第38話 備えあれば憂いなし

 コタロウと湯冷ましを飲んで寛いでいると、リュウが慌てた様子で帰ってきた。

「さっきの人間達が、こっちに向かって来てるよ!」

「えっ!?何で!?」

「あいつら、桜ちゃんを売り飛ばすつもりみたいだよ。」

 人身売買・・・。異世界怖い。


 とりあえず温泉が見つかるのは困る。消せるかな。消すイメージでスキルを使うと、消すことが出来た。イメージすごいな。


「今後の為に、顔見て鑑定だけしておきたい。終わったらすぐ転移するから、コタロウとリュウは影に潜っててね。」

「分かった。くれぐれも気をつけて。」

「何かあったらすぐに飛び出すからね!」

 2匹は心配そうに影に潜っていく。さっきとは違って転移出来るから大丈夫!


 木の影に隠れて、追っ手が現れる方向をこっそり見ていると、3人の男が現れた。マップで確認しても3人なので、他に仲間はいないだろう。


「あれ?いねーな。ここじゃねーのかよ!」

「ここで桁違いの魔力を感じた。居たのは間違いない。」

「クソッ!逃げられたか!」

「あんな良い女そうそういねーよ!かなりの高値で売れたはず!あーー勿体ねーー!!」

 好き勝手言ってる奴らを、サッと鑑定してすぐ大熊亭の部屋へ転移。魔力を感知される前に逃げる。


 部屋に転移すると、コタロウとリュウが影から飛び出して来た。

「「桜( ちゃん )無事!?」」

「もちろん無事だよ!顔も覚えたし、ステータスも見たから大丈夫!」

 変身を解いて、ベッドに倒れ込む。コタロウとリュウも小さくなって、私にくっついて来る。


 今回の事で、ここは危険な世界なんだと思い知った。魔物だけではなく、人間にも身近に危ない人がいる。何時何が起きても良いように、警戒と準備はしっかりしておこう。


 そうだ!少し休憩したら、ミレイユさんとギムルさんのお店に買い物に行こう。食料も収納にしまっておけば痛まないし、市場にも寄っていこう。




 コタロウとリュウをもふもふした後、早速買い物に出てみる。

 そういえば、街中でマップを使ってみるとどうなるんだろう。ふと疑問に感じてマップを使ってみると、大熊亭の中には悪意のありそうな人は居なかった。けど、街の中には点々と赤く光るマークがある。

「うわぁ、街の中も結構危険なんだな。」

 今後は街の中でも、少し気を付けよう。


 ミレイユさんのお店に到着。

「こんにちわー。」

「あら、いらっしゃい。ゆっくりして行ってね!」

 タオルや大きめの布、お皿にカップにコップ、スプーン、フォーク、ナイフ、箸、服や下着etc……生活必需品を全部数点ずつ。

 コタロウとリュウ用にブラシ、ご飯を入れる大きめのお皿とお水を入れる用のお皿を数点ずつ。

 コタロウとリュウが怪我した時用に、ポーションを10個。あとは・・・・・。


「・・・桜ちゃんすごい量だけど、旅にでも出るの?」

「えっ!?旅!?出ませんよ!?」

「良かった!てっきりどこかに引っ越しちゃうのかと思ったわ。」

 確かに何かあったら困ると思って、少し焦りすぎだったかも・・・。普通に考えたら追加で買う量じゃないね。全部少しずつ減らし、予備程度の量に抑えよう。


「ミレイユさんさっきは止めてくれて、ありがとうございました。少し焦ってたみたいで。」

「何かあったの?」

 しまった。今のは心配かける様な言い方だった。


「特に何かあった訳じゃないんですけど、まだこの国に来たばかりで漠然とした不安?があったのかも。ミレイユさんのおかげで落ち着きました!」

「何だかもうずっと暮らしてる様な気がしてたけど、桜ちゃんがこの国に来てまだひと月も経ってないのね。もしかしたら少し故郷が懐かしくなっちゃったかしら。」

 コタロウとリュウに会えたし、むしろ戻りたいとは思ってないんだよね。


「そうだ!今度桜ちゃんがお休みの日に、ヒューゴやレオに声掛けて、皆でパーッとお酒でも飲まない?」

「飲む飲む!飲みたいです!」

 友人と飲み会とか久しぶりでワクワクする。

「ふふっ。じゃあ私から声掛けておくから、桜ちゃんはお休みが決まったら教えてね!」

 パチンとウィンクするミレイユさんに、了承の意を伝えて店を出る。

 さっきまですごく不安な気持ちでいっぱいだったのに、もう楽しみでフワフワしてる。ミレイユさんに感謝しなきゃ!

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