第100話 窮地

「急ぎお伝えしたい事が!」

 MAPに表示されていたクレマンの部下が拠点へと飛び込んで来た。鑑定結果は暗部の副隊長で、名前をカイさんと言うらしい。


 そういえば拠点を覆う壁に扉をまだ付けてないから、壁の上から飛ぶしか無いのか!後でドルムさんに頼んでおこう。


「シューレ王国からこちらに向かっていたリリー達が、王国騎士に追いかけられています。追いつかれるのも時間の問題かと。急ぎ救援願いたい!」

「えっ!?リリー!?」

 リリーって私の知ってるリリー!?いや、そんな事考えるよりまずは救出が先だ!


「詳しい説明は後で聞く。カイは大熊亭で待機。クレマンは付いて来て!」

 指示を出しながら、祭服を着た姿オーランドへと変身する。


 MAPでカイが言った辺りを見てみると、リリー達が真っ赤なマーカーに囲まれているのを発見した。


 慌ててリリーの側に転移すると同時に、風魔法で私達を囲む。荒れ狂う風が私たちの周りを回っている。イメージは竜巻。だから迂闊に近寄ると


「「「うわあぁぁぁぁぁ!!!!」」」


当然吹き飛ばされるよね。

 仲間が目の前で飛ばされた騎士達は足を止め、竜巻に突っ込む事が出来ずにいる。その騎士達の中に、見た事のある顔を発見。


「貴方も懲りませんね。まだあの王に言われるがまま、こんな事をしているのですか?」

「お、お前・・・いや、貴方は・・・」

 私に気付いた彼は、一気に青ざめる。


「それでは皆さん、さようなら。神の御加護が・・・あると良いですね?」

 私達を中心に、周りを荒れ狂っていた風を外側へと広げていく。


「「「や、やめろ!やめてくれ!!うわあああぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」」」

 周りを取り囲んでいた騎士達は一斉に逃げ出すも、あっという間に風に飲み込まれ、遥か彼方へと飛んで行った。


「お掃除完了!」

 達成感から、思わずガッツポーズをしてしまった。そんな私にクレマンが拍手を送ってくる。少し恥ずかしい。


 とりあえず安心安全の拠点に戻ってから、お互い状況の説明をした方が良いよね。皆が混乱してる内に、ササッと転移してしまおう。



 大熊亭へ転移すると、気付いたカイが駆け寄って来た。

「ただいま!」

「桜様も隊長も、ご無事で何よりです!」

 相変わらずの忍者っぽい装束なので、口元を黒い布で覆っていて表情が分かりにくい。けれど皆の無事な姿を見て、目元が少し緩んだ気がする。


「リリー!久しぶりだね!元気だった?」

「はい!桜様もお元気そうで何よりです!」

 目にいっぱいの涙を溜めながら微笑むリリー。でもその服装はメイド服ではなく、まさかの忍装束。あれ?お風呂係のメイドさんじゃなかったっけ!?


「桜様、助けて頂きありがとうございました!再び生きてお会いする事が出来て嬉しいです!」

「料理長!皆も!また会えて嬉しいよ!」

 久しぶりに料理長にサムズアップすると、料理長だけではなく、皆もサムズアップで返してくれた!久しぶりに会ったのに、変わらないこの感じが楽しい!


 落ち着いた場所で話を聞く為、大熊亭の食堂に皆を案内し椅子に座る。

 すぐさまクレマンが紅茶の準備を始めたので、私も収納からクッキーを取り出して皆の前に並べた。今日は刻んだナッツを練りこんだクッキーです。


 クレマンの淹れてくれた紅茶を一口飲んで、ホッと息を吐く。

「それで何で皆があんな所に居て、王国の騎士に追われてたの?」


「実は私、お風呂係のメイドは副業なんです。本業はクレマン配下の暗部に所属しております。」

 やっぱりリリーさんは忍者だったんだ!女性だからくノ一?


「桜様が従業員をお探しとカイから聞きました。なので料理人として料理長、警備要員としてヒューゴの元配下に声を掛け、即答で快諾の返事をもらいました。

 私もこれを機にこちらへ来る事を決め、部下と共に来た次第です。どうかここで働かせて下さい!」


「どうか私達も働かせて下さい!桜様の元で新しい料理をまだまだ学びたいのです!」

「「「「「お願いします!!!」」」」」

 リリーさんや料理長、それに料理人の皆やリリーさんの部下さん達、ヒューゴの元部下さん達まで頭を下げてくる。


「こちらこそ願ってもない申し出だよ。ここまで来てくれてありがとう!」

 私の返答を聞いて、皆が飛び上がって喜んでいる。私も凄く嬉しい!


「ちなみに城勤めを辞める許可は出たの?」

「「「「「「・・・・・・・・」」」」」」

 私の質問に一斉に皆が沈黙した。なるほどね。辞められると困るから、騎士に無理やり連れ帰らせようとしてたのか。


「許可など絶対出ません。先に辞める事を伝えたら、奴隷にされる可能性さえあったのです。」

 料理長が怒りに震えながら告発する。


 奴隷!?奴隷にしてむりやり働かせるって事!?やっぱりシューレ王国の王様は腐ってる。そんな職場さっさと辞めて正解だよ!


「一応全員分の離職届は置いて来てありますので大丈夫かと。」

 カイもクレマンの副官とあって、抜かりが無い!


「皆これからよろしくね!」

「「「「よろしくお願いします!」」」」


 強力な助っ人が来てくれたおかげで、この先新しい従業員雇っても安心して任せられるね!


 リリーには温泉宿の女将さんに、料理長は温泉宿でその腕を奮ってもらおう!

 宿舎の厨房と管理の責任者は、2人に人選任せて、警備の責任者はヒューゴに選んでもらおうかな。


 温泉といえば浴衣!リリーの浴衣姿とか絶対素敵!料理長には長ズボンの甚平にエプロンと和帽子!欲しいな~。作れる人居ないかな~。今度カイに頼んでおこう!


 このまま従業員増えたり、温泉宿が稼働したら手一杯になって冒険出来なくなりそう・・・。早く拠点全体を管理してくれる人を見つけなきゃ。



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