第26話 お爺さんとの邂逅
クッキーを食べ終えた後、孤児院の中を皆が案内してくれる。その中の1つに小さめの礼拝堂があった。祀られていたのは大聖堂で見た女神様ではなく、男の神様。
日本みたいに八百万の神様はいないかもしれないけど、こっちの世界も色んな神様がいるのかな。
この前見に行った豪華な大聖堂より、厳かな空気を感じる。
せっかくなので皆でお祈りをして行くことになった。私もユリアナさんや子供達との出会いに感謝を捧げよう。
( ユリアナさんや子供達と出会えて良かったです。どうか皆が元気に暮らしていけますように 。 )
その瞬間、眩い光が祀られている神様から溢れ出た。思わず眩しくて目を瞑る。
一体何事!?フラッシュ!?いや、フラッシュよりもっと眩しかった。
そーっと薄ーく片目を開けると、そこはさっきまで居た礼拝堂ではなかった。真っ白な空間が果てしなく続いている。
「えっ?私死んだ?」
「死んではおらんよ。」
突然背後から聞こえた声に、思わず悲鳴が出そうになった。
振り向くと、そこには真っ白な髪と長い髭を貯えた、優しげな面差しのお爺さんがいた。孤児院の礼拝堂に祀られていた神様だ。
・・・え?神様?やっぱり私死んだ?
「だからお主は生きておるよ。」
心が読まれた。プライバシー侵害です。
「一応これでもこの世界の創造神なんでな、この世界に住む者の考えは自然と聞こえてくるのじゃよ。」
「その創造神様が私に何の御用でしょうか?」
「まずはお主に謝まらせておくれ。勇者召喚を阻止できず、更にお主を巻き込んでしまい申し訳なかった。」
そう言うと創造神様が頭を下げる。え?どういう事?
「創造神様。長い話になるのですから、お茶でも飲みながら話しませんか?」
わがままボディの金髪美女が現れた。その瞬間、真っ白な世界が急に花畑へと変わった。手にはティーセットとケーキが乗っトレーを持っている。
大聖堂に祀られていた女神様だ!
女神様が1歩歩く度に、足元の草花が元気よく伸び、大輪を咲かせていく。
私がその神秘的な光景に目を奪われていると、気付いた時には目の前に女神様が立っていた。
「さあ、桜さん。こちらへどうぞ。」
女神様の視線の先には真っ白なテーブルクロスのかかった丸いテーブルと、イングリッシュガーデンに置いてあるような真っ白なガーデンチェアが置いてある。
いつの間に!?さっきまでは何もありませんでしたよね?
促されるまま椅子に座ると、私の向かいに創造神様が座る。
「桜さんがお好きなケーキと紅茶です。どうぞお召し上がりください。」
女神様はそう言って、にこりと微笑みながら紅茶とケーキを給仕すると、創造神様の後ろに控える。
「お言葉に甘えて、頂きます!」
久しぶりのケーキをあっという間に食べ終わり、甘い幸せの余韻に浸っていると、創造神様が話し始めた。
「私は創造神ゼノス。こちらは光の女神ディーネじゃ。先程も言ったように、勇者召喚を止められず申し訳なかった。」
ゼノス様が再び頭を下げる。ディーネ様も下げている。心臓に悪いので、頭を上げてください。
「勇者召喚はゼノス様の本意ではなかったという事ですか?」
「うむ。遥か昔、まだこの世界が今ほど成長してなかった頃に、1度だけ召喚した事がある。この世界の人間だけでは中々発展出来ず、停滞していたので困ってな。
地球の神に相談した所、あちらの知識を持った人間をこの世界に召喚する事になったのじゃ。そのおかげでこの世界も再び成長し始めたのじゃが・・・。」
最初の召喚の後、人々は召喚でもたらされる恩恵に味をしめてしまった。発展が止まるとゼノス様に召喚を願うだけで、自ら発展させようという意思は薄れてしまった。
だからゼノス様は異世界召喚を二度と行わないと決めたのだという。
しかし悲劇が起こった。
シューレ王国が召喚者を攫い、その情報を元に数々の非人道的な研究を行った結果、異世界召喚する方法を生み出してしまった。
召喚者達は実験の最中に、命を落としたという。
「召喚者達には、本当に申し訳ない事をしてしまった。」
ゼノス様が項垂れている。
「その・・・大変聞き辛いのですが、ゼノス様はシューレ王国の所業を止めなかったのですか?」
「いくら祈っても異世界召喚を行わない私への信仰心はどんどん薄れていき、今の私には自分の存在を維持するだけの力しか残ってはおらぬ。」
創造神様消滅の危機でした。
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