第74話 暫しの休息

 窓から差し込む朝陽の眩しさで目が覚めると、ふわふわの毛が左右の頬をくすぐっていて心地良い。そのまま再び微睡みそうになる。


「桜起きた?」「桜ちゃんおはよう!」

「コタロウ、リュウ、おはよう!」

 私が身動ぎしたからか、コタロウとリュウを起こしてしまった。もう少しもふもふに癒されたかった。


 昨日は大熊亭へ帰った後、そのまま朝まで泥のように眠ってしまったらしい。

 ずっとMAPで警戒し常に緊張状態を強いられていたからか、自分が思ってた以上に疲れていたのだろう。


 朝の支度を済ませて1階に降りると、クレマンが既に起きていた。

「おはようございます桜様。」

 デスマーチの疲れの欠片も見えない所作で、優雅に紅茶を淹れてくれる。


「おはようクレマン。紅茶ありがとう!」

 優雅な一礼を返してくれる。結局クレマンだけは、私達の事を様付けで呼ぶのを止めてくれなかった。もうこれはそういうあだ名だと思っておこう。


 今朝の朝食は手抜きして、収納から取り出したパンケーキにする。コタロウとリュウにはコカトリスの唐揚げを。


 転移部屋のおかげで毎日大熊亭に帰っていた為、ダンジョン攻略前に作り溜めした料理がまだまだ収納に入っている。ちょっと作りすぎたかな。



 私達が朝食を食べ終わってもまだ誰も起きて来ないので、私はコタロウとリュウと一緒に温泉に入りに行く。


 まずは疲労回復の湯から。

「ふぃ~~~~~。極楽極楽。」

 最初は温泉に入るのを嫌がっていたコタロウとリュウも、今では蕩けた顔をして浸かってるのが可愛い。


 疲れが取れた後は、もちろん美髪・美肌の湯にも入る。本当この温泉スキルは最高すぎる。神々の皆様、本当にありがとう!

「「「どういたしまして~!」」」

「えっ!?いつの間に!?」


 少し考え事してる間に、ニーリル、ヨルア、ディーネの3神が、一緒の温泉に浸かっていた。


「桜ちゃんの言葉に甘えて~、毎朝浸からせて貰ってるよ~。」

「もう最近は毎日温泉に入らないと、肌や髪の調子が悪くてさ。」

「他の女神達にやっかまれるのは怖いですけどね・・・。」

 神様でも嫉妬する事とかあるんだね。触らぬ神に祟りなし。くわばらくわばら。


「そうだ~!桜ちゃんにハレクトから伝言~。【 エールランド帝国にだけは、魔物素材を売りに行くな。 】だって~。」

「えっ?何で?」

「分かんな~い。」

 ニーリルさん!?理由も聞いておいて欲しかったよ!?


「カティアダンジョンの凶悪な魔物を、ここまで倒せる人材がいると分かれば、戦争に利用される恐れがあるからだと思いますよ。」

 見かねたディーネが教えてくれた。戦争に参加する気は欠片もないよ!


「強い魔物ほど、その素材は良い武器・防具になる。直接戦争に駆り出されなくても、資材集めで使われる可能性も出てくるさ。」

 ヨルアの補足は、またも搾取されるかもしれないという可能性だった。搾取駄目絶対!


「他の国は大丈夫かな?既に1回ハンメルに売りに行ったんだけど・・・。」

「他の国は、戦争という意味では大丈夫だと思いますよ。」

 何その含みのある言い方!不安になるんですけど!?


「結局~甘い汁吸いたい奴は~、どこの国にもいるってこと~。」

「なるほど納得!」

 簡潔でとっても分かりやすい。戦争に関わらない様に、エールランド帝国以外に売りに行こう。


「ハレクトにお礼を伝えておいてもらえるかな?」

「い~よ~!」

 本当は何かお礼の贈り物もしたいけど、ハレクトの喜びそうな物が分からない。今度会えたら聞いてみようかな。



 まだまだ温泉に浸かるという女神達にお礼を伝えてから、温泉を後にする。

 そろそろ皆起きた頃だろうし、魔物の売却についてや、今後の拠点について相談しよう!

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