第36話 一番怖いのは

 街を出ると広い草原が広がっていた。ピクニックにでも来た様な気分になる。

「コタロウ、リュウ!出ておいで!思いっきり走って良いよ!」

「「はーーーい!」」

 返事と共に、2匹は影からピョンっと飛び出すと、追いかけっこを始めた。

 楽しそうで良かった!森に着くまで自由に遊ばせてあげよう。


 そういえばスキルに、マップっていうのがあったな。地図を見る感じかな?とりあえず使ってみよう。

 地図を見るイメージでマップスキルを使ってみると、目の前にディスプレイみたいな物が現れた。写っているのはこの周辺と思われる地図。


 中心で点滅しているピンク色のマークは私かな?動き回っているこの青色のマークが、コタロウとリュウだね。

 この赤色のマークは魔物かな?でも街の方から私たちの方へ向かって来てる。速度は私と同じくらい。・・・人?


 たまたま同じ方向へ行くのかもしれない。進路を右にずらして進みながら、少し様子を見る。

 進路をこっちへ変えて来た!?どうしよう、これは後をつけられてるって事!?


( 怖い怖い。どうしよう。コタロウとリュウはどこ?側にいて。 )

(( 呼んだ? ))

 頭に2匹の声が響いたと同時に、私の影から出てきた。

( えっ?喋らなくても、思った事が伝わるの?っていうか影から出てきた!? )

( うん!分かるよー。桜ちゃんが呼んでたから、影を移動してきたんだよ! )

( それよりどうした?何かを怖がってただろ? )


 コタロウとリュウが側にいてくれるだけで、すごくホッとする。でも今はまだ安心しては駄目だ。状況を把握する必要がある。2匹にも今の状況を説明する。


( 何が追って来てるのか分からないの。 )

( この匂いは人だな。 )

 人!?何で!?

( 桜ちゃんどうする?倒しちゃう?それとも逃げる?)

( 出来れば逃げたい・・・です。)

 人と戦うなんて考えてなかった。でもここは日本とは違う。簡単に人が人を襲う世界なんだ。そう考えただけで、体が震えてくる。


( 大丈夫!俺が側にいる!桜は絶対守る!)

( 僕もいるけどねー。桜ちゃん安心してね。)

( コタロウ、リュウ・・・ありがとう。)

 2匹の優しさに涙が出そうになるけど、泣くのは我慢。今はどうにかして逃げないと。


( 桜は俺の背に乗って。とりあえず森の中腹まで全力で走る。リュウ、遅れんなよ。)

( 遅れないよ!僕の方が速いんだからね!)

 そう言うとコタロウが元の大きさに戻った。いそいそとその背に乗ってみる。こんな時にあれだけど、毛がもふもふしていて気持ち良い。


( 桜!落ちないように毛にしっかりしがみついて!痛くないから!)

 言われて慌ててしがみつく。その瞬間ものすごい速度でコタロウが走り出した。ジェットコースターなんて目じゃないぐらい怖い。前なんてとても見ていられない。とにかく振り落とされない様、必死にしがみつく。


 しばらく走った後、コタロウが走る速度を落とした。

( 撒けたと思うけど、念の為マップで確認してみて。)

 すぐにマップを見てみると、付いてきていた人は居なくなっていた。周りに違う赤いマークが点々とあるけど、こっちに寄ってくる感じはしない。


( 無事に撒けたみたい。コタロウ、私を乗せて、全力で走ってくれてありがとう。)

 お礼を言いながら背を撫でる。もふもふしていて気持ち良い。

( これぐらい大した事じゃないよ。いつでも乗って良いから。)

( えーーー。次は僕が乗せる番だよ!)

( はぁ!?いつから順番になった!お前は体力そんなに無いだろーが!)

( 桜ちゃんを乗せるぐらいは平気ですー!)

( 乗せた状態でお前が雷魔法使ったら、桜まで感電するだろーが!!)

( そうだけどー・・・うぅぅー・・・。)

 喧嘩の内容が可愛いすぎるんですけど。

( ・・・たまになら変わってやる。)

( やったーーー!!!コタロウ大好き!!!)

( たまにだからな!)


 ツンデレですか?2人の会話を微笑ましくニヤニヤ見ていると、コタロウが止まった。

( ここら辺なら、練習するのに丁度良いんじゃないか?)

 周りを見てみると、少し開けた場所だった。うんうん!ここなら色々練習出来そう!


 でもその前に!休憩がてら、少し早めのお昼にしよう!

 レジャーシートの変わりに、ミレイユさんのお店で買った大きな布を敷く。その上に屋台で買ってきた熱々の串焼きや野菜と豆のスープ、サンドイッチ、デザートのフルーツを並べる。

 コタロウとリュウには、串焼き肉から串を外したお肉をお皿に乗せてあげる。

「沢山あるから、たーんと召し上がれ。」

「「いただきまーす。」」

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