第54話 テオの信仰

 最近ラースに、ガラの悪い冒険者が増えてきてる。

 ギムルの親方の店にも、金がないのに値切って高い剣を買い叩こうとしやがるから、揉めることが増えてきた。


 その日俺はいつも行ってる屋台に、昼飯を買いに行く途中だった。

 あと少しで屋台街に着くという所で、孤児院の子供達がガラの悪い連中冒険者に絡まれているところを見てしまった。

 運が悪い事に、女の子が冒険者にぶつかり、服を汚してしまったようだ。


「おいおいお嬢ちゃん!服汚れちまったんだけど、どうしてくれんだ?」

「ごめんなさい・・・。」

 今にも泣きそう女の子に気を良くしたのか、高圧的な態度で更に詰め寄っていく。

「この服たけーんだわ。弁償しろよ、弁償!!ああん!?」

「お前子供にも容赦ねーなー。ギャハハハ」


 すると一緒にいた男の子が、震えながら女の子を庇った。

「そもそもあんたが前を見ずに歩いてて、ぶつかって来たんだろ!」

「はぁー!?難癖つけてんじゃねーぞガキが!!!」

 周りの野次馬も、連中が怖くて誰も助けようとしない。俺も怖くて動けない・・・。


「むしろお前らこそ謝れ!ぶつかってコイツ怪我したんだからな!!!」

「おいガキ。お前調子に乗るなよ。ガキだからって容赦しねーからな!!」

 これはヤバイ。勇気を出して仲裁しに入る。


「まあまあ、子供相手にそこまで怒らなくても!お前らも謝るっす!」

「何で僕達が!!!」

「クソガキが。思い知れ。」

 そう言うと男は剣を抜き、男の子に斬りかかった。とっさに男の子を突き飛ばした瞬間、俺の右腕に激痛が走り血が吹き出した。


 キャァァァァァーーーーーーーーー!!!


 辺りから悲鳴が上がるが、あまり良く聞こえない。子供達は無事かな。

 足に力が入らなくなり、その場に蹲る。辺りを見回すと、泣いているが怪我した様子もない男の子を見ることが出来た。

 大丈夫だよって言いたかったが、俺の意識はここで途絶えた。




 次に目を覚ました時、俺は病院のベッドの上だった。起き上がろうと右手をつこうとして倒れた。

 そうか・・・右手斬られたんだった。もう鍛冶師にもなれないんだな。


 ここからの記憶は酷く曖昧だった。親方や孤児院の子供達とシスターが、お見舞いに来てくれた気がするけど、何を話したのか全く覚えてない。


 飯も喉をろくに通らない。「無理やりにでも良いから、少し食べろ!」と親方に言われたけど、食べようとしても吐いてしまう。


 そんな状態が数日続いたある日、彼が突然現れた。背が高く、顔も整っている40代ぐらいの祭服を来た男。その彼がこんなことを言った。

「私は創造神様よりこれを授かった。これはどんな傷でも治す湯だ。君に飲んで欲しい。信じられないかもしれない。だがどうか飲んでみてはくれないか?」


 到底信じられるはずがない。俺は創造神様を信仰してはいないし、そもそも本物だとしても、俺に使う理由が分からない。

 だけどもう、どうでも良かった。毒でもなんでも良いから楽になりたいと、半ばヤケになっていた俺は、一気に飲み干した。


 するとものの数秒で、俺の右腕は元に戻っていた。涙が勝手に溢れてきて、まともにお礼が言えない。

 彼の名前を聞こうとしたが、来た時と同じ様に気が付いたら居なくなっていた。彼は創造神様の遣いなのか・・・。

 その日から創造神様に感謝を伝える為に、毎日祈る事にした。




 翌日桜さんがお見舞いに来てくれた少し後、街が騒がしくなった。親方が何が起きたか話を聞きに行き、帰ってきて聞いた話は信じられなかった。

 さっきお見舞いに来てくれてた桜さんがいる大熊亭を、200人近い騎士達が取り囲んでいるという。


 桜さんも、アンナさんとガインさんも、決して悪い事をする様な人達じゃない。今までこんな理不尽な事は無かった。最近この国はおかしい。

 何が起きてるのかどうしても自分の目で見たくて、親方に無理を言って大熊亭まで支えてもらいながら向かった。


 すると大熊亭の前に1人の男が立っていた。俺は彼の顔に見覚えがある。昨日俺の右腕を治してくれた恩人だった。

 彼が突然祈り出すと、空から光が降り注ぎ、大熊亭と彼を照らしたかと思うと、瞬きする間に消えていた。


「やっぱり彼は創造神様の遣いだったっすね。」


 俺の呟きは、しんと静まり返っていた辺りに響き渡った。

 騎士達は呆然と立ち尽くし、ラースの住民は狂喜乱舞している。

 俺は身体に障るといけないと、親方に病院まで連れ戻された。久しぶりに外を歩いたからか、とても疲れた。でも嫌な疲れじゃない。

 創造神様に祈りを捧げてから、今夜は眠りにつく事にした。

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