第105話 魔道具師グレイソン

 私達は温泉宿に必要な物や魔道具を買ったり、魔道都市エテルネを遊び尽くす為の資金を下ろすべく、商業ギルドへと来ているのだが・・・


「えっ・・・・・?」

「えーと、もう1度お伝えしますね。預金残高は白金貨56枚、金貨71枚、銀貨33枚です。」

 ・・・・・という事は、日本円に換算すると56,743,000円!?そんなに!?前回ハンメルで確認した時はここまで多くなかったよね!?


 という事はアマリア聖王国で、レシピが売れてるのかも。順調に人が来てるんだ!良かった!これでアマリアは安心だね!

 また在庫が無くなる前に、次のワインや牛乳を納品しに行かなきゃ。


 ドワーフ達への支払いも必要なので、白金貨50枚を下ろした。受付のお姉さんがお金を運ぶ時、プルプルしてたのが可愛かったな~。



 馬車はこのまま商業ギルドへ預けて、いざ買い物へ!

 エテルネの街を3人でぶらぶら散策する。他の国とは違い、あちこちに見た事の無い魔道具が使われていたりと、歩いているだけでも楽しい!


「それにしても桜様は大金をお持ちなんですね。驚きました。」

「私も驚きました。レシピを登録してたのですが、多分それらが売れたのだと思います。」

「なるほど・・・帰ったらその辺も詳しく聞かせて下さい。把握しておかないと大変な事になりそうだ。」

「??? 分かりました。」

 私の返答にフェデリコが苦笑いしている。何が大変なんだろう。まあいっか!今は魔道具探しに集中!


「それでどんな魔道具をお探しですか?」

「調理用の魔道具です!凍るくらい冷やせる箱とか、高速で回転して混ぜる泡立て器とか、色んな野菜や果物を細かく切り刻んでジュースにする魔道具を探してます!」

 フェデリコとカリオ、2人共にポカンとしている。やっぱり伝わりにくかったかな。


「桜様、魔道具を探し回る前に、私の知人に会いに行きませんか?彼は凄腕の魔道具師なので、もしかしたらお探しの魔道具があるかもしれませんよ。」

「凄腕!そこならあるかもしれないですね!是非お願いします!」

 もし魔道具が見つかれば、またレシピが増えそう!料理長と一緒に色々作りたいな!


「 ( フェデリコ様、桜様のお探しの魔道具は現存しないのでは無いでしょうか。) 」

「 ( ああ。無いだろうね。桜様のおられた世界は、随分と進んだ文明のようだ。) 」

「 ( ガッカリされるでしょうね。) 」

「 ( 大丈夫だ。無ければ作り出せば良い。彼の腕なら可能だろうよ。) 」


 何やらフェデリコとカリオがコソコソと内緒話をしている。何か欲しい物でも見つけたのかな?



 魔道具師の店が集まる通りから、くねくねと複雑な路地を抜けた先に、フェデリコの友人のお店があった。


【 魔道具師 グレイソンの店】


 一見するとお店とは気付かないであろう2階建ての一軒家。かろうじて小さく掛けられた看板で、魔道具師の店だという事が分かる。

 隠れ家を見つけたみたいでワクワクする!


 フェデリコを先頭にお店の中へ入ると、外観を良い意味で裏切る程の魔道具が、店中に所狭しと並べられていた。


「うわぁ~。これ全部魔道具!?すごい!」

 パッと見ただけでは、どんな風に使うかも想像が出来ない魔道具も沢山ある!これなら探してる魔道具があるかもしれない!


「誰かと思ったらフェデリコか!?そうか!やっとお前もあの国を捨てたか!」

 私が夢中で魔道具を見ていると、店の奥からここの店主であろう男の人が出て来た。

 歳はフェデリコと同じくらいかな?オリーブグレー色の髪に翡翠色の目の、推定50代の男性が、とても嬉しそうに、フェデリコの肩を叩いている。


「いやー、つい数日前まで軟禁されてたんだ。はははっ。」

「は?」

「で、こちらのレディに助けてもらった。」

「はあ!?」

「今は彼女に雇われて、カティアの森で温泉街を作っている所だ。」

「はあああああ!?」


 中々良いリアクションをする人だね。それにしてもレディという歳じゃないから、その紹介は妙に恥ずかしい。


「初めまして。桜と言います。今日は温泉街で使いたい魔道具を探しに来ました。」

「という訳で、物を凍らせる箱?とか、高速で回転して混ぜる器具?とか、果物を細かくしてジュースにする?魔道具を探してるんだが、あるかな?」

「ああ!?情報量多すぎて訳が分からん。」

 グレイソンさんはその場に蹲ってしまった。疲れてるのかな?


「グレイソンさん。お疲れの様なので、良かったらこれどうぞ。疲れが取れますよ。

 フェデリコにはこれを。馬車で舌を噛んでましたよね?」

 グレイソンさんには疲労回復の湯を、フェデリコには傷湯の入った瓶を渡す。


 グレイソンさんは怪しい液体を見るかのように、瓶を持ち上げて色んな角度から眺めている。

 そんな友を横目に、フェデリコは「これは助かります。」と言って一気に飲み干した。


 旧友が飲む姿を息を飲んで見ていたグレイソンさんも、意を決したのか一気に煽った。そして叫んだ。

「何だこれはーーーーー!!!疲れが吹き飛んだぞ!?むしろ漲ってきたぁぁぁ!!!」

 グレイソンさんが元気になり過ぎな気がするけど、とりあえず良かったかな。


「それでだ。さっき言ってた魔道具なんだが、俺の店にはない。というか、誰も作った事が無い魔道具だ。」

 やっぱり無いのか。あったらとっくに普及してそうだもんね・・・。


「そもそもその発想自体が無かったからな。だが聞いた今、作れると思う。というか作りたい!俺に作らせてくれ!」

「本当ですか!?是非作って欲しいです!」

 嬉しくて思わず飛びつきそうになった。危ない危ない。


「じゃあさグレイソン。カティアの森の温泉街に来ないかい?」

「面白そうだし、行く行く!」

 軽っ!何そのちょっとそこまで散歩に行くかの様なノリ!嬉しいけどね!


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