第145話 レア鉱石とギムル

 さっきまでタコの唐揚げをテオ君と取り合っていたギムルさんが、食い尽くすと同時にハッと我に返った。結局2人で取り合いながら全部食べちゃったね。


「柔らかい悪魔・・・いや、タコだったか。こいつの事はこの際もう良い。そうじゃなくてだな。これだけの種類の鉱石、ましてや虹晶石がこんなに採れる島だとバレれば、帝国が黙ってないぞ。」

 悪魔じゃなくて、タコって名前に言い直すギムルさん。タコ美味しかったもんね。悪魔じゃなくなったね。


「でも海流のせいで近づけないし、皆タコが恐いんでしょ?出処さえ漏れなきゃ大丈夫!大丈夫!」

「はぁぁぁぁ・・・。おいテオ。フェデリコとクレマン呼んで来い。」

「了解っす!」


 テオ君が元気よく飛び出して行った。え?何でその2人を呼ぶのかな?

「俺とテオに誓約書が必要だろうが!それとこんな貴重な鉱石で武器を作るのなら、少なくともフェデリコには知っておいてもらわなきゃならん!」

 そんなに考えてる事が顔に出るのかな。最近口に出す前に答えを貰ってる気がするよ。



 暫くギムルさんからのお説教を聞いていると、疲れた顔のフェデリコといつも通りの穏やかなクレマン、そして楽しげなテオ君が帰って来た。


「桜様、またですか・・・。私はいつになったら安眠出来るのですか?むしろ永眠しそうですよ?」

「何と言うか・・・ごめんなさい?補佐官がカリオだけじゃ足りないなら、他にも探そ」

「是非お願いします!」


 被せてまで食い気味に言うほど大変だったのね。ここ最近色々あったけど、それらも全て丸投げしてるから大変だったよね。


「あー・・・そんな時に申し訳ないんだが、まずはこれらを見てくれ。」

 若干フェデリコを巻き込んだ事に申し訳なさそうな顔をしながら、ギムルさんがさっき渡した大量の鉱石を机に並べた。


「こ・・・れは・・・・・」

「また随分と貴重な鉱石がありますね。虹晶石、ここ数年どの国でも発掘されていなかったかと。」

「えっ!?そうなの!?」


 まだ収納にも山ほどあるんだけど・・・言わない方が良さそうだね。

 というかレイアさん!大盤振る舞いし過ぎだよ!この世界の常識に疎い私には予測出来ないからね!?


「それで・・・この虹晶石は一体どこで手に入れたんですか?まさか未踏破ダンジョンとか、人里離れた山の中とか言わないですよね!?」

「フェデリコ大正解!!正解者にはこちら、元気湯をプレゼント!」


 収納から元気湯を出して机の上に置くと、フェデリコが膝から崩れ落ちた。しまった。間に合わなかったか。


「大正解!じゃないだろ・・・。未踏破ダンジョンとか聞いてないんだが?」

「あれ?言わなかったっけ?」

「聞いてないっすね!」

 頭を抱えるギムルさん。テオ君は何故かとってもキラキラした目で私を見てくる。


「長くなりそうですので、こちらをどうぞ。」

「ありがとう!」

 クレマンがいつの間にか、人数分の紅茶を淹れてくれていた。うーん、相変わらず良い香り。


「桜、俺ら外の見回りして来て良いか?」

「暇だから外で遊んで来たいー!」

 まだまだ話が長引きそうな空気を感じたのかな。ここまで待たせてしまって申し訳なかったな。

「付き合わせちゃってごめんね。気を付けて行ってらっしゃい!」

「「 行ってきまーす!」」


 楽しそうに外へと走って行く2匹の後ろ姿を、しばらく見送る。出来る事なら私も2匹とお外に行きたい。

「ダメですからね!?」

「何も言ってません!」

「顔が言ってます!」

 どうやら最近の私は、感情が顔にダダ漏れる事を止められないらしい。


 お茶を飲んで落ち着きを取り戻したギムルさんが口火を切った。

「で、未踏破ダンジョンって?」

「さっき説明した離島に、ダンジョンがあるの。出てくるのはスライムばかりなんだけど、虹晶石以外の鉱石は全てそのスライムから得た物なの。虹晶石は離島を管理する女神レイアが、温泉のお礼にって鉱脈を作ってくれまして・・・。」


 まだ宝石については話してない段階で、ギムルさんとフェデリコが頭を抱えてしまった。どうしよう。続けるべきか否か。


「それは・・・貴重な鉱石が好きなだけ採れるって事か?」

「うん。その為に作ってくれたから。」

「「 はぁ~~~~~~~・・・・。」」

 随分と深いため息を吐くね。やっぱり宝石について話すのは、今日じゃない方が良いかな。


「桜さん凄いっす!!!」

「流石桜様でございます。ですがまだ話してない事があるのではないですか?」

「なっ、何でそれを!?」

 しまった・・・誘導尋問に引っかかってしまった。


 ダンジョンに居たのは鉱石スライムだけじゃなく、ジュエルスライムも居た事を宝石類を見せながら説明する。

 ついでに私には必要なかったけど、離島にあった薬草類やシルクスパイダーについても。


「なっ・・・。」

「おいおい、あの離島は宝の宝庫じゃねーか。」

 フェデリコは絶句し固まった。ツンツンしたい。

 ギムルさんはダンジョンの鉱石で免疫が付いたのか、驚きはしたものの少し声が弾んでるように感じる。


「そうそう!ダンジョンの名前は【 ご褒美ダンジョン 】だよ!」

「何だそりゃ。冗談みたいな名前だな。」

 間違えて付いちゃった名前なんだけど、そこは言わないでおこう。


「という訳でだ、ここに居るメンバー全員に誓約を結んだ方が良いと思うがどうだ?」

「それが宜しいかと。」

 賛同したクレマンが、皆の前に誓約書をサッと置いていく。本当にいつも常備しているんだね。



「そういう事で、俺はこれから武器制作に取り掛かる!店を直すのは適当に頼んだ!」

 誓約書を書き終わると、ギムルさんは鍛冶場へと走って行ってしまった。上物の鉱石を見て、鍛治師としての創作意欲に火が付いた模様。

 きっと素晴らしい武器を作ってくれる事でしょう!楽しみだな~!


「・・・胃が痛い。」

 お腹をさするフェデリコに治湯を渡すと、受け取りながらもガックリと肩を落としてしまった。

 早く補佐官補充してあげなきゃね。よし!人材発掘が得意なカイに頼んでおこう!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る