第89話 完遂

 料理教室を楽しく終えてとまり木へ帰ると、エマさんがとても良い笑顔でヒューゴに伝言を伝えたと教えてくれた。青い顔してたみたいだけど、かろうじて生きているらしい。


 このまま今日ゆっくり休めば、明日には回復してるだろう。これに懲りたら、次回からは飲む量を加減して欲しいな。


 そして翌日元気になったヒューゴに、盛大に謝られたのは言うまでもない。反省したなら、それでよし!



 それから慌ただしく数日が過ぎていった。


 プリンやフライドポテトも順調に売れ始め、子供達が屋台で買ったプリンを幸せそうに食べてる姿も見かけるようになった。

 やっぱり子供達の笑い声が聞こえてくると、心がほっこりするな~。


 天然酵母も順調に育って来てるみたいで、毎日待ちきれないとソワソワしている料理人さんの姿をあちこちで見かける。

 もちろん、とまり木のエルさんも例外ではない。焦りは禁物。もう少し待ってあげてね!


 赤白ワインは輸出はせず、国内でのみ販売する方針。販売本数も1人各1本まで。

 まずはワインの味を広める為に、アマリア商業ギルドお抱え商人に、それぞれ試飲用のワインを持たせた。

 彼らは各地の富裕層( 貴族や豪商 )に、商談ついでに試飲させている。

 当然試飲した人達は買いたがるが「販売は国内でのみ」と伝えてもらってるので、ワインを求めた人がこの国を訪れる日は近いと思う。


 それに伴い各1本までしか買えない制限に、文句を言ったり、暴れる人が出てくるのではという懸念もある。

 既存の聖騎士隊だけでは人手が足りなくなるであろう事を見越して、冒険者達に国から治安維持の依頼を発注。報酬や貢献度が通常より高めな為、皆喜んで請け負ってくれた。


 そして予想外だったのがゼノス様のぬいぐるみ。今まで人形といえば木彫りが当たり前だったので、ぬいぐるみのふわふわっとした感触と愛らしい姿に、女性陣が夢中になった。

 大小様々なゼノス様のぬいぐるみが、今やあちこちで売られている。


 ここまで来たら、もう後はこの国の人達だけでも大丈夫かな?陽菜達の事も心配だし、そろそろ拠点へ戻ろうかな。


「ヒューゴ、明日拠点に帰ろうか。」

「だな。もう大丈夫だろう。それに大河達が無理させられてないか心配だ。」

 ヒューゴも同じ気持ちだったみたい。陽菜達無事かな・・・アンナのタガが外れてない事を祈るしかない。



「という訳で、明日この国を出発しようと思います!」

 マイルズさんに挨拶しに来たら、カルロさんとイザヤさんが、打ち合わせの為に集まっていた。


「明日ですか!?随分急ですね・・・」

「もう少し助言して貰えたら助かるのですが・・・」

 マイルズさんとカルロさんが、残念そうにしている。そんな2人の背中をイザヤさんがバシッと叩いた。


「あんた達、何情けない事言ってんだい!桜のおかげでここまでやれたんだ!後はあたし等が頑張らなくてどうするんだい!いつまでも甘えてんじゃないよ!!!」

 さすがイザヤさん気風が良い!やっぱりこの国の裏ボスはイザヤさんだね!


「ワインを定期的に持って来るので、その時にお酒を飲みながらお話を聞かせてくださいね。」

「もちろんだとも!あんた達には本当に世話になったね。ありがとう!」

「ありがとうございました!」

「心より感謝申し上げます。」

 こんな大物3人に、揃って頭を下げられると居心地が悪い。


「こちらこそ貴重な経験をさせてもらって楽しかったです!ありがとうございました!」

「困った時は声掛けてくれ。またいつでも力になる!」


 その後も一緒に飲みかわした仲間達、お針子さん達、料理人さん達と関わった人達に挨拶して回った。

 明日出発という急な話に、皆残念がってたけど、口々にお礼を言われた。


 私の計画に皆を巻き込んだ形なのに、文句を言うどころか、皆が手を貸し力を貸してくれて本当に嬉しかった。

 きっとアマリアは良い国になるね。これならシューレ王国に手を出される事もないはず。



 そして最後に、この国に来てからずっとお世話になったとまり木の美人双子、エマさんとエルさんにご挨拶。


「私達に出来る事は終わったので、明日この国を出発しようと思います。エマさんとエルさんのおかげで、とっっっても楽しかったです!お世話になりました!」


 ペコリとお辞儀をするも、2人の反応が全くない。不思議に思って顔を上げると、2人揃って大号泣していた。


「うわぁ~ん、桜ちゃ~ん。私もとっても楽しかったよ~。ありがとう~。」

「妹が出来たみたいで嬉しかったの~。うわぁぁん。ありがとう~。」

「うぅぅぅ、また絶対遊びに来ますからね~!」


 2人につられて堪えきれずに、思わず私も泣いてしまった。

 拠点の皆以外に、この世界でこんなに仲良くなれたのは初めてだったから、思い入れも強い。

 転移ですぐに行き来出来るのも忘れ、もう暫く3人で抱きしめ合って別れを惜しむのだった。


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