第90話 拠点

 いよいよ今日は拠点へ帰る日。イザヤさんにお願いしていた帆馬車に乗って帰ります。

 御者は騎士団時代に経験のあるヒューゴにお願いしてある。私も今日は御者台に一緒に座らせてもらう予定。


 そして乗り込む前に大切な事。座る場所に予め作っておいたふわふわの座布団を括り付ける。もちろんヒューゴの場所にも付けておく。


 サスペンションも無く、街の外は道も悪いし、お尻が痛くなるのは必至。

 森に着いたらすぐ転移するとはいっても、それまでに結構な距離があるので、対策はしておかないとね!


 私がいそいそと座布団を取り付けている姿を、興味深そうにイザヤさんが見ていた。

「これはクッションかい?」

「クッションに似てますが、少し違うんですよ。座布団といって、お尻の下に敷いて使うんです。座り心地をよくするだけでなく、体温が奪われにくくする役割もあるんですよ。」


 説明を聞いたイザヤさんの目が光った。いやいや、今から帰る所ですからね?

「桜、その座布団の登録を」

「それでは皆さんお世話になりました!また遊びに来ますね!復興頑張って下さい!」

 挨拶もそこそこに馬車に飛び乗る。ヒューゴも危険を察知して、慌てて出発する。


「あぁぁ!桜!!ちょいとお待ちよ!」

 イザヤさんの驚いた声と、見送りに来てくれた皆が笑ってる声が聞こえる。

 しんみりしないこんな見送りが私達には合ってるね!


 ルーデンスの門から出て森に向かって馬車を走らせる。整備されてない道はガタガタで、想像以上に揺れが酷い。

「この座布団だっけ?これ良いな!全然ケツが痛くない!」

 ヒューゴにも好評の様で何よりです。


 座布団のおかげで、お尻は何とか無事のまま森まで辿り着くことが出来た。揺れで少し気持ち悪くなったけど・・・。あとで状態異常回復の湯飲んでおこう。



 馬車ごと転移して拠点へ戻ると、クレマンが慌てて大熊亭から出て来た。

「桜様、今すぐ隠れて下さい!」

「うわっ!おい!クレマン!」

 ヒューゴを押し退け御者席にヒラリと座ると、外壁の端まで慌てて馬車を走らせる。その後ろを追いかけてくるヒューゴ。一体何事?


「クレマン、何かあったの?」

「実は、カティアダンジョンを攻略しに、3組の冒険者パーティーが来ております。その3組共がこの拠点を知っており、泊めて欲しいと。どのパーティーも怪我人がおりまして、ほっとく事も出来ず、現在大熊亭に泊めているのです。」


 アマリアの冒険者かな?拠点作って攻略してるって言っちゃったしな。

「クレマンごめん。私がアマリアで拠点の事話しちゃった。どうやって攻略してるか聞かれたから。」

「なるほど、それではアマリアから来た冒険者の情報源は桜様でしたか。残りの2組はハンメルの冒険者でした。そちらはアンナがギルドマスターに話したようです。」


 今まで攻略出来てなかったダンジョンだし、これからも冒険者が集まって来そうだな。

 このままだと部屋が足らなくなるだろうし、アンナとガインが攻略に動けなくなっちゃう。


「ちなみに怪我してる人は重傷なの?ポーションは持ってなかった?」

「命には関わりませんが重傷ですね。ポーションは持っておりませんでした。

 陽菜様が魔法で治されようとしましたが、聖女である事がバレる危険性がある為、お止め致しました。」


 クレマンナイス判断!聖女や勇者、賢者はバレたらどこの国からも狙われる危険性が高い。リスクは犯さないに限る。


「さて、これからどうしようか。皆と話し合いたいけど、大熊亭では冒険者が居て話せないし。」

「それなのですが、桜様がお決めになってよろしいかと。」

「えっ!?私が!?」

「はい。桜様が居られない時に皆で話し合いましたが、桜様に任せた方が面白そうだと満場一致で決まりました。もちろん、私共もお手伝い致しますよ。」

 責任重大だな。そんなに期待されても、面白い事出来ないよ!?


「俺の意見は・・・」

「ヒューゴは反対だと?」

 クレマンの目が据わり、怒気が溢れ出す。


「いやいや、反対とは言ってないって!賛成!大賛成だから!!」

「そうだろうと思っていましたよ。では満場一致という事で。」

 一瞬にして怒気が静まり、いつもの穏やかなクレマンに戻った。


 そういえばクレマンとヒューゴと3人だけって久しぶりかも。

 お城では大抵部屋で私達3人で居たのに、あの頃はこんなに信頼出来る様になるとは思わなかったな。

 今では近くに居るだけで安心出来るし、心から信頼してる。だからかな、何でも出来る気がしてくる。


「うん、決めた!引き受けるよ!だから2人共力を貸してくれる?」

「もちろんでございます!」

「当たり前だろ!」

 クレマンは優雅に一礼し、ヒューゴは笑顔で首肯する。


 すると急にコタロウとリュウも影から飛び出して来た。

「俺も桜の為なら何でも力を貸すよ!」

「僕もーーーーー!」

「もちろんコタロウもリュウも頼りにしてるよ!ありがとね!」

 あまりの可愛さに思わず抱きしめる。このもふもふ感が堪らない。



 さあ、どんな拠点にしようかな。これから忙しくなるよ!!ワクワクして来たー!!!


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