第86話 ハプニング

 教会へ向かって歩きながら、改めて街の中を見てみる。朝来た時は気付かなかったけど、一昨日初めてこの国を訪れた時と様子が変わっていた。


 忙しそうに走っている人、荷物を運んでいる人、楽しそうに井戸端会議をしている奥様方、看板を作っている人など・・・多くの人達が街の中の至る所で走り回っている姿が見られ、活気に満ちている。


 たった2日でここまで変わるとは思わなかったな。

 それもこれも昨日話した事を素直に聞き入れてくれて、尚且つ迅速に行動に移してくれたイザヤさん、カルロさん、マイルズさんのおかげだね。


 嬉しさのあまり思わずスキップしてしまうぐらい浮かれた気持ちで教会に着くと、丁度聖女像が移送される所だった。


 聖女像は厳重に布に包まれ、大きな特別性の台車に乗せられている。そしてその側に聖女像を運ぶ為の男衆が集まっている。ヒューゴとマイルズさんとカルロさんの姿もあった。


「カルロさん、マイルズさんこんにちわ!」

「桜さんこんにちは。丁度準備が完了して、これから移送する所なんですよ。良かったら見守っていて下さい。」

「冒険者ギルドからも特別クエストとして、この移送に人員を集めたので、私も責任を持って監督しますよ。」


 カルロさん、マイルズさんだけではなく、ここに集まった冒険者や街の人達みんなの顔が、とても明るく生き生きしている。

 何としてもこの移送成功させないとね!


「ヒューゴも一緒に運ぶの?」

「ああ!力には自信があるからな!絶対に倒したりなんかさせない!!」

「う、うん。頑張ってね。」

 その妙なハリキリ具合とさっきの発言。フラグとかやめてね?


 若干の不安を感じている私をよそに、いよいよ移送が開始された。

「「「「「「せーの!!!!」」」」」」

 何十人もの人力で、特別性の台車を押す。せっかくのファンタジーな世界なのに、こういう時に使える便利な魔法とかないらしい。


 本当は転移魔法を使えばすぐだけど、この魔法は仲間内にしか知られたくない。

 それに何よりアマリアの人達が、自分達の手で運ぶ事に意義がある気がする。


 少しずつ台車が動き出した。ゆっくりゆっくりと広場へ向かって進んでいく。広場までの距離およそ500m。段差も勾配も無く、ただまっすぐ進むだけ。


「焦らないで。落ち着いて、ゆっくり進みましょう。」



 じわりじわりと進む。


 残り400m


 300m


 200m


 100m


 ・・・・・・何事も無く、無事広場に辿り着くことが出来た。一様に安堵の息をつく。

 見てるだけでも手に汗握る緊張感なのに、運ぶ当人達の緊張は計り知れない。


「まだ気を抜くのは早いですよ!聖女様の像を設置するまでは、気を引き締めていきましょう!」

「「「「「「「おう!!!」」」」」」」


 マイルズさんの激励に皆が改めて気を引き締め、設置に向けて動き出す。

 そういえば台車からどうやって降ろすんだろう。


 ふと疑問に思いながら見ていると、台車の前方の柵が取り外され、聖女像に左右と後ろ側から紐を括り付けている。

 そしてその紐をヒューゴ以外の全員が手に持ち、ヒューゴは台車の後ろ側に立っている。


 えっ?まさか!?嫌な予感を覚え、ヒューゴを止めようとした瞬間、

「いくぞぉぉぉ!!!引っ張れ!!!!!」

 と叫び、台車の後方を持ち上げた。全力で。


 皆も必死で紐を引っ張ってるが、台車の勾配の方が急すぎて、聖女像が今にも倒れそうになっている。


「うわぁぁぁぁ!」

「皆引っ張れ!倒れるぞ!!」

「駄目だ!止まらない!!!」


 懸命な努力のかいもなく、聖女像が倒れていく。誰もがこの後訪れる地獄絵図を想像して目を固く瞑り、両手で顔を覆う。


 私は咄嗟に収納魔法を使い、聖女像を一旦収納。すぐに広場の設置場所へ収納から出す。

 誰にも見られていないか見回し確認するが、皆目を瞑っていて気付いていない。

 バレなくて良かった~!これで一安心だね。


「あれ?倒れてない?」

「何でそこに聖女像が!?」

「えっ?無事に設置出来てる!?」

「「「「「「良かったー!!!」」」」」」


 誰も彼もが安心したのか、その場に座り込んでしまった。もちろんカルロさんとマイルズさんも。

 何が起きたか気付いたヒューゴは私の方を向き、声を出さずに「ごめん」と口を動かし頭を下げている。

 問題無し!結果良ければ全て良し!だね!



 こっそりと人目につかない場所へ移動し、差し入れの入った大きな鞄を取り出してから皆の元へと再びこっそり戻る。


「お疲れ様でした!!聖女像移送で心身共に疲れた皆に、差し入れでーす!今から配りますねー!」


 そう宣言してから、一人一人にオークカツサンドとフライドポテトのセットを配って回る。

 途中からはヒューゴやマイルズさんも手伝ってくれたので、あっという間に配り終わった。


「うんめーーーー!!!」

「何だこれ!パンが柔らかい!?」

「これ芋か?何かすげー美味い!」


 好評の様で良かった!カルロさんとマイルズさんの口には合わないかな?と心配したけど、良い勢いで食べてるから大丈夫でしょう!



 そしてその夜、冒険者ギルドに併設された酒場では、夜遅くまで打ち上げが行われた。

 皆から腫れ物に触れるような扱いだと寂しそうにしていたマイルズさんも、今回の一件で無事打ち解けられたらしく、打ち上げに楽しそうに参加していた。


 私は早めに切り上げたけど、またもやヒューゴは最後まで付き合うらしい。

 明日二日酔いになっても、状態異常回復の湯はあげませんからね!


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