第92話 ドワーフの王

 どうしてこうなった。一口だけの試飲の予定だったのに。

 私の目の前には、酔いつぶれた門番さんが大の字になって寝転んでいる。

 クレマンに視線を向けると、そっと目を逸らされた。


 状態異常回復の湯を飲ませようにも、寝てしまっていて飲ませられない。

 どうしたもんかと悩んでいると、門の奥からバタバタと走ってくる音が聞こえた。


「待たせたな!って何だこれは!おい!どうした!!ん?これは・・・酒の匂い?」

 倒れている門番さんの両肩を掴み、前後に激しく揺らしている。それ酔っ払いにやったらダメなやつ。

「うおえぇぇぇぇぇ・・・・」




 門前での惨劇を他の人に任せ、私達はツヴェルク王国にある一室へと案内された。

 そこは芸術的センスが乏しい私が見ても、素晴らしいとしか言いようのない調度品で整えられた部屋だった。


「申し訳ない。奴は無類の酒好きで。それでも仕事中にあんなになるまで飲む事は無かったのだが・・・。持参された酒は、余程美味い酒のようだ。」


 私達の目の前に居るのは、この国の王ガンドール・ツヴェルクその人だったりする。

 いきなりの王様登場に、流石のクレマンも驚きを隠せないでいる。


「王様も一口味見されてみますか?」

「う、うむ。そこまで言われたら致し方あるまい。」


 クレマンから非難めいた視線を感じるが、交渉を有利に進める為には、これが最善の一手だと信じたい。

 それに王様が他人の前で、泥酔するほど飲まないだろう。



 と、さっきまでは思っていましたよ。ええ、本当に。正直ドワーフの酒好きを舐めてたよ。


 ガンドール王が味見する前に、まずは毒味役のドワーフがコップに3分の1程入ったウィスキーを一口飲む。そして残りも全部飲み干した。


 これでは味見が出来ないと再度コップに継ぐと、また毒味役のドワーフが、

「見てない時に毒を入れられてる可能性もありますから!」

 と言い張り、いくらガンドール王が必要ないと言っても聞かない。

 そしてまた全部飲んでしまった・・・。


 また同じ事の繰り返しになると思ったガンドール王が、自分で注げばコップに毒が入ることは無い!と強固に主張。

 そして私から瓶を受け取ると、コップに注ぐ事無く直接瓶から一口飲んだと思った瞬間


 ゴキュッゴキュッゴキュッ・・・・・


 一気に飲み干してしまった。それも通常より大きめの瓶に入ったウィスキーを。ストレートで。そして酔いつぶれる。今ここ。


「クレマン、ごめん。私が間違ってた。」

「いえ、私もここまでとは思いませんでした。ドワーフへの認識を改めたいと思います。」

 私もクレマンも、ただ呆然と目の前に横たわるガンドール王を眺めていた。


 味見役、いや毒味役のドワーフが物欲しそうにこちらをチラチラと見ている。もうあげませんよ!?っていうか王様を介抱して!


「すみません、誰か交渉出来る人を呼んで貰えます?それと王様をこのままにしておいて良いの?」

「はっ!すみません!すぐに呼んで来ます!」

 やっと気付いた毒味役は、慌てて部屋を飛び出して行った。


 いや、王様1人置いて出て行くなよ!何かあったらどうするの!?何もしないけど。


 暫くそのまま待っていると、部屋の外からバタバタと走ってくる音が聞こえてきた。


 バンッ!!!


「王!ご無事ですか!?なっ!これは!?」

 凄い勢いで扉を開けた眼鏡を掛けたドワーフが、倒れているガンドール王へ走り寄ったかと思うと、両肩を掴み前後に激しく揺らそうとした。


「ちょっと待ったぁぁぁぁぁ!!!!それは止めて!!!吐くから!!!」

 私が叫んだのと同時に、クレマンがドワーフの手を止めていた。惨劇が再び起きる前に、何とか阻止する事に成功した。



 ガンドール王が運ばれた後、先程飛び込んできた眼鏡ドワーフが交渉の席に着いてくれた。

「先程は大変失礼を致しました。私はツヴェルク王国の宰相レギンと申します。何でも仕事の依頼をしたいと聞いておりますが、どの様な仕事でしょうか?」


「実はカティアダンジョンを攻略する為に、近くに拠点を作ったんです。それで・・・」

 私は今の状況と、今後起こりうる事を掻い摘んで説明する。レギンさんも相槌を打ちながら真剣に聞いてくれていた。


「なので拠点を作るにあたって、どうせなら温泉街にしようと思いまして。それで一流の職人さんをツヴェルク王国へ探しに来ました。」

「「温泉街!?」」

 レギンさんとクレマンの声が重なった。あれ?クレマンに話してなかったっけ?


「なるほど・・・。かなり大規模な拠点作りの依頼になりますね。とりあえず希望者を募ってみましょう。報酬や条件は当人達との話し合いでよろしいでしょうか?」

「良いんですか!?」

 人間嫌いと聞いてたし、王様酔い潰しちゃったから、てっきり断られるかと思ってたよ。


「はい、国としては何の問題もございませんよ。ただし頑固で偏屈な者が多いので、希望者が集まらない可能性もあります。それでもよろしいですか?」

「もちろんです!ありがとうございます!」


 数人でも良いから、何とか頑張って勧誘するぞ!何で交渉したら良いかな。やっぱりお酒かな?

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