第48話 アンナとガイン

 人目に付きにくい夜まで、大熊亭の自室で休んでから行動に移す。

 まずは大聖堂に居た聖職者が来ていた祭服をイメージ。その祭服を着ている某俳優さんを再度イメージして変身する。成功!性別まで変えられちゃったよ。


 コタロウとリュウには影に入ってもらい、テオさんの所へ転移。

 部屋の中はうっすらとした明かりが灯っているけど薄暗い。顔がしっかり見えないのは丁度良い。


 マップで周りにテオさん以外の人が居ないのを確認し、そっとテオさんに近づく。

 血が足りないのか顔は青白く、前より少し頬が痩けてる気がする。そして右手は・・・肘から下が無くなっていた。

 以前ギムルさんのお店で見た姿とあまりにもかけ離れていて、胸が痛くなる。


「誰?」

「こんばんわ。夜遅くにお邪魔してすまないね。私は君にこれを渡す為に来たんだ。」

 そう言ってから、テオさんの左手へそっと傷湯を持たせる。


「・・・これは?」

「私は創造神様よりこれを授かった。これはどんな傷でも治す湯だ。君に飲んで欲しい。信じられないかもしれない。だがどうか飲んでみてはくれないか?」


 テオさんは少しだけ考えてから、ヨロヨロと起き上がると、一気に飲んだ。

 すると、何と言う事でしょう。テオさんの腕が逆再生のように生えてきた。

 テオさんの目から涙が溢れ出す。口からは、言葉にならない声が漏れ聞こえる。


「ありがとう!本当にありがとうございます!俺もう駄目だって・・・。」

 それ以上は言葉にならず、ただただ感涙を流している。

 テオさんの右手が治って、本当に良かったよ!


 もらい泣きしそうになるのをぐっと堪え、テオさんの背中をさすっていると、廊下を走ってくる音が聞こえる。

 コンコンと扉をノックする音がし、テオさんがそちらを向いた瞬間に自室へ転移する。


 ふぅ。危なかった。テオさんの腕も元に戻ったし、もう大丈夫!これでまた元気なテオさんをお店で見られるね!




 翌日、ラースは大騒ぎだった。大熊亭のお客さんも、誰も彼もがテオさんの噂話。

 テオさんの証言の元、教会関係者に探りが入るが、全く足取りは掴めていないそう。

 そりゃそうだ。この世界には実在してない人だからね。


 それとこんな噂が流れている。創造神様の使いがテオさんを治したのではないかと。

 狙い通り創造神様を信仰する人々が、少しずつ増え始めていた。


 渦中のテオさんはもう少し入院するらしい。確かに顔色はまだ悪かったし、頬も痩けてた。増血の効能も入れれば良かったな。

 でも今のラースに戻ると、色んな人に話を聞かれて大変だろうし、もう少し噂が落ち着くまでは入院してた方が良さそうかも。


 休憩時間に果物を持ってお見舞いに行くと、ギムルさんが来ていた。

「こんにちわ、テオさん。調子はどうですか?」

「桜さん!わざわざ来てくれたんすか!?もうすっかり元気なんすけど、退院させてもらえないんすよ。体が鈍るんで早く働きたいっす!」

「何言ってやがる!しっかり治して、元気になってから帰って来い!」

「えーーーーー。」

「えーーーじゃねぇ!!!」


 テオさんは鍛冶師の仕事がすごく好きなんだろうな。ギムルさんも昨日とは違い、叱りながらもすごく嬉しそう。

 2人の楽しそうな掛け合いがまた見れた事が、何より嬉しい。

 退院したらお祝いをしようと約束をし、病室を後にする。




 大熊亭へ戻ると、入口で3人の騎士とアンナさん、ガインさんが口論していた。

 私の姿を見た騎士が、私を取り囲んだ。何事?


「桜だな。今すぐお前を城に連れて来いとの王命だ。付いて来い。」

 あれ?この横柄な態度の騎士は、クレマンさんに凄まれて逃げてった騎士じゃないかな?


「だから!何で桜が城へ行かなきゃいけないんだよ!理由を説明しろって言ってるだろーが!!」

「王命だ。理由なぞ知る必要は無い。私はもうあなたは部下ではない。いつまでも部下扱いしないでもらいたい!!」

「正当な理由がないのに、一般市民を連れてくのはおかしいって言ってんだよ!元部下とか関係ないだろ!」

 この騎士がアンナさんの元部下・・・・?えっ!?!?


「大方お前ら理由聞かされてねーんだろ。末端の騎士にまであの王が説明するはずもない。」

「ぐっ!ガイン!!貴様ーー!!」

 図星だったらしい。真っ赤になった騎士が、ガインさんに掴みかかろうとするのを、後ろの騎士に止められている。

 ガインさんも王様や騎士と知り合いなんだ。だからクレマンさんとも知り合いだったんだ!


「あのー私二度と城へ入る事は許さないと、王命を受けています。その事について、何か言われてますか?」

 私の質問に、騎士がしどろもどろに答える。

「特に・・・言われては・・・いない。」


「そうですか。では私も王命を守る為、お城へは行けません。

 それと本来、私はこの国の国民ではないので、そもそもが王様の命令を聞く必要は無いんですよ。理由は王様がご存知のはず。営業妨害なので、二度と来ないで貰えます?」


 私の言葉に激昂した騎士が殴りかかってきた瞬間、アンナさんに殴り飛ばされ、2m程吹っ飛んだ。

 人って殴られてあんなに飛ぶ!?ってかアンナさん強っ!!

 真っ青になりながら残りの騎士2人が、殴られた騎士を担ぎ、慌てて城の方へ走り去って行った。

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