第107話 商会長ローマン

 そうと決まればさっさと退散!グレイソンさんにせっかく紹介状を書いて貰ったけど、買い物は違うお店でしよう。


「誤解も解けた様なので、私達はそろそろお暇しますね。」

 にっこり笑って私が席を立つと、青ざめたおじ様が私の前に走り込んで来た。


「お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません!重ねてお詫び申し上げます!」

 頭を下げるおじ様の姿を見て、孫娘も泣きながら隣で頭を下げている。


「頭を上げてください!誤解が解けたなら本当に大丈夫なので!それでは!」

「ああっ!待って下さい!」

 なおもおじ様に引き止められるが、扉を開けて出ようとすると、フェデリコに前を塞がれた。


「ここまで首突っ込んじゃったんだし、面倒がらずに話を聞いてあげたらどうですか?」

 さっきまでずっと後ろで笑ってた癖に、急に真面目な事を言ってきた。いや、この展開を面白がってるな!?


 まだ付き合いが短いけど、もうフェデリコの性格が大体掴めてきたよ。とにかく面白い事が好きなんだ。しかもトラブルウェルカムと来た。非常に厄介だ。


 私はジトっとフェデリコを見て、簡潔に判決を言い渡す。

「フェデリコは私が許可を出すまで、拠点のドリンクバーと温泉の使用禁止。」

「えっ!?ちょっ」

「それで、何か私に話したい事でも?」

 フェデリコの抗議の声に被せて、おじ様へ話し掛ける。反論は聞きません!


「頼める立場では無いのは重々承知しておりますが、どうか詳しい話を聞かせて貰えないでしょうか!お願いします!」

「話というと、お店の改善点ですか?」

「はい!そうです!大商会と呼ばれるほど大きくはなったのですが、それは貴族に向けての商売で利益を得ているからで、店舗としては中々売上が上がらず悩んでいるのです。」


 どうやらここは一般のお客さんにも、気軽に買ってもらえる様に作ったお店らしい。

 それにしては外観から内装まで、高級感がありすぎて入りにくい。何を売ってるかも分からないから、高い商品しかないかと二の足を踏みそう。


 雑貨屋には結構お客さんが溢れてるから、一般的に生活している人達がお金が無いって事もないだろう。

 一から説明するとすごく時間が掛かるし、改善点だらけでおじ様の心折れないかな。よし!その時はフェデリコに丸投げしよう!


「分かりました。まずは問題点をお伝えしますね。」

「はい!お願いします!」


 問題点は以下の通り。

 ・外観と内装が高級感がありすぎる

 ・売っている物が分からないから、入りにくい

 ・陳列量が多すぎて、ごちゃっとした印象

 ・商品の陳列が単調

 ・売り場に統一感がなく、目当ての物が探しにくい


 文で伝えると長くなり過ぎて分からなくなりそうだったので、簡潔に伝えてみると、おじ様が必死にメモを取ってる横で孫娘は口を開けてポカーンとしていた。とりあえず放置しよう。


「なるほど・・・。高級感があれば良いという訳でも無いのですね。」

「一概にもそうとは言えないのですが、何を売っているか見えないと、外観から想像すると思うので入りにくくなるとは思います。」

 私も紹介されてなければ入らなかったと思う。


「それで改善点なのですが・・・。」

 問題点を1つ1つ例に挙げて説明していく。統一感の出し方、グループ分けの仕方、動線の確保、陳列量の調整について、陳列のアクセントの出し方等など・・・。


 小一時間ぶっ通しで話していた為、喉がカラッカラ。合間にお茶も沢山飲みすぎて、お茶っ腹だよ!お昼ご飯の時間とっくに過ぎてるのに、全く食べれる気がしないよ!



「とりあえずこんな所ですかね。」

「ありがとうございます!!!こんな有益な情報を教えて貰って良かったのですか!?」

 正直初めは気が乗らなかったけど、一生懸命に聞いているおじ様を見て少し絆されてしまった。顔の良いおじ様と話してるのが楽しかったわけでは決してない!


「私は商人じゃないので、全く問題ないですよ。」

「本当にありがとうございます!何かお礼をさせて頂きたいのですが・・・。」

「それなら今日大量に買わなければ行けない物が沢山ありまして。力になって貰えませんか?」

 丁度良いのでこのままここで爆買いしてしまおう!


「それはこちらとしても有難いです!自己紹介が遅れてしまいましたが、私は商会長のローマンと言います。この子は孫娘のシャーリーです。シャーリーご挨拶を!」


 ローマンさんはまさかの商会長さんだった。てっきり店長さんかと思ってたよ。

 孫娘は未だに魂が口から飛んでいるみたいにポカーンとしていていて、ローマンさんの声は届いてなさそう。


「私は桜と言います。カティアの森に温泉街を作っている所です。足りない物だらけなので、沢山買わせて下さいね!ここからはここにいるフェデリコに任せてますので、私は先にお暇させてもらいますね!」

「えっ!?」

「桜様、何から何までありがとうございました!」

 ローマンさんが改めて深々と頭を下げてくる。腰が低い商会長さんなんだな。これからもっと素敵なお店になりそうだね!


「そういう事でフェデリコ、後は任せたよ!夕方に商業ギルド集合ね。あ!カリオは私が連れて行くから!」

「えぇぇぇぇ!?」

「が・ん・ば・っ・て!またね~。」


 心配そうなカリオの背中を押しながら店を出て、市場へと向かう。

 さあ、残り時間は限られてる。食材も山ほど買わなきゃね!


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