第49話 只者ではなかった
走り去る騎士の姿を見送ってから、大熊亭へ入ると、アンナさんが突然謝ってきた。
「桜、
「そもそも私が煽ったのが原因なので、私こそすみませんでした。1発殴られる事で、【王様からの使者に暴行を働かれた】という既成事実を、衆人環視の中で作ってみようかな~とか、つい思いついたのもので・・・」
アンナさんとガインさんがポカーンと、呆気に取られた顔をしている。
「さすが桜様でございます。」
2人の後ろから、いつの間に来たのかクレマンさんが現れた。
扉が開く音しませんでしたけど!?
「アンナは昔から浅慮な所がありまして、考えるより先に体が動いてしまうのです。ガインは分かっていて、敢えてそのままアンナを野放しにするのですよ。」
「クレマン・・・こんな厄介な奴に見られるなんて、あたしも鈍ったもんだ。」
「現役を退いて何年も経っている人間に気付かれるなんて事があれば、私は早々に引退してますよ。」
只者ではないとは思ってたけど、クレマンさんって一体何者・・・。
すると今まで黙っていたガインさんが、2人に割って入った。
「そろそろ良いか?そんなに時間も無いと思うんだが?」
「確かにな。で、クレマンは何の情報を持って来た?」
クレマンさんは優雅な所作で私を近くの椅子に座らせると、お茶を入れながら話してくれた。
「王は桜様を監禁なさるおつもりです。」
「はあ!?何でそうなる!?」
「理由は聞いていませんが、推察は出来ます。」
クレマンさんが言うには、王は私のレシピが莫大な利益を生むと目をつけたらしい。
商業ギルドに登録したレシピは、その登録した国のギルドでしか購入する事が出来ない。
私が登録したレシピは4つ。そのどれもが国内だけではなく、噂を聞いた近隣諸国からも買いたいと人が訪れているらしい。
私にレシピをどんどん作らせ、国が商業ギルドへ登録すれば、莫大な利益を国が得る事が出来ると考えたついた・・・と。
なるほどね。商業ギルドのギルマスが横取りする事に失敗したから、直接的な方法に出ようとしたという事ですか。搾取は断固拒否します!
「それともう1つは勇者様方に対する、人質の役割を担わせるおつもりかと。」
「やっぱりそうですよねー。」
「ですが今のところ、王に対立する様子は見られていない為、こちらはあくまで念の為かと。」
「あの王が考えそうな事だ。」
「さっさと騎士団辞めて正解だったよ。」
あの王様ってやっぱり散々な評価なんだね。
「ってアンナさん!それ!ずっと気になってたんですけど!?アンナさんとガインさんは、元騎士さんなんですか?」
「あー・・・言ってなかったっけ?私は前王の時代、王国騎士団総隊長を務めていた。今の王に代替わりした時に、職を辞してこの宿屋の女将になったんだ。」
聞いてませんよ!それに王国騎士団総隊長って、騎士団のトップだよね!?それが何故宿屋の女将に!?
「俺は王国騎士団副隊長だったが、アンナが辞めて宿屋をやると聞いて付いて来た。」
騎士団のNo.1と2が揃って辞めたの!?あとガインさん!付いて来たって言い方軽いから!
「ついでに私の所属もお話しておきましょう。私は暗殺部隊の隊長を努めております。」
只者じゃないとは思ってたけど、まさかの暗殺部隊!?しかも現役の隊長ですか!?そんな人が何で私の執事をしてたんですか!?
「勇者を召喚する程の魔物の脅威など、今この国にはありません。だが王は召喚の儀を執り行い、まだ成人したばかりの若い者達に過酷な訓練を強制し、巻き込まれた桜様を城から追い出した!」
いつも穏やかに話すクレマンさんの声が、怒気を帯びている。
「本当の召喚理由は、どっかの国との戦争か?」
「おそらくは。狙いはエールランド帝国だと思うのですが、間にあるカティアの森を行軍するのは厳しいかと。」
「だけど迂回するにも、北にアマリア王国、南には魔道都市エテルネがあるだろ?だからエールランド帝国とはお互い、今まで手が出せなかった。違うか?」
3人の議論が白熱している。私は今の内に今後について考えておこう。
今夜にでも、今度はもっと沢山の騎士達が、私を連行しにここに来るだろうな。アンナさんとガインさんも、このままだと連れて行かれるよね。
2人が良ければ、転移で連れて逃げるとして・・・。陽菜ちゃん達は・・・。逃げる前に一泡吹かせたいし・・・。
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