第119話 エルフ姉妹の事情

 私の提案に驚き固まる姉妹。訳ありエルフ姉妹を離れ離れにしてはいけない気がする。

 それに何よりお姉さんの機織りスキルは、浴衣や甚平の制作を助けてくれる素晴らしいスキルだよ!この姉妹逃せない!


「私が昔住んでた国に、浴衣や甚平といった湯上りに着るのに丁度良い服があったの。だけど、どこの国で探しても見つからない。

 それなら一から作ってしまえば良いと思って、腕の良い職人を探してたの。」


 そう何故か忍装束はあるのに、浴衣や着物はどこを探しても見つからなかった。

 先輩勇者が作り方が分からなかったのか、もしくは文化として根付かなかったのか・・・。あれば楽だったんだけどな。


「どのような服なのですか?」

 おぉ!食いついた!知らない服は職人として気になるといった所かな。


「浴衣はこんな形で上から下まで一繋ぎ、生地は木綿。腰に帯という太めの紐みたいな物で結んで着るんです。それで甚平は・・・」


 あまり上手ではないけど、絵を描きながら浴衣と甚平についてザッと説明してみる。

 本当なら草履や下駄も欲しいけど、まだそこまで手が出ない。せめてサンダル・・・。カイにまた職人探しを頼むしかないな。


「っ!?」

 カイがぶるっと身震いした気がするけど、きっと気のせいだ。


「本当は生地に柄があると可愛いんだけど、絞り染めとか落ち着いたら試してみたいな。」

「柄・・・とは何ですか?」

 今度は店長さんが食いついた!機織りスキルがあるくらいだから、新しい布について興味があるのかも。


「例えば浴衣にこんな感じで色が違う線が入っていたり、お花が咲いていたら、お洒落だと思いませんか?」

 縦線のある浴衣と、花の咲いた浴衣の絵を描いてみる。


 レースやフリル、リボンなどで飾ってある服はあるけど、やっぱり柄は無く、単色を合わせるのみ。

 これはこれで素敵なんだけど、やっぱり浴衣は柄があると尚可愛いと思うんだよね。


「こんな独創的な布、見た事ないです!」

「この浴衣とかいう服、変わっていますが作ってみたい・・・。」

「じゃあ!」


 プレゼンに手応え有り!それでもやっぱり煮え切らない表情をしている。3姉妹って所に、何か事情があるんだろうけど・・・。どうきり出すか・・・。


「何かこの国を出られない理由でもあるのですか?」

「「!!」」

 フェデリコの質問に、姉妹はビクリと肩を震わせる。

 今まで静かに聞いていたかと思えば、ド直球に聞くね!?


「何か力になれる事もあると思うの。良かったら話を聞かせてくれないかな?」

 長い沈黙が続く。今日会ったばかりの私に簡単には話せないよね。

 それでも即断らないって事は、信じたい、助けてもらいたいって気持ちもあるという事。足りないのは私への信頼だよね。


「そうだ!それなら私が先に秘密を見せますね!転移!」

 転移魔法を使って店長さんの横に移動する。もう一度転移し、今度は妹さんの隣へ。2人は驚いて目を剥いている。


「転移魔法。バレたら危険が降りかかる可能性が高いので、内緒でお願いします。」

 止めとばかりに、2人に向かって精一杯にっこりと微笑んでみる。


「何故見ず知らずの私達に、そんな重要な秘密を教えて下さったのですか?」

「ごめんなさい。実は私、鑑定魔法も使えるんです。それでお2人のステータスを見てしまって。」

「「鑑定魔法!?」」

 あ、固まった。そりゃ秘密が勝手に覗かれたら嫌だし、怖いよね。


「本当にごめんなさい。お2人がエルフで姉妹という事も、下に妹さんが居られる事も、年齢も絶対誰にも言いません!」

 固まるどころか、2人共顔面蒼白になる。ララノアさんに至ってはガタガタと震えている。


「全て踏まえてもう一度言いますね。2人共・・・いや、3姉妹で温泉街に働きに来ませんか?」

「えっ・・・?」

「良いのですか?」

「もちろん!」


 私の返事を聞くと、2人の目から大粒の涙が溢れ出した。誰にも相談出来ず、不安だったんだろうな。


「実は・・・私達はエールランド帝国の南にある小さな森にある集落で暮らしていたんです。」

 エルミアさんが涙を拭きながら、ポツリと話し始めた。


 集落で暮らしていたエルミアさん3姉妹は、毎日洋服を作り、それをエールランド帝国に定期的に売りに行って生活をしていた。

 ある時、いつもの様にエールランド帝国まで服を売りに行った三女が、帰還予定日を過ぎても帰って来ない。


 心配した2人はエールランド帝国まで探しに行く事に。けれど、いくら探しても一向に見つからない。

 捜索範囲を広げる為、二手に分かれて探すと、今度はララノアさんが帰って来なくなった。


 エルミアさんが必死にルフト中を探したけど、それでも2人は見つからない。そしてまだ探してない場所がある事に気付いた。奴隷商だ。


 まさかそんなはずは無いと思いながらも、奴隷商へ足を運び、そこでララノアさんを見つけた。

 咄嗟に有り金全てを出し、ララノアさんを救い出したが、手の甲には既に奴隷紋が付いていた。消して欲しいといくら言っても、奴隷紋無しに奴隷は売れないと言われ、泣く泣くこのまま連れ帰ったらしい。


「せっかく助けたのに、どうして集落に帰らず今もエールランド帝国に?」

「それが・・・妹が奴隷商に居るかもしれないんです。まだ私が奴隷商に捕まっている時に、何度かエルフを捕まえたという話が聞こえて来てて。」


 三女さんはエルフだってバレたって事!?もしくは別のエルフ!?


「でも私が居た所では、エルフを見かけなかったんです。だから何処かに隠されてるのか、それとも何処か違う所に居るのか何も分からなくて・・・。とりあえず情報を得る為に、この国に留まっていました。」


 ララノアさんが捕まっていた奴隷商の場所を、MAPで調べてみる。

 2階建ての建物の1階に、かなり多くの人がいるのが見える。2階に居るのは数人。そして、地下にも10人近くの人がいる。


「ララノアさんが居たのは1階?それとも地下?」

「1階です。私が探しに行った時、地下なんて案内されませんでしたよ!」


 という事は、買われてなければこの地下に居る可能性が高い。急がないと、いつ買われるか分からない。


「エルミアさん、ララノアさん。見つけたかもしれませんよ!」



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