第85話 復興に向けて

 今日から私とヒューゴは、アマリアの復興に目処が立つまで滞在する予定。

 でも温泉に入れないのは辛いので、朝コタロウとリュウの散歩のついでに、こっそり温泉に入りに来ようと思ってる。


 アンナ達はやっぱりというか、予想通りダンジョンで陽菜達を鍛えるつもりらしい。

 今回はメインで陽菜達に戦わせ、あくまでアンナ達はサポートに徹するそうだ。デスマーチよりは・・・幾分マシかな?


 それとせっかくなので、宝箱でゲットしたあの収納袋とダンジョンMAPを活用して貰う。

 収納袋の中には、傷湯等の回復系のお湯一色と、何かあっても暫くは食い繋げるぐらいの量の食料を入れてある。

 大丈夫だとは思うけど、備えあれば憂いなしとも言うし、念の為にね。


「それじゃあアマリアに行ってきます!」

「大河達のこと頼んだ。あまり無理せるなよ!」

「心配ない!無理なんてさせやしないさ!」

 ニッコリ笑って言うアンナの、その顔と言葉が1番信用ならない。

 哀愁漂う陽菜達に後ろ髪を引かれるけど、時間もないのでアマリア付近へ転移する。



「まずはどうする?」

「そうだなー、私は商業ギルドへレシピを登録しに行ってくる。ヒューゴは教会へ行って、移送の状況確認お願い出来る?」

「任された!」

 喜び勇んで走っていくヒューゴの後ろ姿が、何故だがコタロウとリュウの姿と被って見えたのは、きっと気の所為だと思う。


 あと少しで商業ギルドに着くという所で、自分が手ぶらという事態に気付く。気付いたのが着く前で良かったよ~。

 近くに誰も近くにいない事を確認してから、建物の影へと入り、台車を収納から出す。

 その上に赤ワインと白ワインの樽、それと牛乳を入れた大きな瓶を数個乗せる。


「おーーーもーーーいーーー!」

 頼みのヒューゴはすでに見えない為、自分で引いてみるものの・・・これは厳しい。コタロウとリュウに手伝ってもらいたいけど、大騒ぎになるのは目に見えるので我慢する。


 何とか自力で引っ張って商業ギルドまで辿り着いた時には、疲労困憊で倒れる寸前だった。

 こっそり鞄から出す振りで、収納から疲労回復の湯を出し一気に煽る。シュワっとして爽快感のある味が堪らない。嘘のように疲れも取れたし、これならまだ頑張れそう。


 アマリアの商業ギルドは、ステンドグラスまでは無いものの、どこか教会に似た建物だった。

 そして何故かその入口に長蛇の列が出来ている。もしかして商業ギルドでは特産品か何かがあるのかな?


 疑問に思いながらもギルド内へ入ると、ギルド長であるイザヤさんが出迎えてくれた。むしろ待ち構えてた?

「イザヤさん!?おはようございます。」

「はい、おはよう。さ、こっちへ付いておいで。」

 挨拶もそこそこに、そのままレシピを登録する窓口まで連行される。


「さあさ、皆待ってるんだ!急いで登録しちまいな。」

「えっ!?待ってる!?」

 もしかして入口に出来てた列は、レシピ待ちの列だったの!?


「それだけ皆がこの計画に乗り気ってことさ。例の宿屋もすぐに新しい名前の看板を作り始めていたよ。誰も彼もが前に進みたいけど、進み方が分からなかったんだ。」


 とても嬉しそうな顔で話してくれるイザヤさんも、きっとその内の1人だったんだろう。

 急いでレシピと見本のプリンとぬいぐるみを職員さんに手渡し、書類に必要事項を記入しサインする。


「はい、これで登録完了だ。急がせて悪かったね。」

「いえいえ。むしろ動きが早くて助かります!あ、そうだ!葡萄酒と、プリンを作るのに必要な牛乳も持って来たんですけど、どうしたら良いですか?」

 さっき中に入る前に、入口に居た職員さんに台車を預けてある事を伝える。


「じゃあ買取手続きも済ませてしまおう。手続きばかりですまないね。」

 そういうとイザヤさんがササッと書類を作ってしまう。さすがギルド長、仕事が早い。


 イザヤさんが提示した買取価格は、赤ワインと白ワインは樽でそれぞれ金貨5枚、牛乳は1瓶金貨1枚だった。

 ワインは貴族など、お金を湯水の様に使う層が好んで飲むだろうから高くても納得出来る。でも牛乳が高いと、プリンの価格も高騰してしまう。


「牛乳の価格はもう少し下げて下さい。」

「はい!?何でだい?」

「プリンに使う牛乳と卵は栄養価が高いんです。だからこそ子供達が気軽に食べれる甘味にしたいんです。

 利益が出ないというのであれば、ワインと同様に牛乳はこの国専売にするのでどうですか?」

 私の気持ちにイザヤさんが折れてくれた結果銀貨1枚に決まった。


 でも毎回あの重さの荷物を台車で運ぶのは厳しいな。

「イザヤさん、相談があるのですが・・・」

「なるほど。確かに必要だね。予算はどれくらいだい?」

「相場が分からないのですが、金板1枚でどうですか?」

「!?あんた一体・・・ああ、いや何でもない。そんなに必要ないよ。中型くらいなら諸々込で、白金貨1枚で買えるから手配しておくよ。そうだね、2日もあれば準備出来るが、それで良いかい?」

「はい!よろしくお願いします!」


 これで荷運びもヒューゴに負担をかけなくても良くなる!

 さてと、ここで私に出来る事は終わったね。あとはイザヤさんに任せて、次は教会へ行ってみようかな。


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