第65話 鋳物

 山盛りの服を買った面々は、サービスで大きな鞄に服を詰めてもらっていた。

「お゙ーも゙ーい゙ぃぃぃ!」

「気を抜くと後ろに倒れそうだよー!」

「・・・僕もう無理。」


 皆のやり取りを聞きつつ、MAPで人の居ない場所を探す。このまま大量の荷物を持ったまま、買い物続けるのは無理だよね。

 陽菜ちゃんなんて、鞄を背負っているのか背負われてるのか分からない状態だ。

 ヒューゴさんも同じくらいの量の服を背負ってるはずだけど、相変わらず余裕そうに担いでる。


 丁度今いるお店の裏手を、少し進んだ辺りに人気がない。

 陽菜ちゃんを支えながら何とか移動し、再度MAPで確認してから荷物を収納する。

「っあぁぁーー、重かったーー!僕もう諦める所でしたよ。」

「誰だよあんなに服買った奴!!!」

「皆だよ!!!」


 そんな楽しそうなやり取りを見ていると、後ろのドアが開く音がした。

「あの・・・大丈夫ですか?何かありましたか?」

 出てきたのは若い女性だった。手には大きな金槌を持っている。

 あれ?もしかして不審者だと思われた?


「騒がしくしてすみません!私達怪しいものじゃないんです!」

 必死に弁明する私が金槌を見ているのに気付いた女性は、慌てて後ろ手に隠した。

「私こそ驚かせた様ですみません!仕事をしていたので、ついそのまま持って出てきてしまったみたいで。」


 大金槌を使う仕事?うーん、何だろう。鍛冶師とか?

「鍛冶師か?」

 聞いていいのか躊躇っていた私とは違い、ド直球にヒューゴさんが聞いた。

「いえ、私は鋳物を扱っているんです。まあ、女の鋳物屋は異端扱いされるのですが・・・。」


 鋳物。高温で溶かした金属を、砂などで作った型の空洞部分に流し込み、冷やして固めたて作る物。鍋とかフライパンもだよね。

 あれ?もしかして!!??


「お姉さんに会いたかった!!!!!」

「えっ!?きゃっ!」

 思わずお姉さんの手を、握りしめてしまった。


「作って欲しい物があるの!!!多分誰も作った事が無い物だから、どこにも売ってなくて。」

「っ!?どんな物ですか!!??」

 今度はお姉さんが、凄い勢いで食いついて来た!誰も作った事が無いなんて、職人魂を揺さぶったかな?


 私は説明しようとするも、言葉だけでは伝わりにくい事に気付いた。

 紙に書いて説明したい事を伝えると、お姉さんは自分の工房へ案内してくれた。


 テーブル席に座り、そこで紙に作って欲しい物を書いていく。

 正直欲しい物は山ほどあるんだよね。どれから頼んでみようか・・・。いっそ全部書いてみて、出来そうな物を頼んでみるかな。うん!そうしよう!


 食パンの型、ケーキ型、シフォンケーキ型、パウンドケーキ型、クッキー型、たい焼き型の鉄板、たこ焼き型の鉄板・・・・・

「桜さん!そこまで!!」

 私が思い付く限り書いていると、優斗君からストップが掛かった。


「最初から多すぎますよ。追加でまた頼めば良いんですから、一旦ここまでにしておきましょう。」

 優斗君から諭された。思わず我を忘れてしまったよ。


「だね。優斗君止めてくれてありがとう。」

「個人的にはたこ焼きが食べたいです。」

「ふふふっ。鉄板出来たら、皆でタコパしようね!」

 ハズレを入れるのも楽しいタコパ。


「優斗ばかりズルい!私はシフォンケーキが食べたいです!」

「俺たい焼き食いたい!」

 陽菜ちゃんと大河君も、楽しみにしてくれてるんだね。

「うんうん!出来たら皆が食べたい物作るからね!」


 私達がキャッキャと日本の食べ物談義に花を咲かせていると、お姉さんから声が掛かった。

「そろそろ聞いても良いですか?」

 仕舞った。お姉さんを置き去りにしてた。


「すみません!あの、これが作って欲しい物の形と、仕様です。」

 ケーキ型とシフォンケーキ型は、底が取れるタイプで。

 書いた紙を見せながら、それぞれどんな食べ物を作る為の物かを簡単に説明していく。


「これを全部私が作っても・・・?」

「是非お願いしたいです!難しいかもしれないですが・・・。」

 今更ながら、一気に頼んでしまった事を若干後悔した。お姉さんに多大な負担を掛けてしまう事が、頭から抜けていた。

 優斗君が止めてくれなかったら、もっと大変だったかも。


「ありがとうございます!!!精一杯作らせてもらいます!!!」

「あの、思わず頼みすぎたので、多いようでしたら少し減らしても・・・。」

「いえ!!!大丈夫です!!!むしろやらせて下さい!!!作りたいです!!!」

 私が言い終わる前に、食い気味に言われた。お姉さんの目はやる気に満ちている。


「お姉さんありがとう。」

「あっ!すみません!名前も名乗らずに!私はノアと言います!」

「私は桜です。どうぞよろしくお願いします!」

 お互い名乗ってない事に気付き、照れながら改めて挨拶を交わす。


 明日からダンジョンに籠るため、暫く来れない事を伝え、金貨10枚を渡す。

「多すぎます!こんなに貰えません!!」

 ノアさんが青ざめながら固辞する。


「作った物が無い物を、一から作るなら当然何度も失敗しますよね?これは開発費用です。だから気にせず、どんどん試して見てください!足らない分は、またお渡ししますので。」


 私には作ることが出来ない物を頼むんだから、気にせず使って欲しい。そして良い物を作って欲しい。

 私の気持ちが伝わったのか、ノアさんが受け取ってくれた。

 次に来た時が楽しみ!型が出来たら、何から作ろうかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る