第118話 スカウト

 奴隷制度について全く知らない私に、フェデリコが説明してくれる。

 この世界の全ての国に奴隷制度がある訳では無い。エールランド帝国とシューレ王国にのみ、奴隷制度が残っているらしい。

 借金が返せなかったり、戦争に負けたり、犯罪を犯したりすると奴隷にされる制度。


 ただ攫われて奴隷にされるケースもあるらしい。これは本来なら絶対してはいけない犯罪。

 そして攫われ奴隷にされるのが、エルフや獣人、ドワーフ等の種族。


 エールランド帝国やシューレ王国は人族至上主義で、エルフ等の人種を自分たちより下に見ていて、人とは扱わない。

 なので攫って奴隷にしても、犯罪にはならないと・・・。


 ふざけてる。怒りで手が震えてくる。エルフにはまだ会った事ないけど、出会った獣人もドワーフもみんな良い人で大好きだよ。

 私が日本人だから、平和な世界で生きていたからこんな風に思うの?それでも良い。偽善でも何でも良い。私まで理不尽に付き合う通りはない!


「その子を従業員にしたい。」

「良いと思いますよ。」

 フェデリコはあっさりと了解してくれた。反対されるかと身構えていたから、少し肩透かしをくらった気分。


「ただ、奴隷の主人から譲渡もしくは買い取らねばならないかと。」

「彼女の扱いは奴隷としては相当良い扱いだと思います。店主はエールランド帝国民としては珍しい程、考え方が柔軟なようです。」

「それなら話が早く済みそうだ。私も一緒に行きましょう。」

「えっ!?」

 フェデリコの発言に驚いた声を出したのはカリオだった。


「というわけで、私が留守の間は頼んだよカリオ。」

「そんなぁぁぁぁぁ。やっと仕事が捗りかけていた所だったのにぃぃぃぃぃ。」

 ウィンクしながらカリオに仕事を投げるフェデリコ。仕事を投げられたカリオは床に蹲ってしまった。


 カリオの悲痛な叫び声を聞きながら、フェデリコとカイと共に、食堂へと降りる。カリオごめん!


「軍資金が必要になるかもしれないね。どうしようかな。相場とか全く想像つかないけど、今の手持ちでは正直心許ない。ドワーフ達への支払い分は確実に確保しておきたいし・・・。」


 お酒を売っちゃう?それとも傷湯を売る?レシピは今登録しても、すぐには売上が上がらないし・・・。


「ドワーフへの支払いは、温泉街の売り上げから支払う予定ですよ。既にローマン商会へ商品を卸したので、かなりの売上が入ってきてます。」

「そうなの!?」

 知らなかった。一体卸値はいくらなのか。

 ・・・怖くて聞けないね。


「そうそう。それと私の身分証を入国審査で提示した場合、即刻捕まると思います。なので、今回は裏口入国した方がよろしいかと。」

「捕まるの!?」

 身分証偽造でもしてるの!?でもアマリア聖王国には普通に入れたよね?


「腐ってもシューレ王国宰相なので、名前だけは売れてるんです。」

「そうだった!分かった。じゃあエールランド帝国の・・・どこの都市に行けば良い?」

「エールランド帝国の首都ルフトに、彼女の居る店があります。」

「・・・あった。ここだ。じゃあ転移するよ。」

「あの!待って下さい!」


 焦った声でカイに呼び止められる。余程焦ったのか、珍しく大きな声だったので少しだけ驚いた。


「何かあった?」

「あの・・・着替えてからでもよろしいでしょうか?」

 少し気まずそうに申告するカイの姿はいつもの忍装束。すっかり見慣れてて違和感なかったけど、普通に街をこの姿で歩いてたらすぐ捕まるね。




「うっひょぉぉぉぉ!私は今、元敵国に来てるんでムグッ!!!」

「ちょっと!毎回叫ばないで!?それに今の発言はシャレにならないからね!?」

 フェデリコの口を手で塞ぎながら、MAPで周りを警戒する。少しの間様子を伺うも、敵意を持った印は現れない。


「ふぅーー・・・。フェデリコ、次やったら二度と連れて来ないからね。」

「わざとではないんですよ!?」

 フェデリコをひと睨みし、抗議の声を封じ込める。無自覚が1番タチ悪いんだからね。


「彼女がいる店はすぐそこなので、ご案内致します。」

 そう言って前を先導するのは、冒険者風の格好に着替えたカイ。いつもは鼻から下を黒い布で覆っているから、顔が全部見えてとても新鮮。そして予想通りのイケメンだ。


 少し歩いた先に見えたのは、素朴な造りだけど、どこか温かみを感じさせるお店だった。


 カランコロン


「いらっしゃいませ!」

 扉を開けると可愛らしいドアベルが鳴る。音を聞いた2人の女性が、奥から出てきた。


 1人は店長らしき20代半ばぐらいの女性で、花萌葱色をした髪を三つ編みにし、右側に垂らしている。フワッとした雰囲気の可愛らしい女性。

 もう1人は10代後半くらいかな?藍鼠色の髪を肩より上に切りそろえたボブスタイルで、キリッとした印象の女性。そして何より特徴的なのはその右手の甲の紋様。


 これが奴隷紋と呼ばれる紋様か。フェデリコが言うには、奴隷が逃げた時に苦痛を与えたり、居場所が分かる様になっているとか何とか・・・。ろくな物じゃないね。


「本日はお直しですか?それとも新しい服をお探しですか?」

「初めまして。私はカティアの森に温泉街を作っている桜と言います。実は温泉街で働いてくれる裁縫師を探しているのですが、ここに腕利きの方が居られると聞いてお誘いに来ました。」


 私の話を聞いた店長さんの顔は輝き、藍鼠色の髪の女性の顔は曇ってしまった。あまりにも対象的な表情に、思わず戸惑ってしまう。


「ララノア!お店の事は良いから、是非お受けして!」

「でも・・・・・。」

「この国から出るチャンスなのよ!これを逃したらもう無いかもしれない!」

「・・・・・・・。」

 何か事情があるのかな。手がかりを求めてこっそり2人を鑑定してみる。



 エルミア ( 120 )

 HP 280/MP 7000

【魔法】

 風魔法・水魔法

【スキル】

 機織り

【シークレット】

 エルフが耳を隠した状態。ララノア、メルロス三姉妹の長女。



 ララノア ( 86 ) 【状態:奴隷】

 HP 500/MP 3500

【魔法】

 風魔法

【加護】

 職人の神の加護

【シークレット】

 エルフが耳を隠した状態。エルミア、メルロス三姉妹の次女。



 情報が過多過ぎて、処理が追いつかない。エルフ?三姉妹?それに年齢が。

 あれ?何故か急に寒気が・・・・・。風邪ひいたかな。


 込み入った事情がありそうだけど、とりあえずこれだけは決めた。

「2人共うちの温泉街へ来ない?」



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