第72話 怪しい雲行き

 昨夜は温泉に入ってる間に、ガインさんがハイオークのステーキを焼いてくれていた。あれは大変に美味でした。

 アンナさん達の目の色が変わるのも頷ける。次オークを見つけたら、私の目の色も変わるだろう予感がヒシヒシとする。



 さてさて本日も朝から元気にカティアダンジョンへ。野営してるとこうは行かないんだろうな。

 入口横の隠し部屋から、5層まで転移し6層へ降りる。


「暑っ!!」

「灼熱エリアか。」

「私の脂肪が溶けていく~・・・。」


 ハンメルで購入した暑さ対策用の外套を羽織ると、少し暑さが軽減した。買ってて良かった~。

 アンナさん、ガインさん、クレマンさんも、似たような外套を羽織っているが、ハンメルに一緒に買い出しに行った4人は顔が青ざめている。


「まさか!?」

「「「「買い忘れました・・・。」」」」


 そっかー。買い忘れちゃったかー。あの時は服を買うのに必死だったもんね。

 その原因を作ってしまった責任が私にはあるな。何か方法を考えなきゃ。


 あれ?そう言えば私何も考えずに、ダンジョンの中で何回か転移使ってたな・・・。

 同じ階層内なら大丈夫って事?それとも階層関係なく出来る?試してみたいけど、今はリスクは避けて、確実な手を使いたい。


 第6層の魔物は、見た事ない魔物ばかりだけど仕方ない。討伐はまた装備が揃ってる時にしよう。


 とりあえず皆に、転移を使って7層への階段付近まで転移する事を提案してみる。

「そういえば何度かダンジョン内でも転移使ってたね。あれだけ危ないって言っておいたのにな?」

 アンナさんの目が据わってる。


「無意識に使ってて・・・ごめんなさい。」

「その結果、今転移が出来るから俺らも助かるんだ。」

「そうそう!結果オーライ!」

 ヒューゴさんと大河君がフォローしてくれる。2人共ありがとう!


「アンナ、今は先に進もう。陽菜が倒れそうだ。」

 ガインさんの言葉に慌てて陽菜ちゃんを見ると、汗をかきながら青い顔をしてフラフラしている。熱中症だ。

 急いで私の外套を羽織らせ、水魔法と風魔法で、冷たい風を陽菜ちゃんに向けて吹かせる。


「転移します。私の近くに急いで!」

 皆が集まったのを確認し、すぐに7層への階層付近まで転移する。そのまま階段の途中まで降りてから、陽菜ちゃんに水分補給状態異常回復の湯を飲むように促す。


「桜さん良くなりました!ありがとうございます!」

 さっきまでの青い顔が嘘のように、陽菜ちゃんがにっこり笑ってる。皆がホッとする気配が伝わってくる。うんうん、本当に良かった!



 陽菜ちゃんも元気になった所で、第7層へと降りると、今度は極寒エリアだった。この寒暖差は酷いね。

 皆に声をかける前に、私の近くに集まって来た。考える事は皆同じだね。

 そのまま8層の階段付近まで転移。


「このままボス部屋まで同じ感じで行きますか?」

「いや、流石にそれは避けたいな。感が鈍るのが恐い。」

「だが少しスピードは上げたい。」

 ふむふむ。それなら・・・


「コタロウ、リュウ出ておいで!」

「「はーーーい!」」

「元の大きさに戻って、私達を乗せてくれる?」

「えー桜以外を」「いーよー!」

 コタロウの言葉をリュウが遮り了承してくれた。コタロウごめんね!


 2匹が元の大きさに戻る。体だけで3m以上ありそう。

「ちょっと待った!」

 アンナさんからストップが掛かる。駄目だったかな。


「コタロウとリュウには、桜と陽菜、あとは優斗が乗りな。残りはあたしと一緒に走るよ!」

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」

「おう!」

「仕方ありませんな。」

 ヒューゴさんと大河君が青ざめている。


「ヒューゴ、お前最近弛んでるな?鍛え直しだ!大河も良い機会だし、一緒に鍛えてやる!!」

 ヒューゴさんは項垂れながら諦めた顔をしている。


「いや、あの、俺は・・・大丈夫なんで」

「一緒に地獄を見ようか大河。」

 後退りながら逃げようとする大河君を、ヒューゴさんが捕まえた。

「嫌だぁぁぁぁぁぁ!!!」

 絶叫する大河君を、ヒューゴさんが引きずって行った。道ずれにする気だね。


 大河君にエールを送りながらコタロウの背に乗る。陽菜ちゃんと優斗君は2人でリュウに。

「コタロウ乗せてくれてありがとう。」

「桜はいつでも乗って良いんだからな!」

 ツンデレっとした言い方がまた可愛い。精一杯のお礼を伝えたくて、大きな背を撫でていると、アンナさんから号令が掛かった。


「そろそろ行くよ!魔物は見つけ次第ぶちのめせ!桜は収納も頼む!さあ、楽しい楽しいダンジョンデスマーチ死の行進の始まりだ!!!」

「おう!」

「「・・・・・・・・・・・・」」

 言うなりすぐに、アンナさん達が走り出した。ヒューゴさんと大河君も覚悟を決めたのか付いて行く。


 アンナさんのテンションがおかしい・・・。

「アンナが大隊長をしていた時は、いつもあんな感じでしたよ。むしろ最近のアンナの方に違和感を感じるくらいでございました。」

 私の表情で察してくれたのか、クレマンさんが教えてくれた。


 そうか。アンナさんとそれに付いて行くガインさんも、元々戦闘狂なのね。

「さあ、置いていかれないよう我々も参りましょう。」

「はーい!」

 さて、私も負けないようにいっちょ頑張りますかね!

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