第77話 残念ヒューゴ
この街の宿屋の名前は一体何なの!?聖女の微笑み亭、聖女の微睡み亭、聖女のため息亭等など……。どこもかしこも聖女聖女聖女。陽菜を連れて来なくて良かったよ。
何となく聖女の宿には泊まる気になれず、あちこち探し回っていると、1軒の宿屋が目に止まった。
【 宿屋 とまり木 】
街の中心部から離れた場所にひっそりと立っていた。素朴な外観から温かみを感じる。
「ヒューゴ!ここにしよう!」
「ああ!やっとまともそうな宿屋が見つかったな!」
ヒューゴも聖女の宿が嫌だったんだね。てっきり嫌々宿探しに付き合ってくれてるのかと思ってたよ。
とまり木の扉を開けると、カランコロンとベルが鳴る。音を聞いて奥からふっくらとした女性が出てきた。
「あらあらあら~。こんな辺鄙な宿へようこそ~!お泊まりですか~?それともお食事かしら?」
何ともふんわりとした口調と笑顔に、思わずこちらも笑顔になる。
「食事も泊まりも両方お願いしま~す!」
つい口調も移ってしまった。
「は~い。じゃあこちらがお部屋の鍵で~
す。荷物を置いてる間に、お食事を準備しておきますね~。」
そう言って彼女は部屋の鍵を1つ渡してきた。
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「違いますよ!!2部屋お願いします!!」
「別に俺は1部屋でも気にしな」
「ちょっと話がややこしくなるから、黙っててもらえるかな!?」
思わず話してる途中で、ヒューゴの口を手で抑えてしまった。ミレイユお姉様の気持ちが今、心の底から分かったよ。
「お兄さん残念だったわね~。頑張ってね~。」
彼女はクスクス笑いながら、鍵をもう1つ渡してくれた。残念な事なんて、欠片もありませんからね!?
何とも言えない恥ずかしいさで顔から火が出そうなまま、ヒューゴを押しながらその場を慌てて離れる。
部屋の前まで移動してからヒューゴをジロリと睨むが、全く気にした様子がない。
「ヒューゴに他意がないのは分かってるけど、あの場面であんな事言うのは止めようね?誤解されるからね?」
「 大熊亭で共同生活を送ってて、皆家族のようなものだろ。今更部屋が同じになった所で」
「止めようね!?」
「・・・・・・分かった。」
家族というより恋人と間違われかけたんだよ!!と声を大にして言いたい所をグッと堪える。
言ったところで、この唐変木には分からないだろう。
部屋に荷物を置いてから食堂へ行くと、さっきは気付かなかったが他にも何人かのお客さんが座っている。
私達が席に座るとすぐに、厨房から先程の女性が料理を運んできてくれた。
「お待たせしました~。オークシチューのランチで~す。今日のお昼はこれしかなくてごめんなさいね~。」
目の前に置かれたシチューは、トロトロに蕩けそうなほど煮込まれたお肉と野菜がとっても美味しそう。パンは温めてあるものの、少し固めの懐かしのパン。
「いただきます!」
しっかりと煮込まれたお肉は、口の中で溶けていった。噛まなくて良いやつだ!!!
野菜も少し噛んだだけで崩れていくほど煮込まれているのに、煮崩れはしてなくて・・・もうとにかく美味しい!!!
私もヒューゴも思わず夢中で食べ進め、あっという間に完食してしまった。
「とても美味しかったです!ご馳走様でした!」
「うふふ。ありがとう~。」
とても嬉しそうに微笑んでいる。彼女の笑顔につられて、周りのお客さんまで笑顔になっている。
この女性はとまり木の女将のエマさん。とまり木とは鳥が羽を休める場所の事。きっと彼女の笑顔に癒されたい人達が、この宿に舞い戻って来るんだろうな。
「さてさてお腹もいっぱいになった事だし、夕方までまだまだ時間もある。という訳で、アマルテ見物に繰り出しますか!」
「おう!」
生暖かい笑顔のエマさんに見送られながら、いざルーデンス観光へ!
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