第83話 可愛いアンナ

 冒険者ギルドでの話し合いの後、マイルズさん達はそのまま酒盛りを始めてしまった。

 試飲の残りしか置いてないから大丈夫だとは思うけど、明朝青い顔でお会いしない事を祈ってます。


 私とヒューゴは約束の時間が差し迫っていた為、大急ぎでアマリアの門から外へ出て、人気がない所で、待ち合わせ場所まですぐに転移する。

 エマさん達には明日戻る事を伝えてあるので大丈夫。


 私達が約束の場所に着いたのは、予定時間を少し過ぎた頃だった。アンナさんたちの姿はまだない。

「アンナが時間に遅れるのは珍しいね。」

「確かに。時間は、きっちり守ってたな。・・・何かあったか?」


 少し不安になり、MAPでアンナたちの現在地を確認すると、ハンメルからここに向かって猛スピードで向かっている所だった。そしてその後ろを10人前後の人に追われてる。


「アンナ達追われてるんだけど・・・。」

「!?急いで助けに」

「あ、待って!追われてるといっても、悪意や攻撃の意思は無いみたいなんだよね。

 ただもし不都合な事が起きた時、転移で逃げれるように、念の為変身しとこうと思う。」


 以前ラースから転移した時の姿に変身する。祭服を来た彼に。

「この姿の時はオーランドと呼んでね。」

「あ、ああ、分かった。」

 すごく微妙そうな表情だけど、私のイケメンっぷりに嫉妬してるのかな。

 大丈夫!ヒューゴも黙ってたらイケメンだよきっと。


 様子を見ながらそのまま待っていると、途中で捕まる事なく無事に合流地点まで辿り着いた。

「何で追われてるの?どうしたら良い?」

 私の姿と簡潔な質問で、今の状況を把握している事が分かったのか、アンナも簡潔に答えた。

「拠点へ!」

「了解!」


 ずくに全員で拠点へ転移する。木の影に隠れて転移したから、消えた瞬間は見えなかったはず。

 まあでも、足跡とか途中で途切れてるから怪しくはあるだろうけど。


 とりあえず何があったかについての報告は、クレマン達が帰って来てからになった。説明の二度手間は面倒だしね。


 晩ご飯を作りテーブルに並べている時に、ぐったりしたクレマンとウキウキしている優斗が帰って来た。

 ああ、こっちも何か色々あったのかな。報告聞くのがちょっと怖い気がする。



 それぞれ飲みたいものをドリンクバーから入れて来てテーブルに着いたら、晩ご飯の始まりです。

 ちなみに今夜の晩ご飯はオークシチューとパンとサラダという定番料理だけど、デザートには新作のプリンを準備してある。


「まずはハンメル組からの報告をして貰っていいかな?追われてたのがずっと気になってて。」

 コタロウとリュウにご飯を取り分けながら、アンナに話を促す。

 陽菜と大河が困ったような顔でアンナを見ているので、何となく想像はつくけどね。


「いやーあはは。ちょっとギルド長を倒しちまってさ。ははは。」

「「「「・・・・・・・」」」」

 予想通りというか何というか・・・。巻き込まれた陽菜と大河には悪い事したな。


「アンナ。順を追ってもう少し詳しく説明してもらえますかな?」

 クレマンさんの額に、青筋が浮かんでる気がする。

「はいはい、分かってるよ。」

 アンナはビールをグイッと煽ると話し始めた。


「ハンメルに着いたらその足で冒険者ギルドに魔物オーガロードを売りに行ったんだよ。解体と査定に時間が掛かるって言うから、宿決めてハンメル観光してたらすっかり査定を頼んでた事を忘れててさ。」

 忘れないで!?それが1番の目的だからね!?


「で、どうせなら帰りに寄れば良いやと思ってたら、昼飯食べ終わった頃に何故か居場所を知っていたギルド長がやって来て、そのままギルドまで連れてかれて、オーガロードをどこで倒したのかとか、カティアダンジョンについて教えろだとか上から目線でグダグダ言ってくるから・・・・つい?」


 自分も悪かった所があると分かってるからか、妙に早口で説明するアンナ。

 ハンメルのギルド長、確かに無駄に高圧的だから気持ちは分かるんだよね。それに前回の事もあったしね。


「それで?ついどうしたと?」

 仕方ない雰囲気になっていた所に、クレマンだけは追及の手を緩めない。


「そんなに知りたきゃ勝負に勝ったら教えてやるって言って、ギルド内の訓練場でボコった。」

 おいぃぃぃ!ボコったの?本当にボコったの!?

 陽菜と大河の方を見ると、苦笑いで頷いている。真実か・・・。


「アンナ、貴方がそうなる様に仕向けましたね?」

「チッ。クレマン余計な事を。」

「「「「「えっ?」」」」」

 仕向けた!?アンナさんが!?何で?私とヒューゴだけじゃなく、一緒に行った陽菜と大河も驚いてる。


「前回付けられて怖い思いをしたお前らの為に、アンナはあいつに鉄拳制裁加えたかったんだろう。」

「そして倒しても問題が起こらないように挑発して、一騎打ちへ持ち込んだのでしょう。査定を忘れたというのも嘘でしょうな。」


 ガインとクレマンの的確な解説に、アンナがぷいっとそっぽを向いた。

「お前らな・・・気付いていてもそういうのは言うなよ。」

 アンナが照れてる!!可愛い!!私達の為にやってくれたその気持ちがすごく嬉しい。


「じゃあ何で追われてたんだ?」

「それは・・・。」

 ヒューゴの問に言い淀むアンナ。そして殺気が溢れるガイン。


「倒されたギルド長が、アンナの事好きになっちゃったみたいなの。」

「アンナは断ってたけど、あいつかなりしつこくてさ。時間もないし逃げたんだけど、応援したい冒険者達に追いかけられたってわけ。」


 陽菜と大河が笑いながら教えてくれる。何と迷惑な求愛なんだろうね。

 ハンメル冒険者ギルドは、今後自主的に出禁という事で決定します!

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