第91話 ドワーフとウィスキー
そうと決まればすぐにでも動き出さなきゃ。収納から傷湯10本と状態異常回復の湯10本を取り出し、ヒューゴに手渡す。
「これで冒険者の傷を治してあげて。今回はサービス、次回からはお金を貰う事を伝えて。余りは収納袋に。」
「分かった!」
ヒューゴは大量の瓶を両手に抱えながら、器用に走っていく。
頼んだは良いけど、どうやって扉を開けるんだろう。大丈夫・・・だよね?
「クレマンは私と一緒に、職人と働いてくれる従業員を探してくれる?」
「かしこまりました。」
「「俺( 僕 )達はー?」」
コタロウとリュウがキラキラと期待に満ちた目で見つめてくる。思わずモフりたくなる気持ちを、グッと堪える。
「コタロウとリュウは、拠点の防衛を任せて良い?冒険者が怪我してたって事は、血の匂いがここまで続いてるはずだから魔物が襲って来るかも。」
「任せろ!」「はーい!」
「怪我だけは気を付けてね!もし怪我したらすぐに傷湯に飛び込むんだよ!」
「「分かってるー!」」
2匹は意気揚々と走って行った。これで少しはストレス発散出来るかな。
「従業員を探すのでしたら、各地へ散らばっている私の配下にも探させましょう。どのような者がよろしいですか?」
配下!そういえばクレマンは暗部の隊長だったんだっけ?見た目は優しい紳士なお爺ちゃんなんだけどな。
「それ助かる!欲しいのは料理人、馬の世話係、読み書きが出来る人、計算が出来る人、掃除や洗濯が出来る人、農業が出来る人、警備要員として戦える人、それに合わせて各所で細々と働いてくれる人。それと1番欲しいのはここの管理を任せられる人!」
「随分と多いのですね。」
クレマンが珍しく驚いている。少し多かったかな?でも後手に回りたくはないんだよね。
「そうだよね。でも先々の事を考えたら、今の内にしっかりした拠点を作らないといけないと思って。」
「なるほど・・・他国の介入を防ぐ為でしょうか?」
「うん。ここの噂が完全に広がってから募集すると、色んな思惑が絡んだ人が入ってきそうだから。」
「流石でございます。かしこまりました。すぐに手配致します。」
クレマンがピュイっと口笛を吹くと、どこに居たのか黒ずくめの男の人がクレマンの前に現れた。
「聞いていましたね。各地の影へ伝え、急ぎ探しなさい。」
「承知!」
返事と同時に姿が掻き消える。格好といい、消え方といい・・・まさか忍者?忍者なの!?
「それで桜様はどちらに探しに向かわれますか?」
「職人といえば!やっぱりドワーフだよね!ツヴェルク王国へ転移!」
「なっ!?」
はい!やって来ましたドワーフの国ツヴェルク王国!から少し離れた林です。
「桜様・・・いきなり転移されると驚きますので、事前に仰って頂けると有難いのですが。」
「はい、ごめんなさい。次から気を付けます・・・。」
失敗失敗。ドワーフの国とかファンタジー過ぎて、テンション上がって我を忘れてしまった。あぁぁ、でも興奮が全く収まる気がしない。
ワクワクしながらツヴェルク王国へ向かうと、超高層ビルを思わせるほどに高い大岩が見えて来た。
「あそこがツヴェルク王国?」
「そうです。大岩に穴を開け、住居や作業場を作って住んでいるようです。この国はあまり人間に友好的ではないので、お気を付け下さい。」
えっ!?そうなの!?このまま行ったら追い返されるかな!?
そうだ!お酒を手土産に持って行ったら交渉出来るのでは?
こっそり収納から出した台車に、ウィスキーの入った樽を乗せる。
「よし!行くぞー!」
「私が引きましょう。」
台車を引こうと持ち手を持とうとした瞬間、いつの間にか私とクレマンの場所が入れ替わっていた。
これは変わり身ですか!?やっぱり忍者なの!?
少しでもクレマンの負担を減らすべく、台車を後ろから押しながら、何とかツヴェルク王国へ辿り着いた。
門にはこれぞドワーフ!といった出で立ちの門番が2人立っている。ギムルさん元気にしてるかな。
「こちらの職人さんに仕事の依頼をお願いしたく、カティアの森から参りました。この台車に乗せている酒樽は、絶品のお酒でございます。」
「絶品の酒!?・・・ゴホン。確認してくるので、このまま暫し待たれよ。」
「かしこまりました。」
門番が1人中へ走って行った。もう1人の門番さんがソワソワと酒樽を見ている。その姿が何とも可愛らしい。本当にお酒好きなんだね。
「少し味見します?」
「えっ!?・・・いやいや駄目だ!許可が出るまでは・・・飲め・・・たい」
「実は試飲用にこちらに同じお酒を準備してあるんですよ。」
嘘です。鞄から出すと見せかけて、収納からお酒とコップを出しました。
ゴクリ・・・と門番さんの喉がなる。
「あ、毒は入ってないですよ!」
一口飲んでみせる。
「うん!力強さの中に甘みもあって美味しい!」
「ひ・・・一口だけなら・・・」
よし!これでこのお酒が、ドワーフ好みかが分かる!
「はい、どうぞ!」
コップの3分の1程ウィスキーを入れて渡す。
「これは味見だからな!!」
そう言い、ウィスキーを一気に煽る。結構度数強いけど、大丈夫かな?
「こ、これは・・・美味い!美味すぎる!!頼む!もう一口だけ飲ませてくれ!」
「えっ!?お仕事中ですよね?大丈夫なんですか?」
「大丈夫だから!頼む!もう一口!」
えぇぇぇぇ。これ絶対大丈夫じゃないやつだよね。
「本当にあと一口だけですよ!まだ試飲してもらわないといけないと思うので、ここで無くなると困りますからね!」
「分かった!分かったから!あと一口!」
そう言って彼は、お代わりの一口を一気に口に含んだのだった。
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