第104話 宣伝

「うっひょぉぉぉぉ。ガタガタ揺れますねぇぇぇぇぇ。」

 現在魔道都市エテルネ近くの林から帆馬車で移動中。

 ガタガタ揺れて舌噛みそうな中、テンションの高いフェデリコは止まらない。器用だな~。


「私ぃぃぃぃ、国外に出るの初めてなんですよぉぉぉぉぉ。もう楽しクベッ!」

 あ、舌噛んだ。もの凄く痛そう。フェデリコが涙目になっているので、着いたら傷湯を渡しておこうかな。


 無事ではない人も若干1名いるけれど、魔道都市エテルネへ到着。

 入国する為の馬車用の列に並んで待っていると、隣の列に並んでる冒険者達の話し声が聞こえて来た。


「なあ、本当にカティアの森に宿屋があるのか?」

「それを確かめる為に、冒険者ギルドへ情報を集めに行くんだろ?宿屋があれば、万全の状態でダンジョンに挑める!」

「単なる噂じゃないのか?」

「何でもこの前ここのギルドに、カティアダンジョンで倒したオークロードを持ち込んだ奴がいるらしい。」

「オークロードだと!?あの極上肉の!?オークションに掛けたら一体いくらで売れるんだろう!」

「いや、肉は解体後持ち帰ったらしい。」

「俺も食いてー!1度でいいから食ってみたい!」


 はい、とっても美味でしたよ!しかもダンジョンの魔物は、BOSSであろうと時間が経てば復活するから、定期的に狩って収納してある。おかげでいつでも食べられるんだよね。


 でも思った通り、カティアの森の宿屋の噂が広がり始めてる。恐らく数日中には温泉宿は完成すると思うけど、それ以外はまだまだ手付かず。調理器具や食器、消耗品等まだまだ揃ってない。人手も全く足りない。


 それに怪我人も大量に来そうだし、血に釣られた魔物もわんさか寄って来そう。今大勢の冒険者に来られたらパンクしちゃうよ。出来る限りの物資を買い込んで、帰ったらカイに従業員の募集状況を確認して・・・


 私があーだこーだと考えていると、ふいにフェデリコが帆馬車から顔を出し、とんでもない事を言い出した。


「そこの冒険者さん方、その噂は本当だよ。カティアの森には風呂にも入れて、飲んだ事も無いような美酒を振る舞う温泉宿があるのさ。」

 ギャーーーーーーーー!!!まだ宿が整ってないのに何て事を言うの!?しかも私にパチンとウィンクして、口には人差し指を当てている。


「本当か!?」

「嘘くさい。何でそんな事知ってるのさ。」

「今その宿から帰って来た所だからだよ。いやー、あのワインとオークロードのステーキは絶品だった!温泉に浸かるとみるみる疲れも取れていくし、この世の極楽浄土と言っても過言ではないね。」

 冒険者達がゴクリと喉を鳴らす。これは絶対来る気だね。


 フェデリコと冒険者達の話を聞きに、いつの間にか周りに人だかりが出来ていた。中には冒険者ではなく、商人らしき人の姿もチラホラ見える。

 フェデリコは何を考えてるの!?あーもうどうなっても知らないからね!!




 フェデリコの発言のせいで、入国審査の門前に人だかりを作ってしまい、何か揉め事かと警備が飛んで来る事態にまで発展。

 周りの興奮が収まらなかった為、順番すっ飛ばしてさっさと街の中に放り込まれてしまい、現在商業ギルドへと向かっている帆馬車の中だ。

 早く入国出来たのはラッキーだったけど、フェデリコの発言には困ったな。


「で、さっき何であんな事言っちゃったんです?まだ全然迎え入れる準備が出来てないですよ?」

 ジトっと恨みがましい目で見ると、フェデリコは実に楽しそうに笑っている。


「せっかく噂をしてくれてたので、ついでに宣伝をと思いまして。

 それに今日中に出発し、順調に進めたとしてもまずカティアの森まで急いで2日、そこから我らの拠点までどんなに急いでも5日はかかる。それだけあるなら大丈夫。私が整えてみせましょう!」


 おぉぉぉぉ!さすがクレマンお勧めのフェデリコ。何か考えがあるのかも。あれ?じゃあ今ここでのんびりしてて良いのかな。

「それでは今すぐ転移で拠点まで帰しましょうか?」

「何でですか!せっかく来たのに!」

 いやいや、だって時間は限られてるんだよ?油売ってて良いの?


「今日必要な事はもう割り振ってきてありますので大丈夫ですよ!なので今日は1日お供させて下さい!」

 必死な様子のフェデリコを見てふと思い出した。彼はずっと軟禁されてたんだった。

 しかも軟禁されるまでは、城に缶詰め状態で、国外に出た事さえない。

 せっかく解放されたんだから、少しは自由に楽しまなきゃね!


「それでは今日は1日楽しみますか!」

「「 おーーーーーー!!!」」

 御者台に居るカリオからも良い返事が帰って来た。カリオも楽しみだったんだね!よしまずは遊ぶ資金を下ろしに、いざ商業ギルドへ!!!


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る