第84話 尊い犠牲

 次は魔道都市エテルネ組の報告。あのクレマンが疲れた顔をするって余程の事があったのかと心配したけど、実際は思ってたのと少し違ったみたい。


 魔道都市エテルネへ着いたクレマンと優斗は、例に漏れず冒険者ギルドへ魔物を持ち込んだ。

 ただ私達と違い、事前に持ち込んだ魔物がカティアダンジョン20層ボスのオークロードという事を伝え、ギルド長へ面会を申し込んでいた。


 そして転移部屋や各階層のボスの情報を伝え、情報料もガッチリ貰ってから観光へと出掛けたらしい。

 これだよこれ!私達に足らなかった手際の良さ!


 私達はどうしても早く遊びたい気持ちが先走ってしまうけど、この2人は理性で押し留まることが出来る。

 あれ?じゃあ何でクレマンはぐったりしてるの?


「そんなに順調だったのに、何でそんなにクレマンは疲れてるの?」

 普段は優雅にワインを飲んでいるのに、今夜はビールをぐびぐび飲んでるのはストレス発散?


「特に何かあった訳ではないのですが・・・その、優斗様が・・・。」

「優斗が?」

 チラッと優斗を横目で見ると、目が泳いでる。その目の動きだけで、自供したも同然だね。


「エテルネ中の本屋や魔道具屋を巡り、持てない量を超えても買い回り、いくら止めても聞いて貰えず・・・結果ずっと荷物持ちをしていた次第です。」

 Oh・・・荷物持ち。それは大変お疲れ様でございました。


「それと、魔道研究所へ突撃なさろうとされるのを止めるのに、非常に骨を折りました。」

「クレマン!?それは秘密にってお願いしたのに!!」


 はい!自白頂きましたー!研究所とかそういう重要施設は、そんな簡単に見学する事は出来ないよね。優斗も分かってただろうに。

 前言撤回!優斗は興味のある物に関しては、人一倍理性が働かないね。


「ゆーーうーーとーー?昔から興味がある事になると周りが見えなくなるから、あれ程注意しておいたのに、まぁーたやらかしたのね?」

 陽菜の目が据わってる・・・。優斗は真っ青だ。


「こうなった陽菜は止められないから、今の内にお代わり取ってくる!」

 という大河に連れて、陽菜と優斗を残した全員がドリンクバーへお代わりを取りに行く。

 私の2杯目は今度売り出す赤ワインにしようかな!



 大熊亭へ戻ると、涙目の優斗が床に正座させられていた。

「じゃあ次は私達から報告するね!」

「そんな!このまま!?」

 私の報告開始の言葉に、優斗から非難の声が上がったが、陽菜の顔を見てすぐに口を噤んだ。

 ごめんね優斗。今の陽菜には誰も逆らえないよ。


 まずは皆の前に、収納に仕舞っておいたプリンを置いていく。

「とりあえずこのプリンを食べながら聞いてね。」

 そして聖王国アマリアでの事を報告する。もちろん復興計画についても詳細に。


「という訳で私とヒューゴは、暫くダンジョン攻略をお休みして、ルーデンスとここを行ったり来たりする事になると思います!ダンジョン攻略したいって言ったのは私なのに、ごめんなさい!」

 席から立って皆に頭を下げると、ヒューゴも一緒に頭を下げてくれた。


「なるほど、丁度良い!陽菜、大河、優斗を鍛えたいと思っていたんだ。この機会を有効活用して、しっかり鍛え上げておくよ!

 だから桜は気にせず、やりたい事をやっといで!」


 ま、まさか!?デスマーチ開催ですか!?陽菜達を見ると、一様に青ざめながらガタガタと震えている。そして密かにホッとしているヒューゴ。

「クレマン!3人の事を、どうかよろしくお願いします!」

 アンナを止められるのはクレマンしか居ない!


「最善を尽くしますが、私でも止められるかどうか・・・。」

 困り顔のクレマンの言葉に、悲壮感が漂う3人。クレマンでも厳しいのか・・・。

 ありがとう!3人の尊い犠牲は忘れない。頑張って!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る