第106話 妨害なんてしていません

 使い慣れた工房の方が作業しやすいだろうという事で、建物ごと夜に拠点へ転移する予定。

 それにしても、グレイソンさんとフェデリコは随分と気心知れた仲なんだな。転移で建物ごと拠点へ移動する話をした時の掛け合いも、旧知の間柄だからこその気安さがあった。


「夜に建物ごと拠点まで転移するから、荷物はそのままで良いよ。」

「はあぁ!?お前説明省くのそろそろ止めとけや。」

「そうそう!魔道具の素材、夜までに買っといて。」

「フェデリコ、お前な・・・・・」

「じゃあ、また夜に!」


 グレイソンさんが脱力してる間に、笑いながらさっさと私達を連れて店を出てしまう。

 背中からグレイソンの叫び声が聞こえた気がしたけど、楽しそうに聞き流していた。また拠点が賑やかになりそうで楽しみ!




 次に向かうはグレイソンさん馴染みの商人が営んでいるお店。グレイソンさん曰く、各国を股に掛け商売をしているやり手の商人らしい。


 というわけで、グレイソンさんからの紹介状を持ってお店に来てみたけど・・・。

 ここが支店?本店と言われてもおかしくない程大きな建物だ。

 ハンメルで買い物したお店も大きかったけど、このお店はもっと大きい。


 扉を開けて中に入ると、目の前に広がるのは圧倒的な物量の品々が、綺麗に陳列されていた。日本のデパートみたい。


「だけど惜しい。せっかくの良い商品も詰めてるだけだと、少しごちゃっとした印象で目に止まらずに通り過ぎちゃう。ポップとかあればもっと見やすいし、一目でお勧めとか分かるのに勿体ないな。」


 思わず呟いた声が聞こえたのか、近くにいた可愛い店員さんが近付いて来た。

「お客様、当店に何か不備が御座いましたか?」

 やっぱり聞こえてたんだー!笑顔で聞かれてるけど、逆にその笑顔が怖い!!


「あー、えーと、不備はありませんよ。」

「でも先程、惜しいとか勿体ないとか言われてませんでしたか?」

「言った・・・かな?」

「確かに言われてましたよ!」


 いちゃもん付けた訳じゃないのに、ここまで絡まなくても良いんじゃないかな!?

 困ってチラリと後ろを振り返ると、楽しそうに笑っているフェデリコと困ったようにオロオロしているカリオが居た。フェデリコめ!楽しんでるな!?


「どこか他の商店の回し者ですか?妨害する気なら警備隊を呼びますよ!」

「いやいやいや。小さな声で思った事を呟いただけで妨害とか言われるのは、こちらとしても黙ってられませんよ?それともこのお店では、一切一言も言葉を発してはいけないのでしょうか?」

「誰もそんな事言ってないでしょ!!!!」


 完全に臨戦態勢の店員さんだけど、何をそこまで目くじら立てる事がありました!?

 店員さんの怒鳴り声で、周りに居たお客さん達も集まって来てとても居心地が悪い。今すぐ転移で帰りたい。


「大きな声が聞こえたが・・・何かありましたかな?」

 穏やかな声をした白髪のおじ様が、店の奥からこちらに向かって歩いて来る。

 真っ赤になって怒っている店員さんと、若干引いてる私を見て困惑している。


「この人が!!!!!」

「ここでは他のお客様のご迷惑になります。場所を移して説明させてもらってもよろしいですか?」

 再び怒鳴りかけた店員さんの言葉をやんわり遮る事に成功。落ち着いて話しましょう。


「そうして頂けると助かります。お連れ様もご一緒にこちらへどうぞ。」

 完全に見物客と化したフェデリコとカリオを連れと見抜くとは!おじ様やるな!



 案内されたのは豪華な装飾品で飾られた応接室。てっきりもっと簡素な所に案内されるかと思ったけど、思いの外扱いが悪くない。

 綺麗な白磁のティーカップに、ふんわりと花の香りがする紅茶を私の目の前に置くと、おじ様が口を開いた。


「それで、一体何があったのでしょうか?」

「聞いてよ!!!こいつが!!!」

 そして再び店員さんが怒鳴りながら、さっきあった事を自分の主観に基づいて捲し立てた。


 すごいね。私がいつの間にか他店から来た妨害スパイに仕立てあげられてるよ。

「ぷっ!」

 後ろでフェデリコが笑いを必死に堪えてる。聞こえてるからね?帰ったら仕事詰め込んでやる!


「彼女の話は本当ですかな?」

 おじ様は、変わらず穏やかな声で私へ問いかける。店員さんの話を鵜呑みにしていないし、これなら話が通じるかな?


「全くの誤解です。私が言ったのは・・・」

 さっき私が呟いた言葉を一言一句違えずに伝えると、おじ様は目を見開き、慌てて私に向かって頭を下げた。


「うちの店員が大変なご迷惑をお掛けしてしまい、誠に申し訳御座いませんでした!」

「おじい様!何で謝るの!?こいつは」

「お前は今の言葉のどこを聞いて、妨害だなんて勘違いしたんだ。あの言葉は今伸び悩んでいるうちの店にとっての、救いの言葉だったかもしれないのに。」

「・・・・・えっ?」


 おじ様の言葉に青ざめた店員さんは、まさかのおじ様の孫娘だった。

 確かに瞳の色は同じ藤色で、どことなく似ている気もする。2人の印象が違いすぎて、全く気付けなかったよ。


「そんな・・・でも!」

「惜しいや勿体ないという言葉は、もっと良くなる方法を知ってるから出る言葉であって、貶める言葉ではない!!!」

 なおも食下がる孫娘に、ついにおじ様が声を荒らげた。孫娘は叱られた事が堪えたのか、目に涙を溜めてプルプル震えている。


 今のこの状況はとても居た堪れない。お説教は私達が居ない時にして欲しい。

 そうだ!誤解も解けた様なのでお暇しよう!今すぐに!!!


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