第52話 いざ!新天地へ!
大熊亭の外には騎士団の他に、ラースの街の人達が遠巻きに集まり、心配そうにこの状況を見ている。
「こんばんわ。こんな時間に大勢で、一体どうされたのですか?」
大熊亭から出てきた私を取り囲もうと、騎士達が詰め寄って来た。その瞬間、影からコタロウとリュウが飛び出し、騎士達を威嚇する。
「なっ!?魔物!?」
「彼らは私を守ってくれる、聖獣フェンリルです。創造神様より授かった大切な家族ですよ。それで?貴女方の来訪理由をお聞かせ頂けますか?」
街の人達にも聞こえるように、少し大きめに声を張る。
「我々は国王陛下の命で参った。そこを退いて頂きたい。」
「私はこの大熊亭を代表してここにいます。何度も聞きますが、何用ですか?」
「アンナ、ガイン、桜は、逆心を抱いている疑いで連行せよとの命だ。素直にそこを退け。」
逆心とは証拠もなく、よくぞ言ってくれた!
「理由もなく一般市民の女性を【王命】で無理やり連れて行こうとし、それを断られたからですか?
それとも王国の騎士が一般市民の女性に殴り掛かり、それをここの女将のアンナに殴り止められた事を言っているのですか?」
私の言葉に辺りがザワつく。騎士達も昼間の話を聞いてなかったのか、動揺し始めた。
「それでも王命であれば、貴女方は無理やりにでも連れて行かねばならないのでしょう。ならば私は彼らに力を貸そう。」
私は大熊亭の方へ向きを変え、膝をついて祈りを捧げるポーズを取る。その私の両脇に、コタロウとリュウが寄り添う。
「一体何を・・・。」
騎士の呟きは無視し、最終調整に入る。
転移する場所は人目につかず、簡単に追う事も出来ない場所。そうあの森へ。
大熊亭と私と2匹を、まずは光魔法で上空から照らす。中々神秘的に出来た。
「「「「「おおぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
周りで見守っていた街の人達だけではなく、騎士団からも歓声が沸き起こる。
「神の御加護がありますように。」
神への祈りを呟いてから、大熊亭・私・コタロウとリュウを、カティアの森中央付近へ転移させる。
転移後すぐに周りをマップで確認する。少し離れた場所に魔物がいるみたいだけど、今のところ近付いてくる気配はなさそう。
安全確認した所で変身を解き、大熊亭へ入る。
「無事逃げられましたよ!やりましたね!」
皆にサムズアップするも、陽菜ちゃんと大河君しか返してくれなかった。2人の優しさに涙が出そうだよ。
アンナさんとガインさんは何故か首を振っているし、ヒューゴさんは固まっている。
「色々と聞きたい事があるのですが、とりあえず今居るここはどこですか?」
若干諦めに似た表情で優斗君が聞いてくる。
「良い質問だね優斗君!ここはカティアの森の中央ど真ん中!大熊亭ごと転移しました!いやー建物ごと転移出来るかはちょっと賭けだったんだけど、成功して良かった良かった!」
あははははーと笑ってみたけど、当然流してはもらえないよね。
皆に説明を求められたが、その前にやりたい事があるんです。まずはここに、少しでも安全な場所を作らないとね!
少し外で作業をしてから話すと伝えると、何故か皆がぞろぞろと付いて来た。何となくやりにくい。
「桜!少しこの辺りで遊んで来て良い?」
「初めての場所ー!走りたーい!」
コタロウとリュウも頑張ってくれたし、リフレッシュに広い森で走り回りたいよね!
「良いけど、怪我しないように気を付けてね!あまり危ない事はしないでね!」
「「はーーーい!」」
猛ダッシュで走って行ってしまった。不安。マップで2匹の居場所確認だけはしておこう。そうだ!後で傷湯も作っておこう!
さてさて、塀を作るとしますか!今日はとりあえず土壁にして、また時間がある時に森に合う塀に変えていこう。
イメージしやすくする為に地面に手をつく。どんな凶暴な魔物がいるか分からない。とにかく壊されない塀が良い!
高さ5m・厚さ2mの、頑丈で硬い土塀で大熊亭の周囲1km四方を囲む。想像通りに出来た!出入りする扉は・・・明日作ろう。
それと傷湯と疲労回復・美肌の湯の2つを作っておこう。後で私も入りたいし、目隠し用の壁も土で作って・・・っと。
とりあえず簡易的だけど、拠点完成!!
「間に合わせですけど、安全な拠点が出来ましたよ!!」
やり切った達成感で皆の方へ振り向くと、皆の顔から表情が消え、何故か遠くを見つめてる。お腹空いたのかな?
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