第138話 再会

 温泉街を宣伝してから1週間が経過した。まだ?とも、もう!?とも思える濃い1週間だったな。

 最近はヒューゴやコルトのおかげで、警備面も強化出来てる事もあり、温泉街での常時MAP使用は止めている。ずっと使い続けてると、集中力も落ちてくるしね。


 コタロウとリュウは昨日のマザースライムとの戦いの疲れも癒え、影から出て元気に駆け回っている。

 あとで宝箱からゲットしたブラシで、早速ブラッシングしてみよう!


 皆の様子を見て回る為、今日もコタロウの背に乗り街中をウロウロしていると、温泉街の入口がある方向がザワついている。


「桜、血の匂いがする。」

「魔物の血の匂いじゃないよー。」

 サーッと血の気が引いていく。誰か警備隊のメンバーが怪我をした!?それとも冒険者達!?


 慌ててMAPを表示する。

「・・・・・・・えっ?」

 表示された名前に、一瞬息が詰まる。コタロウ、リュウと一緒に慌てて入口付近まで転移すると、強烈な鉄の匂いが漂ってきた。


 私の様子に何かを察したのか、コタロウが猛スピードで血の匂いが1番強い場所へと走り寄る。

「ごめん!ちょっと通して!!!」

 コタロウの背から飛び降り、力が入らない足に活を入れながら、人垣をかき分けていく。


「おい!しっかりしろ!着いたぞ!!もう大丈夫だからな!」

「お願い!誰か助けて!」

「治癒士か神官を連れて来て下さい!早く!頼むよ!!!」

「アレックス!!!おい!返事しろ!!!」


 悲鳴にも似た叫び声が聞こえてくる。視界が開けると、そこには血塗れの3人の男性が横たわっていた。明らかに致命傷だと思われる出血量で、辺りに血溜まりが出来ている。


「っ!!嘘でしょ・・・。レオさん!イアンさん!ミレイユさん!!!」

 収納から瓶ずめしていない傷湯を、ありったけ3人の上に直接出す。


 バッシャーーーーーーーーーーーン!!!


「おい!!!お前、何すんだよ!!!」

「レオさんを殺す気か!!!」

 仲間であろう冒険者達が、殺意を滲ませながら私に近寄ってくる。


「桜に近付くな!」

「桜ちゃんに怪我させたら殺すよ。」

「なっ!フェンリルの変異種か!?」

「何でこんな所に!?ここは安全なんじゃなかったのか!?」


 コタロウとリュウが私に近付く冒険者に威嚇し、足を止めさせる。おかげで私はレオさん達の近くに辿り着くことが出来た。


「桜・・・か?」

「レオさん!!!良かった!間に合った!」

 普通だったら助からないであろう傷まで、綺麗さっぱり消えていた。増血の効能もあるから、貧血になる事もないはず。


 イアンさんとミレイユ姐さんに慌てて顔を向けると、傷は全て消えていた。しかしまだ目を覚まさない。


「何で!?傷は全て治ったはずなのに!」

「あー・・・大怪我をしたショックと、ここまで来るのに相当無理をさせたから、疲れが溜まってんだろ。寝かせておいてやってくれ。」


 レオさんは頭をかきながら、安心したのか笑っている。

「久しぶりだな。元気にしてたか?」

「っ!うん・・・うん・・・私は・・・元気だよっ。」


 声が詰まって上手く話せない。目元が熱い気もする。

「桜、助かった!ありがとな!お前さんの元気な姿がまた見られて良かったよ!」

 ギムルさんが後ろから頭をポンポンと優しく撫でてくれる。それ今やったら駄目なやつ。目から溢れる水が止まらなくなるから。


「桜さーーーん!ありがとうございますぅぅぅ!うわぁぁぁん!」

 ここまで張り詰めていた物が切れてしまったのか、マリーさんが泣き出してしまった。


 そこへちょうど騒ぎを聞きつけたアンナとガインが駆け付けた。

「マリー!?」

「お前、何でここに・・・。まさか怪我」

「してないよぅぅぅぅぅわぁぁぁん!お兄ちゃんのバカーーーーー!!!」


 漂う血の匂いに慌てたガインに、すかさず訂正するマリー。

 泣きじゃくる妹をそっと抱き寄せながら、背中を優しく撫で、無事を確認して安堵している。


 久しぶりの再会が、まさかこんな鉄の匂いにまみれるとは思わなかった。間に合ったのは本当に単なる偶然。1歩間違えれば・・・いや、そこは考えなくても良いか。


「イアンとアレックスは俺らで運んでおくから、桜は皆の案内頼むな。」

「ありがとうヒューゴ。よろしくね。」

「いや・・・アレックスを助けてくれてありがとう。」

「ミレイユって呼ばないと、また姐さんに怒られるよ?」

「ははっ、違いない。」


 あんな姿の幼馴染を見たからか、少し顔色が悪いヒューゴ。それでも助かった安堵感もあるのか、私の言葉で少しだけ笑顔を見せてくれた。


 さあ、まずは温泉で疲れを取ってもらおう!その間に食事を準備して・・・

「既にその様に指示しております。」

「うわっ!クレマン!?」

 だからまだ何も言ってないんですけど!?



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