フェデリコとクレマンを連れて来てたのにな。
ミレイユ姐さんに促され、店の中にある住居の一室へと案内された。
お店は可愛らしいディスプレイがしてあり、女性客が喜ぶような雰囲気。
打って変わって居住区域はあまり飾り気のないシンプルな感じだった。
「どうぞ、座って待ってて。紅茶でも淹れて来るから。」
「アレックス様!その様な雑事は私がしますから!」
「コルトの紅茶は美味しくないから却下。それと私の名前はミレイユよ。間違えないで。」
ピシャリとコルトの言を却下するミレイユ姐さん。美味しくないと言われたコルトは萎んでしまった。大型犬がしょんぼりしてる様に見えて、思わず笑いそうになるのを必死で押し止める。
「ミレイユさん、良かったらこれ試食して下さい。新作のチーズケーキなんです。」
収納してあったチーズケーキと、ついでに紅茶を3人分出しテーブルへ並べていく。チーズケーキはベイクドチーズケーキ。ブルーベリージャムを隣に添えてある。
「私は結構です。アレック・・・ミレイユ様、桜様と一緒の席に座る訳には」
「良いから座りなさい。」
「コルトさん。この温泉街では貴方もミレイユ姐さんも、私にとっては等しく同じ大切な仲間です。仲間は一緒に座ってお茶を飲むものなんですよ!」
まあ、ミレイユ姐さんとコルトさんは主従関係にしか見えないんだけどね!
ミレイユ姐さんからの圧と、私の言葉で渋々椅子に座るコルトさん。居心地悪そうだけど、立って居られると私の居心地が悪いのでここは譲れないよ。
「桜ちゃん。実は私の名はミレイユではなく、アレックス・アーサー・フォン・ ハルバードというんだ。今は無きハルバード共和国の第2王位継承者だった。今まで身分を偽っていて申し訳ない。」
深く頭を下げるミレイユさんと、それに習うコルトさん。
うん、知ってた。とはさすがに言えない。
「それでヒューゴやコルトさんがアレックスという名で呼んでたんですね。」
うんうんと、さも今知ったかのように頷いてみる。
「・・・思ったより驚いていないな。」
「えっ!?いやいや!驚きましたよ!」
意外に鋭いなミレイユ姐さん。私の名演技を見破るとは!
「戦争が始まってすぐ、父と兄が私を逃がして下さった。だから何がなんでも私は生きねばならない。シューレ王国に居たのは、帝国と敵対しているシューレ王国なら、帝国が手を出しにくいと考えたからなんだ。」
王子様という事は顔が割れてるはず。だから女装してまで、身元を隠そうとしたんだね。
「私は元ハルバード共和国の近衛騎士団の団長をしていました。力及ばず戦争に敗れ、戦争奴隷として売られ、あの奴隷商に居ました。」
うん、それも知ってる。とも言えない。
そもそも私がこの世界に来た時には既にハルバード共和国は無かったから、全くその辺りの事情を知らないんだよね。
でもさすがに当事者の本人達から聞くほど無神経では無い。
「ヒューゴは母親同士が仲良くてな。幼い頃からよく一緒に遊んでいたんだ。」
という事はヒューゴは貴族なんだね。全然全くこれっぽっちもそんな風に感じられなかったから、正直この話の中で1番の衝撃を受けたよ。
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