第73話 デスマーチ開幕

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「アンナ止めろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 辺り一面に、大河君とヒューゴさんの悲鳴が響き渡る。

 現在第8層の砂漠地帯。私達の周りは、殺気を放った大量の魔物に埋め尽くされていた。どうしてこうなった。


 完全に戦闘狂へと戻ったアンナさんのやる事は、常軌を逸していると言っても過言ではない。

 走りながら大声で魔物を挑発している。ガインさんも追従するように、自分の槍で盾を叩きながら大きな音を立てている。


 そんな事をすれば、魔物が集まってくるのは必然。斯くしてデスマーチは幕を開けたのであった。



 目の前に現れた巨大なサンドワームを一撃で倒しながら、アンナさんが叫ぶ。

「死にたくなかったら、周りを見て違和感を感じ取れ!先を読んで動きな!考えていたら間に合わないよ!」


「今まさにアンナのせいで死にそうだけどな!!!」

「まだまだ元気そうだなヒューゴ。行ってこい。」

 ヒューゴさんが悪態をつくと、どこからともなくガインさんが現れた。

 そしてヒョイっとヒューゴさんを持ち上げたかと思うと、サンドシャークの群れの中に投げ込んだ。


「ギャァァァァァーーーーー!!!」

 ガインさん恐ろしい人!アンナさんへの愛ゆえに、全く容赦がない。


「やれやれ。」

 そしてクレマンさんがヒューゴさんのフォローに走って行った。


 アンナさんは大河君を気にかけながら、大量のサンドワームを薙ぎ倒している。

 大河君もミスリルの剣を手に入れてるので、良い調子で倒せている。


「そろそろ私達も始めようか!」

「「はい!」」

 私と陽菜ちゃんと優斗君は、コタロウとリュウに乗ったまま戦う事にした。これなら避ける事に意識を割かずに、攻撃に専念できる!


 陽菜ちゃんは皆に体力継続回復魔法を掛けてくれた。優斗君は近付いてくるサンドワーム達を、風魔法で片っ端から切り裂いている。


 私はどう戦おうかな。まずは魔物の動きを止めるため、砂漠の砂を土魔法で固める。

 すると砂から顔を出していた魔物は土が動かないので身動きが取れなくなり、土から飛び出していた魔物は潜れなくなりピチピチと跳ねている。


 よしよし!狙い通り!後は1匹ずつ狙いを付けて、水の弾丸魔法で撃つのみ。前回より威力を抑えることも忘れてないよ。


 パシュッ!パシュッ!パシュッ!・・・


 音も小さくなり、耳に優しい。調子に乗ってガンガン撃ちまくり倒していった結果、8層の魔物は凄い早さで全滅。

 これで一安心とホッとしたのも束の間、デスマーチはこの階層で終わりではなかった。


 続く第9層に棲むトロールの集団も、1匹残らず殲滅。

 第10層のボス、ゴブリンロードはアンナさんの一撃で瞬殺だった。





 そしてダンジョンデスマーチ開始から3日目。今私達の目の前には、第30層のボス部屋の扉がある。


 ここまで本当に長い道のりだった・・・。まさか各階層の魔物全て殲滅しながら進むとは思わなかった。


 夜宿に戻った後、アンナを酔い潰して次の日を休みにしようと皆で画策するも失敗。

 状態異常回復の湯のせいで元気いっぱいのアンナを見た時のあの絶望感は、今まで生きてきた中で感じた事がない程だった。


 そして私達は吹っ切れた。気付けば敬称も丁寧語も無くなり、ただひたすら毎日戦いに明け暮れた。

 おかげで度胸も戦闘技術も、全てが磨かれた気さえする。



「今度のボスはどんな魔物が出てくるのか楽しみだ!」

「美味いやつが良い。」

 相変わらずの戦闘狂アンナと、食欲魔神のガインがボス部屋の扉を開ける。


 そこに居たのはオーガだった。しかし通常より倍以上大きく、肌の色も黒い。金属の鎧を身に付け、馬鹿デカい剣を持っている。

 鑑定結果は・・・


「オーガロードです。」

「へえぇぇぇ!!あれが!!!」

「食えないな。」

 アンナの目が輝いている。一瞬オーガロードが怯んだ気がする。本能で危機を察知したのかも。


「オ゙オ゙ォォォォォ!!!」

 先にオーガロードが私達に向かって走り出し、一気に距離を詰めてきた。チャンス!


 オーガロードが右足を上げた瞬間、その足元に土魔法で大きな段を作る。

 予想だにしない場所に段があるのに気付かず、そのまま右足を前に出し・・・盛大にコケた。


「「「「「「「・・・えっ?」」」」」」」


「今だーーーーー!!!」


 オーガロードが転ぶという、見た事も無い姿に呆然としていた皆が、私の声で我に返った。

 そして転んだオーガロードは何が起きたのか分からないまま、アンナに首と胴を離された。


「何だかどっと疲れた・・・。」

「俺も・・・。」

「流石・・・桜様でございます・・・。」

 クレマンさんまで含みがある。良い支援魔法だと思うんだけどな。


 ボス部屋の奥にいつも通りに宝箱が、そして部屋の外には第31階層へ続く階段があった。

「まだ最終階層じゃないか。一旦ここでダンジョン攻略を休憩しよう。まだまだ先は長そうだ。」

「「「「「やったぁぁぁぁぁ!!」」」」」


 やっと恐ろしく長かったダンジョンデスマーチが無事に終了した。

 帰ったらここまでの戦利品の確認と、魔物素材を売りに行って・・・あとはコタロウ、リュウと一緒にのんびり温泉に入ろう!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る