第82話 信仰対象
「計画についてお話する前に、カルロさんに1つ確認しておきたい事があります。」
「はい、何でしょうか?」
「この国の信仰の対象はどなたですか?」
まずはこの国の問題について気付いて貰わないと話が進まない。
「もちろん創造神ゼノス様です。」
「そうなのですか?私はこの国に初めて来たのですが、てっきり昔の聖女様を信仰されてるのかと感じましたよ?」
「「「えっ?」」」
そう、これが1番の問題。多分この国の人達は生まれた時から今の状態が当たり前だったんだろう。だから自分達では気付けないのも無理はない。
予想通り3人共、この可能性に思いもしなかったようだね。
「私を他国から来た敬虔な創造神様の信徒だとします。この国の教会に礼拝しに訪れたら、創造神様の像の前に聖女像がデカデカと鎮座している。街の宿は聖女様の~と付いている宿ばかり。この国が信仰しているのは聖女様なんだとガッカリすると思いますよ。」
多分聖王国の住民と他国の住民では、聖女への思いも全く違うだろうしね。
余程衝撃だったのか、カルロさんもマイルズさんも言葉を失っている。
そんな2人とは違い、驚いた後すぐに正気に戻ったイザヤさん。
「という事は、お嬢さんの計画というのは聖女様の像を廃する事かい?」
探るような目で私を見据えながら問いかけてくる。
「いえ、廃するのではなく、移動させたいですね。それこそ広場みたいな所に置いた方が、親しまれると思いますよ。でも宿屋の名前は変えるべきですね。」
「ふむ、宿屋の件は私が掛け合うよ。ほらカルロ!いつまで惚けてるんだい!!しっかりおし!聖女様の像はあんたがやるんだよ!」
未だ戻って来れないカルロさんの背中を、バシンッと叩きながら喝を入れている。
「はっ!申し訳ない。思いもよらなかったものでつい・・・。聖女様の像については、私が責任を持って広場へと移動させます。」
少し気を取り直したカルロさんが、聖女像についてしっかりと確約してくれた。これでまずは第1関門突破といった所かな。
それまで黙って聞いていたマイルズさんがニコリと笑う。
「それで桜さん。本題が他にあるのでは?」
「ほう?」
「まだ他にも?」
「ふふふ。さすがマイルズさん分かってる!本題はここからですよ!」
崩れないように籠に入れた試作品を鞄から取り出し、3人の前に並べる。
「これは・・・?」
「プリンという卵を使った甘味です。」
昨夜拠点へこっそり転移で戻り、牛乳が出る冷泉を作り、そのまま大熊亭の厨房で作りました!
型が無いのでお皿にプルンとは出せないけど、口当たりが滑らかなプリンに出来たと自負しておりますよ!
「そしてこちらは創造神様が好まれる、葡萄を使ったお酒2種です。」
これは今朝拠点の温泉にいるであろう女神様達に会いに行き、聞いた情報を元に選んだ赤ワインと白ワイン。実はドリンクバーで創造神様がワインを楽しんでいる所を目撃したらしい。
大きな瓶に入れておいたものをテーブルへ。
「最後にこれを。サイズは時間がなかったので小さめになったのですが、創造神様の姿を模したぬいぐるみです。」
ぬいぐるみはプリンを作った後に、部屋に戻ってから作りました。朝女神様たちに確認したけど、販売する事に全く問題ないとの事。
むしろ自分達の姿のぬいぐるみも欲しそうだった。落ち着いたら他の神様達のぬいぐるみも作ってみようかな。
「まずはプリンとお酒のご試食どうぞ。」
ワインを飲む為に、マイルズさんがコップを出してくれた。本当はワイングラスが欲しいとこだけど、これについてもまたいずれ。
「このお酒、葡萄の香りが素晴らしいですね。」
「芳醇な甘みが口いっぱいに広がり、いつまでもこの余韻に浸っていたいものですな。」
「こっちの葡萄酒は、葡萄の香りがするのに赤くないのが何とも不思議だね。味も程よい酸味が爽やかで、とても繊細な味わいじゃないかい。」
赤ワイン白ワイン共に好評のようで、少々試飲にしては飲み過ぎの気がする。
「申し訳ありませんが、そろそろ試飲はそのくらいで。」
やんわりと断りを入れ、そっと瓶を取り上げる。
3人からとても恨めし気な目で見られてる。いやいや、まず仕事しようよ。
「せめてもう一口だけでも・・・」
「でしたらこう致しましょう。この葡萄酒は置いて帰りますので、話し合いが終わった後に楽しまれてはいかがですか?」
「「「さあ、先に進めましょう!」」」
その変わり身の速さに、思わず苦笑する。ワインを先に出したのは失敗だったな。
次にプリンを試食してもらう。そうだ!今度ノアさんにプリン型も作って貰えるように、追加で依頼しよう!そしたらぷるぷるプリンが作れる!
「これはまた・・・」
「滑らかで素晴らしく美味しいです。」
「・・・・・」
珍しくイザヤさんが黙ってしまったけど、プリンは真っ先に完食してるし不味くはなかったはず。
最後に創造神様のぬいぐるみを触ってみてもらう。
教会の創造神様の像は、威厳あるお爺様って感じだったけど、ぬいぐるみは親しまれる様に可愛らしくしてみた。
ぬいぐるみの中には、クッションを作る素材として販売してあった魔物のモコモコした毛を入れてあるので、もふもふしていて触り心地も抜群!
「この様な人形は見たことありませんね。」
「触り心地も良く、可愛らしい。」
マイルズさんとカルロさんは好感触!でもイザヤさんだけはまたしても無言のまま、ひたすらぬいぐるみをもふもふしている。
そんなイザヤさんを不思議そうに2人が見ている。イザヤさんは暫く考え込んだ後、徐にこちらを向いた。
「なあ桜、あんたはこれらをどうするつもりなんだい?」
「プリンとぬいぐるみは、レシピをアマリア商業ギルドへ登録します。お酒については、アマルテ商業ギルドへ専売します。」
「「「!!??」」」
「正直プリンとこのお酒が広まるだけで、かなりの収益が上がり、街の復興にも一役買えるのではと思っています。
ぬいぐるみは完全に私の趣味です。ただこういった物を見た事がなかったので、目新しさに食いついてもらえればな~と。」
それにここからインスピレーションを得て、新しい物をどんどん作っていって欲しい。
少しの間イザヤさんは目を見開き、食い入るように私を見つめていた。そしてフッと笑った。とても優しい笑顔だった。
「桜、あんたにアマリア商業ギルド長としても、一住民としても心から感謝する。私もこの計画を全力で支援するよ。」
「もちろん私も全面協力する!」
イザヤさんに続きカルロさんも協力を約束してくれた。
その後ハンメル組を迎えに行く約束の時間ギリギリまで、今後の詳しいスケジュールを話し合う事になるのだった。
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