第144話 柔らかい悪魔の魅力
「おお!本当にあったよ俺の店。」
「私のお店も隣にあるわ!」
朝食を済ませた後、ギムルさん達を店のある場所まで案内する事に。
温泉街はドワーフ達のおかげで、色んな建物が建った。敷地も最初に作った壁を壊して広げた為、大都市にも負けない広さになっている。そんな広さの温泉街で、迷子になるといけないからね。
ギムルさんのお店に入ると、中は散々な状態だった。武器防具を取るだけでは飽き足らず、棚や備品類まで壊されていた。
ここまでやるなんて、騎士のする事じゃない。もはや盗賊だね。王国騎士ならぬ王国盗賊。
「これはまた・・・よくもここまでやってくれたもんだな。」
「酷いっす!武器防具を取るならまだしも、店を壊す事ないっすよ!」
ギムルさんはあまりの惨状に、怒りと言うよりは最早呆れ果てた様子。テオ君は怒りで顔を真っ赤にさせている。
「後でドワーフ達に、修理を頼んでおくね。」
「すまんが頼む。鍛冶場が無事でも店内がこんな状態じゃ、さすがに店は開けられん。」
ドワーフ達がいる時で本当に良かったよ。
「親方ー!素材も持ってかれてるっす!貴重な鉱石もあったのに、それも全部っすよ!」
「まあまあ、本当なら店ごとくれてやるつもりだったんだ。店だけでも残って万々歳!ってな!」
おぉっ!さすがギムルさん、懐が広い!
鉱石なら確かこの前ご褒美ダンジョンで沢山貰って来たんだった。私が持ってても使い道ないし、ギムルさんに使ってもらおう!
「ふっふっふっ。実は最近こんな物をゲットしたのだよ。良かったら素材の足しにして?」
ご褒美ダンジョン産の鉱石を収納から出し、ギムルさんへ進呈する。
種類は何かって?もちろん全種類!私に鉱石の善し悪しは分かりません!
「おいおいおい、こりゃ虹晶石じゃねーか!」
「虹晶石!?」
ギムルさんとテオ君が、危うく腰を抜かすレベルの鉱石だったらしい。山ほどくれたから、てっきり中堅ぐらいのレア度かと思ってたよ。
「一体こんな量の虹晶石を、どこで手に入れて来たんだよ・・・。」
「桜さん、凄いっす!」
「出処は西の海にある離島だよ。その島で取れるタコが美味しいんだよ~!」
昨夜のたこ唐も最高でした!旨みがギュッと詰まってるんだよね。
「タコっつーのはよく分からねーが、西の離島ってそりゃあ・・・エールランド帝国西の海域にある、柔らかい悪魔の住む島の事かい?」
「悪魔は住んでなかったよ?女神様なら居たけど。エールランド帝国の西側にあるから、多分その島の事かな?」
柔らかい悪魔って、もしかしてタコの事?すみ吐くから?
ギムルさんが頭を抱えて、何やら唸っている。頭が痛いのかな?
そっと回湯を差し出すと、瓶を受け取り一気に煽った。
「ってそうじゃねーだろう!エールランド帝国と離島の間には妙な流れの海流があって、そうそう辿り着けねえ。
何とか海流を抜け、あの島に上陸しようとしたら、今度は浜に柔らかい悪魔がうじゃうじゃいて上陸出来ねーんだよ。」
妙な海流・・・もしやレイアさんの仕業なのかな?それに悪魔って・・・。
「もしかして柔らかい悪魔ってタコの事?」
収納からタコを出して見せると、若干青ざめたギムルさん。タコにトラウマでもあるのかな?
「そいつだ!間違いない!斬れねーわ、潰れねーわ、すみ吐くわで、厄介な奴なんだぞ!?どうやって倒した!?」
「魔法でこうスパッと。」
「魔法使えるやつも、こんな鋭利な刃物で切ったみたいにはならなかったぞ!?あぁ、まぁ桜は色々と規格外なんだろうな。」
何やら納得しているけど、魔法はイメージ!だからきっと現代の技術を知ってるってだけでも、イメージ力はこの世界の人より高い気がする。
「で、この悪魔を収納してるが、一体何に使えるんだ?防具には使えそうにないぞ?」
「えっ?食べるんだよ?」
「「はぁ!?」」
2人して、何言ってんだコイツ。みたいな顔で見るのはやめてください。
「言っとくけど、昨日2人共食べてるからね?」
「こんなヌメヌメした奴、食べてないっすよ!」
「・・・嘘だろ!?昨日のどれだ!?」
「これ!美味しい美味しいって、皆で食べてたでしょ?」
そう言って目の前に、収納から出したタコの唐揚げを置くと、ギムルさんもテオ君も固まってしまった。
そんな2人の目の前で、1つバクりと食べてみる。うん!美味しい!
「桜!俺も食いたい!」
「僕も食べたーい!」
「ご飯食べたばっかりだから、少しだけだよ?」
「「 はーい!」」
コタロウとリュウにもあげると、美味しそうに食べている。
そんな光景を、口を開けて呆然と見ていたギムルさん。荒療治で行ってみよう!
「えいっ!」
「うわっ!」
ギムルさんの口の中に、タコの唐揚げを1つ放り込む。
その香ばしい匂いと、カリッと揚げた衣の味を体が思い出したのか、反射的にモグモグと口を動かしている。
「・・・・・美味い。」
「でしょでしょ!!!ヌメリの下処理をしっかりすれば、タコは美味しいんだからね!」
凄く悔しそうな顔で咀嚼しているギムルさんに、思わずドヤ顔をしてしまう。
「・・・俺にも1つ欲しいっす。」
「良いよー!はい、どーぞ!」
テオ君の目の前にタコの唐揚げの入ったお皿を置くと、彼は意を決したかの様に1つ口の中に放り込んだ。
そんな戦いに挑む様な顔で食べるものじゃないんだけどね?
「美味いっす!!!」
テオ君は1つ食べてタコの美味しさに目覚めたのか、そのまま1つ2つと続けて食べている。
「テオ、俺にも寄越せ。」
「嫌っすよ!コレは桜さんが俺にもくれたやつっす!」
「ケチケチするなよ!」
「いくら親方でも、こればかりは譲れないっすよ!」
テオ君とギムルさんがタコの唐揚げを取り合っている。
さっきまで悪魔だ、食えないなんて言ってたのに、あっという間にタコの魅力に目覚めたね!今度はたこ焼きも食べさせてあげよう!
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