第101話 フェデリコ
コツン、コツン、コツン
リリー達とお茶を飲みながら、城を出てからの事を話していると、窓に何かが当たる音がした。
窓の方を見ると、瑠璃色の可愛い小鳥が窓を突っついている。
カイが窓を開け小鳥を部屋の中に迎え入れる。水と木の実がそれぞれ入った器を小鳥の前に置くと、嬉しそうに小鳥が木の実を食べだした。
「カイは小鳥が好きなんだね!」
「あ、はい・・・その・・・シューレ王国を探らせていた者からの連絡・・・です。」
「・・・・・・・・・」
自分のお花畑な発想が恥ずかしい。しかも気を遣わせてるのが、余計に何とも言えない気持ちになる。
カイは少し気まずそうな顔で小鳥の脚に付いている小さな筒から、紙の様な物を取り出している。
「それで内容は?」
「隊長がお探しだった方の行方が掴めたそうです!」
「そうか!良くやった!」
普段感情を抑え気味なクレマンが、本当に嬉しそう。
「桜様がお探しだった【 拠点の管理が任せられる人 】が見つかりました。
彼はシューレ王国元宰相のフェデリコ。現国王に代替わりしてから急に姿を消し、消息不明となっておりましたが、どうやら現国王に辺境にて軟禁されているようです。」
クレマンが探す程だから、きっとかなり優秀な人なんだろう。だから邪魔になったって事?それで軟禁?あの腐った王ならやりかねない。もっと他に良い後継者は居なかったのかな・・・。なんて事を考えても仕方がないね。
とりあえず紙に書かれていた場所をMAPで探してみる。
国境近くにある森の中の、後ろが切り立った崖になっている所に建てられた小さな家。そこに人の反応が5人。
名前を知らないから確実ではないけど、全く部屋から動いてない人が1人いる。多分この人だ。
「どうする?すぐに助けに行って良い?」
「是非お願い致します。私もご一緒すれば、フェデリコならば説明せずとも状況をすぐに把握する事でしょう。」
「分かった!それじゃあ行くよ!」
リリー達にはここで待っててもらい、アンナ達がもし帰って来たら事情説明を頼んでおく。
皆の心配そうな視線の中、フェデリコのいる部屋の中へ直接転移する。
転移後すぐにMAPで状況確認。今の所、誰にも気付かれた様子はない。
「そこに居るのはクレマンか?」
「フェデリコ、お久しぶりです。」
思っていたより明るい表情のおじ様が、紅茶を飲みながら優雅に本を読んでいた。
「わざわざこんな所まですまない。重ねて頼むのは心苦しいのだが、もう1人一緒に連れて行って欲しい者がいるんだ。」
本当に何も言わなくても、今の状況を察してるんだ。これは拠点の管理を丸投げ出来そう!
「信用出来るのですか?」
「ああ。ここに共に軟禁された、俺の右腕だ。」
「まさかカリオがここに!?」
「そのまさかだ。長い間苦労をかけている。」
どうやらもう1人優秀な人材GETの予感!
コンコン
「フェデリコ様、追加の本を持って参りました。今入ってもよろしいでしょうか。」
「ああ、ありがとう。入ってくれ。」
私とクレマンは、カリオが驚いて大きな声を出す事を避ける為、そっと扉の影に移動する。
「失礼します。こちらがお探しの」
「カリオ。今から私が良いと言うまで、絶対に声を出すなよ。」
「っ!?」
静かなトーンなのに、妙に迫力のある声でカリオに指示を出すフェデリコ。
カリオが頷くのを見て、私とクレマンは扉の影から出て、フェデリコの隣へと移動する。
「持って行きたい物はありますか?」
「いいや、特にないよ。全て置いて行く。」
さすが懸命な判断だね。追跡が出来る魔道具がもしあれば、仕掛けられてる可能性は十分にある。
「それでは拠点へ転移します。」
「よろしく頼みます。」
私は3人を連れて大熊亭まで転移した。
「カリオもう声を出しても構わない。」
フェデリコはカリオに出していた指示を撤廃すると、私とクレマンに向かって深々と頭を下げた。
「この度は助けて頂き、誠に感謝申し上げます。」
「ありがとうございました!」
フェデリコが頭を下げたのを見て、慌ててカリオも頭を下げる。
「いえいえ私は魔法使っただけで!探す様に指示したのはクレマン、探し出したのは部下さん達なので!」
思わず早口になってしまった。大した事をしてない私に、こんなに丁寧に感謝されるとムズムズする。
「フェデリコ、頭を上げて下さい。むしろ今まで探し出せずに申し訳なかった。」
クレマンが頭を下げると、カイとリリーも一緒に頭を下げる。
「クレマン、頭を上げてくれ。私は本当に感謝しているんだよ。」
謝罪合戦をしている2人の顔は少し楽しそう。久しぶりに会えた旧友の無事を喜んでいるんだろうな。
クレマンとの合戦が終わった後、改めて自己紹介をする。
「改めまして、私は桜と言います。シューレ王国のお馬鹿な王様が行った勇者召喚に巻き込まれただけの、唯の一般人です。」
ニッコリ笑顔で、簡潔に自己紹介。
「それは災難でしたね。私はシューレ王国の元宰相フェデリコと言います。代替わりした途端に軟禁された、唯の一般人です。」
フェデリコさんはウィンクしながら、お茶目な自己紹介を返してくれた。
「それは災難でしたね。ふふふっ。」
「はははっ。久しぶりに愉快な気分だよ。」
うん!この人なら安心して拠点を任せられる!きっと良い温泉街が出来るね!
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