第39話 護身用の武器

 周りに人が居ないかマップで確認をしてから、ミレイユさんのお店で買った物を、こっそりと収納する。手ぶらで歩けるって楽で良いね!


 ギムルさんのお店に着くと、中から丁度レオさんが出てきた。そして思い出した。市場でのお金をまだ返せてない事を。

 大熊亭で歌を歌った後に返す予定が、その後の飲み会でレオさんが酔い潰れてしまった為に、まだ渡せていなかった。


「レオさん!!!お金!!!」

「お金がどうした!?」

 突然の事にレオさんが驚いている。間違えた。これじゃあ、お金を無心してる様に聞こえる。


「市場で小豆やもち米を買った時に、レオさんが立て替えてくれてたお金をまだ返せてなかったんです。遅くなってごめんなさい。」

 そう言ってお金を渡そうとすると、レオさんに押し止められる。


「桜、あれは歌の礼だったんだ。金を渡されるのは、嬉しくないな。」

 奢ってもらい慣れてないので、少し抵抗があるけど、気持ちを断るのは良くないか。


「それならお言葉に甘えます。レオさん改めて、ありがとうございました。」

「おう!それより今日はこんな所にどうした?」

 レオさんは私の言葉に満足気に笑うと、ここに居る理由を尋ねてきた。


「こんな所で悪かったな。今回のお前の剣の修理費二割増な。」

「ギムルさん言葉の綾だって!さすがに二割増はないだろ!」

 レオさんの言葉を聞いていたらしいギムルさんが、店から顔を出した。タイミングが悪かったね。


「で?桜、今日はどうした?」

「護身用の剣を買おうと思って、見に来ました。」

「「剣!?」」

 私が来店理由を伝えると、2人とも驚いた顔をしていた。そんなに驚く事を言ったかな?


 店先で話すのは営業妨害になるので、お店の中に入って話す。

「前に作ってやるとは言ったが、てっきり短剣ぐらいのやつだろうと思っていたんだが・・・。」

「桜は剣が使えるのか?」

「少しだけ故郷で習っていたんです。使っていたのはあまり重くない、このくらいの長さの剣でした。」

 ギムルさんに竹刀の長さを、両手を広げて表す。

 はいそうです。習っていたのは剣道で、使っていたのは竹刀です。


「おいおい。結構長い剣使うんだな。」

「その長さで重くない?っつー事は使う金属はミスリルか?厚みは?柄は?」

 ギムルさんの目が職人の目に変わった。これはもしかして、一から作ってくれるつもりなのかな?


「ギムルさん、せっかくなのですが・・・オーダーメイドで作ってもらえる程まだお金がないので、買える範囲で私の使えそうな剣を買おうと思ってます。」

 私の言葉を聞いて、ギムルさんの目が吊り上がった。不穏な空気が漂う。


「おい桜。俺は、お前の歌を聴いた礼をしたいって言っただろうが。金なんかいるか!」

「それは価値がちょっと釣り合わないかと思うのですが・・・?」


 勇気を出して反論してみると、まさかのレオさんから突っ込まれた。

「桜よー、さっきも言ったんだけどな?お礼というのは気持ちなんだよ。それを無下にするのはどうかと思うな。こういう時は素直に作ってもらっとけ。な?」


 確かにお礼の品を、要らないって返されたら私も悲しい。

 日本にいた時は私が何かをするのは当たり前で、お礼をされる事ってなかったから、どうにも慣れない。

 何だかくすぐったい気持ちになるけど、すごく嬉しい。


「ギムルさんごめんなさい。それとありがとうございます!是非作ってもらえますか?」

「おうよ!任せとけ!」

 ギムルさんが嬉しそうに笑ってくれた。私も嬉しい。

「レオさんもありがとうございます。」

 お礼を言うと少し照れたように頭を掻きながら、手を振って応えてくれた。


「で?どんな武器にする?」

 ギムルさんが目を輝かせながら聞いてくる。少年のようだね。おじさんだけど。


 刀とか使ってみたいけど、竹刀みたいに真っ直ぐじゃないから、感覚が変わって難しいかな。

 それならやっぱり竹刀ぐらいの長さで、刃は片側は切れるように。鍔が無いと滑って刃を触りそうだし、鍔も付けてもらう。柄は竹刀みたいな丸型よりは、刀みたいに楕円の方が握り易そう。出来れば材質は滑りにくい材質が良いけど、難しいなら後で布を巻こうかな。よし!これでいこう!


 考えた剣を伝えると、目の色が変わったギムルさんに、紙と羽根ペンを渡された。

「今言ってた剣を、簡単にで良いから描いてくれ。」

「あまり絵は上手くないので、笑わないでくださいね?」


 一言断ってから、思い描いた剣を描いてみる。うん、やっぱり上手くない。

 それでもギムルさんにはイメージが伝わったらしく、意気揚々と工房へ行ってしまった。出来るまでどれくらい時間がかかるか分からないけど、自分の剣なんて日本では永遠に持てなかっただろうし、すごく楽しみ。

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