第96話 誓約

 宴会準備が終わった後、私も温泉に入ってすっきりさっぱり!後は皆が揃うのを待つばかり。


 ちなみに今夜の宴会には、新作料理が2種類ある。

 1種類目はピザ!チーズベースの照り焼きピザと、トマトベースのマルゲリータ。

 2種類目は異世界転移と言ったらコレ!ポテトチップス!無性に食べたくなる味だよね!


 これらの新作だけは、宿舎の厨房で作った物。宿舎の厨房には窯を作ってもらったので、収納に寝かせていたピザ生地がやっと日の目を見ることが出来ました!

 今度大熊亭にもピザ窯を作ってもらおう!


 それ以外にも定番料理の唐揚げや串焼き、サラダやフライドポテト、ハンバーガーも準備してある。


 お酒はラガービール、ウィスキー、それからこちらも新作の日本酒を初お披露目。お酒の種類がまだまだ増えそうなので、これを機にドリンクバーも使いやすいように整理した方が良さそうだね。



 そろそろ宴会を始めたいんだけど、大熊亭メンバーがまだ来ない。ドワーフ達も今か今かとソワソワしている。

 先に始めてても良いんだけど、折角なら全員で乾杯したい。


 MAPで皆の位置を確認すると、大熊亭の入口付近に集まってる。皆から少しだけ離れた所にいるのは、冒険者達かな?何してるんだろう。


 様子を見る為、アンナとクレマンの側に転移すると、いきなり至近距離で怒鳴り声が聞こえた。

「耳痛い・・・。」

「桜様!申し訳ありません!」

「悪いな桜。わざとじゃ無いんだ。クレマンの奴が訳の分からない事を言うから!」

「アンナとガインが残れば、何の問題も無いと言っているでしょう。」

「だから何であたし等だけが残らなきゃいけないんだよ!!!宴会だぞ!?」

「お前達2人が大熊亭の責任者だからですよ。私の反対を押し切り、冒険者の受け入れを決めたのもお前達だろう?」

「そうだけど・・・だからってあまりにも横暴すぎる!」

 そしてまた私の耳の近くで怒鳴り合いが始まった。


 説明を求めて周りを見渡すと、苦笑いしながらヒューゴが手招きしている。その側に陽菜達も困った顔で集まっていた。

 そしてさらに少し離れた位置で、青い顔をした冒険者達が狼狽している。


「で、何であの2人は喧嘩してるの?」

「元々クレマンは桜の能力がバレるリスクを回避する為に、冒険者達の受け入れを反対してたんだ。それをアンナが責任取るからと強引に押し切って受け入れた。」

 大河が冒険者達を受け入れるに至った経緯を説明してくれた。


「だからクレマンは、冒険者達が滞在する間はアンナが責任を持って大熊亭でお世話をする約束を取り付けていたの。」

 大河の言葉を拾って話す陽菜。相変わらず可愛いね。


「それがさっきクレマンから、今夜は新しい宿舎で宴会だって聞いた途端、アンナが自分も行くって言い出したんだ。自分で約束したくせに、お酒飲みたさにあっさり破るとか有り得ない。」

 呆れた口調の優斗が、冷めた目で言い争いを続けているアンナを見ている。


 ふむふむ、なるほど。うーん・・・どうしたら良いかな。

 クレマンは私の能力を隠す為に尽力してくれてるだけ。

 冒険者達も宿舎作りの間のデスマーチを、4時間も頑張ってくれたわけだし、是非宴会に参加して欲しい。


 けど約束を破ったアンナをそのまま無罪放免というのは、クレマンの気持ちを無下にする事になるし、アンナも反省しないよね。


「あの、桜さん。冒険者の皆さんと誓約書を交わすというのはどうでしょう。私が立会人になりますよ。」

 後ろから声が聞こえ、振り向くとそこにはディーネが立っていた。


「誓約書?」

「はい。絶対に漏らしたくない情報を守る為に結ぶ約束を、紙面化した物です。

 誓約書を交わす場合、通常でしたら各ギルドや教会等にある【 誓約の間 】で、神やその眷族に誓い、特別な紙で作った誓約書にサインをします。

 ですが今ここには私が居ますので、誓約を交わすことは可能ですよ。」


 契約書みたいな物かな。でも神様に誓うって事は、破れば罰があるとか?

「罰なんてありませんよ!ただ約束した事を口外出来なくなるだけなので、安心して下さいね!」

「それなら安心かも!という訳で、私の能力について一切口外しない誓約を交わして貰えませんか?」


 私はヒューゴ達の後方に居た冒険者達に顔を向け、にっこりと笑顔で提案する。

 冒険者達は青ざめながら、コクコクと何度も顔を上下に動かし頷いている。


 了解を得られたので、気が変わらない内にサクッと誓約を交わしてしまおう。

 誓約書はいつ準備したのか、クレマンが持っていた。

 クレマン曰く「必需品でございます。」との事。理由は聞かないでおこう。


 私と冒険者達が全員書類にサインをすると、書類が光り、そして消えていった。

「無事誓約は成りました。これでもう大丈夫ですよ!」



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